前回までのあらすじ:
本田承太郎は藤堂物産で働くサラリーマン。
本田と前田は会長のツテで新たに
業務提携した飲食店経営の会社に
研修へ来ていました。
第236話:手が空いている状態を作る
本田の部下前田は店内研修で
教育係の狭山と一緒に仕入れに来て
ある人に声を掛けられていました。
「狭山君、おはよう」
声を掛けてきたのは競合店の
和食のお店の板長で狭山のお店の
板長である「保利」の友人で
「テルさん」という人でした。
飲食店での仕入れでは市場や
精肉店・魚屋・スーパーなどの
購入先で他のお店の人と
毎日顔を合わせていて必然的に
挨拶をしているうちに仲良く
なったりするものです。
「最近どうですか?」
「良いのが入ってますよ」
と言う様に情報交換を行う事も
良く見られる光景だそうです。
そこでいつも狭山と板長保利の
友人である「テルさん」は
顔を合わせ話をするそうです。
テルさんは
個人経営でお店をやっていて
こじんまりとした和食の居酒屋で
オーナー兼板前をやっていました。
先輩保利の友人と言う事もあり、
仕入れでよく顔を合わす事で
狭山が頑張っている姿を見て
可愛がられていたそうです。
狭山のお店の板長保利は
魚の仕入れに出向くのでこちらの
仕入れには来ません。
そこでテルさんからお店の
情報を聞かれるうちに仲良く
なって行ったそうです。
狭山にとっては忙しい朝の
仕入れ競争の中で声を掛けられ
一秒でも早く店に戻って
準備を開始したいのに
知り合いの先輩とはいえ
あまり時間を取られたく
ありませんでした。
なぜなら、
ここで時間を取られるという事は
自分の仕事時間があとに圧されて
遅れが出てきます。
本来下っ端の見習いは、
早めにお店に来て自分の作業や
先輩の準備を終わらせる事で、
「手が空いている状態」
を作ります。
そうする事で
手が空いている自分に先輩の
仕事を手伝うチャンスが来て
慣れて来たり先輩の信用を得ると
その仕事を任せて貰えるように
なっていくというのが普通の
仕事配分の流れなのだそうです。
仕事を任せた先輩も更に上の
親方や板長の仕事が欲しいので
任せられる後輩がいるなら
自分の仕事を振って
自らは先輩の仕事を取りに
行くものなのです。
それが出来ないという事は
先輩などから仕事に対し
前向きな姿勢ではないと判断され
怒られる羽目になってしまうので
狭山には仕入れ中に世間話を
のんきにしている余裕は
無かったのです。
最近ようやく仕入れの段取りも
慣れてきて先輩から仕事を
振られ始めた狭山にこの日は
テルさんからある事を
言われました。
つづく