本日は、社会の記述問題についても扱ってみます。
今回扱う問題は、ヒントを与えながら、工業の立地に関して考えさせる問題です。ヒントがあるとはいえ、時代の違いまでも考慮要素になる、小学生にとってはなかなか手ごわい問題です。
さて、中学受験社会では、太平洋ベルトの発展の理由、北九州工業地帯の衰退の理由、瀬戸内、関東内陸、京葉工業地域の発展の理由などで、どういう条件があれば工業が立地するのかを学びます。こうした具体的な学びをいかに抽象化できるかを問われるのが最難関校の恐ろしいところであります。一方で、そのようなことができる生徒が集まる学校での学びへの憧れが生じるところでもあります。
そして、現在、思考力を問う適性検査でも似たような問題が出題されており、適性検査を採用しない中堅校、難関校と呼ばれる多くの学校も、そうした環境づくりに熱意を燃やしており、そうした学校の受験生にとっても縁のある問題になっていくことが予想されます。
ひとつ、頭の体操に取り組んでみてください。より柔軟な思考力のあるな小学生諸君なら、凝り固まった頭の私の解答例よりも、良い解答例が書けるかもしれません。
問題
日本企業は1980年頃から、中国が日本に近いこと、中国には多くの労働者がいること、日本と比較して労働者の賃金が安いことに着目して、中国に工場を作り、製品を生産するようになりました。
その後、中国経済が発展し、労働者の賃金が上がったため、賃金のより安い東南アジアの国々に工場を移す企業も出てきましたが、現在も中国で生産を続けている企業がなくなってしまったわけではありません。
どうして、日本企業は賃金の上昇にもかかわらず中国に工場を残しているのでしょうか。理由を答えなさい。
※問題の改変内容
参照すべき本文につき、著作権上の配慮から、問題を解くのに必要な要素を残しつつ文章を書き改めました。
解説
問題文から読み取れる、日本企業が中国に進出した理由は以下の3点になります。この以下の3点をまず読み込んでみましょう。
①中国が日本に近いこと
→近隣国である中国で生産した場合、販売する日本への製品の輸送費用は安くなります。
②中国には多くの労働者がいること
→中国は世界最大の人口を有する国です。
③日本と比較して労働者の賃金が安いこと
→進出した当時は日本と中国の経済力に差があったためです。
現在では、③の理由が弱くなっています。それは、中国経済が発展したことにより、労働者の賃金が高くなったためです。
にもかかわらず、中国に工場があるのは、①か②、またはその両方について、③が弱くなった不利をカバーする何かがあると考えられます。
ここで注目したいのが、1980年ごろと、現在の違いです。
1980年ごろと異なり、現在は中国経済が発展したとあります。つまり、中国の人たちの所得(稼ぎ)が上がったということです。そうすると、多くの人口がいる中国の人たちに売るために製品をつくるということが可能になります。
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条件① |
条件② |
条件③ |
1980年ごろ |
中国(生産地)は 日本(消費地)に近い |
労働者がたくさんいる |
労働者の賃金が安い |
現在 |
中国(生産地)は 日本・中国(消費地)に近い |
労働者、消費者がたくさんいる |
労働者の賃金は安いといえない |
中国の人たちに売るための製品を作るとき、中国に工場があることは、①の理由、すなわち、作る場所と販売する場所の近さから、賃金が上がったとしても、製品の輸送費用を抑えることができるので、有利になります。
よって、以下のような解答が考えられます。
解答例
多くの人口を抱える中国で販売する製品を生産するため。