前回までのあらすじ:藤堂物産で働く本田承太郎はこの会社で10年働くサラリーマン。
本田は新しいプロジェクトの為に出向いた研修先で飲食店のノウハウを学んでいた。
出向先の加地店長と対立しながらも業務をこなしていたが
ふとした事から数値の異常を発見する・・。
本田
「店長、この数値はいったいどういうことか説明してもらえますか?」
加地店長
「何の話だ?」
本田
「必要な費用に120万もの開きがあるとは思えないのですが」
明らかに動揺した顔で加地店長はこう言った。
「飲食店ていうのは数字に変動があるもので、これもそんなものだ」
本田
「いいかげんにしろ!」
本田は憤慨して加地店長を問いただすのでした。
「誰が見てもおかしいだろう!?大体あんたがやっていることは
独りよがりの行動ばかりで理論も気持ちも感じない!
なおかつ数値管理も出来てないどころかこれはもはや不正だろう!!」
「どういう事か正直に話さないとクビだけでは済まなくなるぞ」
こう言い切った本田の前に加地店長はもはや
言い返す気力は無くなっていた。
崩れ落ちる加地店長に話を聞くと、
食材費の原価の差額を利用した不正ということでした。
飲食店というものは毎日食材などを購入し続けて
加工・調理して商品に変化させるため、購入した単価で
利益がいくらになるかを計算することは非常に難しいのです。
例えばサラダに使う野菜を数種類スーパーで買ったとします。
レタス・きゅうり・トマトなど、それぞれに購入価格があります。
しかし、サラダ1人前350円の商品があるとして
買った食材すべてを使って売るわけでは無いので
1皿売れた時点では利益がいくら上がっているかは把握できません。
あらかじめスーパーや市場などの価格を
パソコンなどに打ち込んで原価計算をすることも出来ますが
理論上の売上となり、食材が腐ったり、床に落として廃棄したり
メニュー開発で使用したりなど
色々な事で使用しますので
レジの売上と食材の消費がぴったり合うことは
普通ではありえないという事が
本田にも理解出来るようになっていました。
しかし、巧妙なのは今回のその手口です。
レジのお金を抜いたり金庫から盗むと窃盗になりますが
食材を管理している立場であれば営業努力とも言える
店長の不正の手法には本田も驚きを隠せませんでした。
何が凄いのかというと、
例えば、
1ヶ月に食材を20万円買ったとします。
その月の売上は100万円でした。
人件費や経費は50万円でした。
では、この月の利益は30万円になるのでしょうか?
答えは違います。
もともと先月までの食材や資材が
お店に残っている状態で、
「買い足したモノに掛かった費用が20万円だからです」
つまり、先月までの冷蔵庫や冷凍庫、
倉庫などに眠っているものの費用と今月買った食材費を足して、
今月残った在庫を差し引く事で今月使用した食材の
総費用を計算することができるのです。
かなりややこしい話ですが、
加地店長の不正とはこれを利用して
先月残った在庫のうちいくらかを、
計上せずに今月の売上計算を行っていたのです。
どういうことかというと、
毎月少しずつ数に数えない在庫を増やすことで
架空の在庫が出来ていき、商品で売れば計算上計上することが無い
売上金ができてしまうということなのです。
これは、罪で言うと業務上横領になるのですが
現場レベルでこれを見つけ出すことはかなり困難なことなのです。
当然加地店長も、
たった数週間研修を行うだけの研修生などに
自分の不正が見破られるとは夢にも思っていませんでした。
そういう人間性の驕りから本田に対しても
横柄な態度を取り続け、挙句に本田承太郎を怒らせたことで
不正が発覚してしまったというわけなのです。
加地店長は泣きながら土下座して本田に言いました。
「本田さんこのとおり、許してください
自分にも養ってる家族も子供もおるんです」
何も知らないうちは本田承太郎も
この時点で加地店長を許していたでしょう。
しかし本田は許しませんでした。
「あんた都合のいい事ばかり言ってんじゃねえぞ、
バイトの子に聞いているぞ、よそに女作って毎日飲み歩いてるそうだな。
その女に貢ぐ金欲しさに不正したんだろう?」
本田がそう言って加地店長を見放そうとすると
次の瞬間驚きの一言が飛び出したのであった・・。
つづく