前回までのあらすじ:
本田承太郎は藤堂物産で働くサラリーマン。
本田は会社の幹部研修で地獄の特訓
という合宿から戻ってきていました。
第141話:やっている事は洗脳の手法
事業部に戻ってきた本田承太郎も
地獄の特訓という謎の合宿から戻り
部長に報告を終え、
前田と合流して
再び仕事に取りかかるのでした。
本田
「前田、しばらくだったが
予定していた仕事は出来たか?」
前田
「本田課長研修お疲れさまでした、
仕事の方は報告書にしてあります」
本田と共に研修参加して合宿から
戻ってきた長谷部エリア長と先に
出会っていた前田は
「本田課長も人が変わって
いるのではないだろうか?」
と心配していましたが特に
変化はありませんでした。
前田はその事が気になって仕事が
おぼつかないので先に質問する
事にしてみました。
前田
「本田課長、社内でも噂の
研修ってどうだったんですか?」
本田
「そうだな、気になるようだから
少しこの研修の背景を教えようか」
そう言うと本田は前田に研修の
目的と主旨を説明しました。
この人材育成の研修では
企業に新しく入社した新人教育や
幹部候補に対し管理者になる為の
トレーニングを行ったりして
社内で必要な人材を育てる為の
育成目的で参加させるオーナーが
多いと言う事です。
今回、本田の会社である
藤堂物産では初めてこの研修に
参加して
本田達の様な
ロストジェネレーションとも
呼ばれる世代の幹部候補に
矢面が立ったのでした。
人材育成のコンサルタント会社は
大体手法が似ていて人の気持ちを
変化させ矯正していきます。
管理職の質が上がれば当然
部下の底上げにもなりますし
オーナーは安心します。
多少の費用を掛けてでも
社内の内部からの立て直しを
資金があるうちに
補強しておきたいと考えるのは
リスクマネジメントとして
普通の事もかもしれません。
「地獄の特訓」
そう呼ばれる所以は
その人材の矯正方法にあります。
人の性格は簡単には変わらない
と言われるように
その人のこれまで歩んできた
自信と経験という鎧があって
役職者になればなるほど
人の意見に耳を傾ける事が
出来なくなっていくものです。
そこで行われる手法として
半監禁状態の閉ざされた空間に
集団で管理される状態にして
分厚い鎧を崩壊させる作業から
始めて行くのです。
例えば
集団の中で教官は絶対的存在で
逆らえない独裁者です。
その指示で一人ずつ目標を
決意表明させたりスピーチを
させて行きます。
それからスピーチした本人に対し
周囲からダメ出し、指摘、否定を
徹底的やらせてあおっていき
本人の鎧を完全に崩壊させて
いくのです。
スピーチで良い事や理想、
正論を述べようとも否定され
何度もやり直しさせられて
考える力を奪っていきます。
教官からではなく仲間である
集団から指摘され続ける事が
ポイントとなります。
そうして
今まで自信のあった自分の経験や
人間性が崩壊し人の意見が
耳に入る状態になります。
限定した条件=空間・集団・場所
こういう事が本人の視野を
極端に狭めて今いる状況に
集中させる効果があるのでしょう。
この時点で
素直になった人間に更に
自分の非を認めさせたり
スピーチで欠点を言わせたりして
自分に問題発見させます。
こういった心に隙がある状態の時に
「ヒント」を与えて自分で
解決法を発見させていくのです。
本人は自分で行動を決めている事に
なるので洗脳されているとも
誘導されているとも気付きません。
教官は
迷いから道を教えてくれる人
というよりも、
自分で解決できる状況を
作ってくれた人
と言うイメージに近くなります。
そしてその方が深い信頼を
受ける事が出来ます。
解決できない程の負荷と課題を
集団に与えて、
団結力やリーダーシップを刺激し
睡眠時間を自然に削らせて
心身を疲弊させていきます。
そして準備が整ったら
身体や脳が弱ったところに
「思想」を刷り込んでいき
相手を褒めています。
何を言っても否定され指摘され
考えを認めて貰えなかったのに
思想を聞き入れると今度は
褒められるようになる事で
自分でも気付かないうちに脳を
リセットされて新しいデータを
書きこまれた状態になるのです。
要するにやっている事は
洗脳の手法と同じ。
だから世間から「洗脳」と
批判されるのです。
でも、それに需要があるから
そのようなコンサル会社に
儲けがあるのであって
一定の評価も得られている事も
事実なのです。
仕事で良くある「アメとムチ」
これも洗脳の手法ですよね。
正しい状況判断が出来る人間で
こういった知識があるという
人なら本田の様に研修に
参加しても変化が無いのかも
知れないですが
安い賃金で
過酷な労働を強いられている
ブラック企業の従業員でも
文句を言わないのは
こういう取り組みを
企業が行っている背景が
あるのです。
前田
「なんでブラック企業の従業員は
文句を言えないんでしょうか?」
前田がそう聞くと本田は
更に話を続けました。
つづく