本田承太郎は藤堂物産で働くサラリーマン。
研修から戻った承太郎と部下の前田は
人事部の倉持の所へ講義を受けに
やってきました。
第154話:人件費の適正値
倉持部長の講義では予算作成の
ポイントとして人件費の説明を行って
いました。
人件費は変動する費用として
大きな割合で負担になってきます。
人件費のコントロールは
「シフト作成能力」と「調整力」を
鍛えなければ毎日の営業で
どんどん経費が垂れ流しに
なってしまいます。
あるお店の事例で、
こんな事がありました。
お店はフランチャイズチェーン店で
店長異動になり次の新しい店長が
お店にやってきた時の事です。
お店のシフトを見て明らかに
人件費の無駄がありました。
人件費の適正値は企業やお店の
業態によっても違うので
その店ごとに決められているもの
なのですが
お店が流行っていたり
極端に暇だったりすると実際の
営業で必要な人材とは誤差が
あるものなのです。
このお店も、
お店の売上に余裕があって
人件費の目標数値である売上の
30%以内に合わせてはいましたが
所々で無駄に人員を配置して
予算ギリギリまで人件費を
使っていました。
これを見た新しい店長が
人件費を適正に判断してシフトを
絞って作成し直す訳ですが
これを急にやると
問題が色々発生します。
①売上に余裕があるので人員が多い
②人を減らすと1人の負担が増える
③スタッフの不満が発生
④シフトを減らすと給料も減る
⑤スタッフの不満が発生
と言う様に常にスタッフの
不満の対象となります。
スタッフは学生やパートなど
色々な人材がいるのですが
皆お金を稼ぐ為に働いているので
お店の都合はちゃんと
話し合わないと理解してくれません。
問題点は前任の店長の管理が
不十分だった事が原因ですが
スタッフからは前任の店長の方が
自分たちにとっては良かったと
敵対心を持つようにさえなります。
エリアマネージャーなどの能力が
低いとこういう問題は
度々起こるので気をつけたい
ポイントとなります。
倉持
「話しは人件費の適正値に
戻りますが、
皆さんは人件費がいくらなら
適正値なのか解るでしょうか?」
ある学生がこう答えました。
学生
「PLに25%と記入されていたので
大体そのあたりなのでしょうか」
「会社が決めた人件費が25%なら、
それに合わせれば良いのですが
実際にお店を営業して
毎日売上が違うのに人件費が
予定通りに行くと思いますか?」
「思いません」
「ではどうすれば
いいのでしょうか?」
「さっきの話みたいに問題が
起きるかもしれないですけど
人件費を絞って調整しないと
お店が無くなります」
「そうですね。
では具体的にはどうやって
コントロールすれば良いでしょう」
「毎日売上をチェックして
売上が低ければ次の日のバイトを
早く帰らせたりして調整します」
倉持はこの様に全員に質問し
色々な意見が出ました。
「皆さんの考えた事は
間違いでは有りません。
皆さんが行った、
先に起こる問題や売上げを
確認して費用を調整する事こそ
一番大事な事なのです」
倉持は先ほどの事例を
この様に解説します。
会社の人件費設定が30%で
人件費を絞っていく予定を立てる
場合なら、
調整し易いようにシフトを隔週で
設定します。
勤務が1カ月単位でシフト設定
されるお店などは
必然的に人件費のブレも大きく
バイトを早く帰らせたり
急に休ませたりさせなければ
ならなくなります。
アルバイトはお金を稼ぐ脳に
なっている為お金の計算が早く
頭も良いので
お店が流行っている時に
シフトを削られると不満に
思います。
逆に
お店が流行っていなくて
やり繰りに苦労している様子を
店長などから感じると
「仕方ないので協力しよう」
という姿勢を見せます。
シフトを作成する立場にある人は
こういう心理も理解して
シフト作成とケアを行わなければ
問題が頻発する事でしょう。
シフトの隔週作成ではシフトの
人材を集めたり作成時間を取られ
店長の負担は増えますし
なにより
人が集まりにくくなります。
こういったデメリットを回避する
準備をしっかりと出来ていると
数値の調整もスムーズにいきます。
シフトを月に2回15日単位で
設定すると2週分のシフトを
作成する形になります。
負担は少し減りますが、
予算の誤差を修正するチャンスは
中間の1度しかありません。
飲食店と言うのは
「人材が良く入れ替わる」
と言う傾向があるので
シフトの作り方や調整方法
準備とケアの方法を見直して
行く必要があるかもしれないのです。
つまり
人件費の適正値と言うのは
数値のパーセンテージをクリアする
と言う事だけでなく
人の意識やお店の健全性も含めて
考慮していくと
適正値の目標数値自体を変える事に
なるかもしれません。
スタッフが元気に明るく
仕事が出来てお客様も喜んで
再来店してくれるお店作りができる
と言うのであれば
それに掛る人件費の方が
適正なのかもしれないと言う事です。
フランチャイズチェーン店などでは
勝手な事は出来ないかもしれませんが
利益が増えるのであれば
目標数値の変更は通る意見だと
思います。
倉持はシフト作成の難しさを
説明した所で全員に
実際のお店のシフトを予算に合わせて
作成してみるように指示しました。
つづく