奇跡の合格はあるか?
実はあります。
多分、塾でそれなりに仕事をしている人なら、一度ならず見かけたことがあると思います。
私が見たことがあるのは、小5冬から始めて、最初の小6首都圏模試で偏差値45だった生徒が、某御三家中を合格したものです。
そのとき、私はやはり国語を担当しましたが、個別であること、目先の偏差値にあまり左右されないご家庭で、本人含め私への信頼もあったことから、小6初期から関西の難関私立の論説文をひたすら読み込む練習をしました。
理由としては、四科の支えとなる論理力を速成で育てたかったこと、足りない語彙を一気に増やしたかったからです。さらに、御三家必須の記述の基本を書きやすい論説文から取り組ませたかったこともあります。
模試の偏差値は一切気にせず、夏まではひたすら論説文を読み、夏はとにかく小説、特に少年の成長や悩みのものを読ませ、感情とその表出を指摘させ、添った記述解答の作成を行いました。
1日3時間の授業で予習復習前提に小説を2から3本こなしていきました。これを3週間はやりましたので、夏だけで40本近く小説をこなしたことになります。
算数や、算国より軽いとはいえ、理科社会もありましたので、よくこなせたもんだと思います。
夏以降は、過去問を30年分ほど探して来て徹底的に潰していきました。
秋でも偏差値は首都圏で55くらいにしかならず、焦りは募っていきましたが、最後は国語で偏差値65くらい、これでもまだ足りないのですが、恥はかかないかなというところまで伸びることができました。
1月でなかなか合格が取れず、危ぶまれた中での受験でしたが、結果は無事合格。2日校の手応えも怪しい受験でしたので、薄氷を履む勝利でした。
今にして思えば、まあ無茶なことをしたもので、彼の強靭な精神力と、私の若さゆえの思い切りがあってのことだったのでしょう。多分、彼にしか通じない方法で、彼だからこなせたのでしょう。
この指導において、他の生徒にも通じるものを挙げるとしたら、やはり安易に答えを教えず、解答に近いものが出てくるまで考えさせたことです。答えるたびに、それは…という理由でおかしい、などということを言われ、さあ直せとくるものですから、彼は心底参っていたでしょうが、それでも頑張ってくれました。
結局、奇跡と言いますが、結果が奇跡なのではなく、そうした結果を導く過酷な勉強を、なかなか見えてこない中でも信じて取り組むことができたこと、そこに奇跡があるのでしょう。
受験生が、脇目もふらずに信じたことをやり抜く、そうした奇跡の一年を過ごした経験を持って社会を支える大人になることを願ってやみません。