ミャンマー日記ー辺境へー⑩

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ミャンマー日記ー辺境へー⑩
 

    今夜の宿泊先の小さな町、ティーボー。バス停、といっても中国風の雑貨屋の店先だが、午後八時半頃そこに着く。山間の町で、さすがに夜気は涼しく、肌寒いほどだ。さきほどまで雨まで降ったらしく、道が濡れている。
 

    ティーボーの町は小さく、ひっそりとしていた。夜のせいか、あるいは雨に湿った空気にそんな効果があるのか、店先でお喋りをしている女たちの声まで、まるで噂話でもしているようにひそひそ声に聞こえる。
 

 それにしても、「とうとう来てしまったな」という思いがしきりにする。ミャンマーの山奥の小さな町。辺境の国の辺境の町。旅行者が入っていけるぎりぎりの地点に近く、ここではミャンマーぶりが力をなくし、中国文化の色が濃い。
 

    家はくすんだ色の木造が多く、店先の軒は低い。看板や名札には漢字が使われている。夜の中に影のようになって動いている人々の顔立ちも色が薄く、扁平な作りが多い。灯りは蛍光灯ではなく、赤や緑、青といった様々な提灯が各所に吊るされ、弱々しい光を放っている。
 

 僕はバックパックを背負い、苦労しながら今夜の宿ミスター・キッド・ゲストハウスを見つけた。これまで何度か宿が見つからず困ったので、マンダレーのホテルで予約しておいたのだが、僕の相手をしたゲストハウスの奥さんは苦笑しながら、
 「来られるのは明日だと思ってました」
 と言う。
 

    仕方なく、予約しておいた部屋よりも一段高めの料金の部屋を取ることにする。僕が荷物を置いて夕食を取るためロビーに出てくると、
 「もしレストランをお探しでしたら、ここがいいですよ」
 と、ゲストハウスの奥さんが僕に勧めてくる。シャン料理のお店らしい。
 

    言われた通り行ってみることにする。そこはやはり木造の小さな店だった。店内の天井には数種の提灯が吊るされている。いくらか信用をなくし年もいっているが、それなりに魅力的な人間といったところで、ややもの悲しい雰囲気がある店だった。僕はそこでシャン風のもち米で作ったそばを食べ、ビールを一缶飲んだ。
 

 翌日。
 ラーショー行きのバスが来るバス停はどこかと僕が訊ねると、ゲストハウスの奥さんは、
 「そこですよ!」
 と指差した。バス会社のオフィスはゲストハウスの隣だったのだ。
 

    親切なゲストハウスの奥さんに別れを告げて、僕は道端に仮説テントを作って店を開いているオフィスのベンチに腰を降ろした。オフィスは店の娘らしいまだ十代の女の子がしきっていた。
 

 「バスは何時に来るか、わかる?」
 女の子は真剣そうな顔つきで答える。
 「わかりません。でも、大丈夫ですよ。バスが来たら私が呼び止めますから」
 だが、彼女は手伝いの女の子たちとともに、食事のために店の奥に引っ込んでなかなか出てこようとしないのだった。
 

(続く)
 

シャン州の眺め