最低賃金の端数処理の問題について
何日か前に書きこんだことの続き。問題は、
「賃金額=最低賃金の労働者に1時間未満の就労時間があり、賃金額に1円未満の端数が出た場合に、50銭未満を切り捨てても最低賃金法違反にならないか」
というものであった。
端数処理については労働基準法に関して以下のような内容の通達(昭和63.3.14基発第150号)が示されている。
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1 遅刻、早退、欠勤等の時間の端数処理
5分の遅刻を30分の遅刻として賃金カットをするというような処理は、労働の提供のなかった限度を超えるカット(25分についてのカット)について、賃金の全額払いの原則に反し、違法である。
なお、このような取り扱いを就業規則に定める減給の制裁として、法91条の制限内で行う場合には、全額払いの原則には反しないものである。
2 割増賃金計算における端数処理
次の方法は、常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから、法第24条及び法37条違反としては取り扱わない。
(1)一か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に一時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を切り上げること。
(2)一時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を一円に切り上げること。
(3)一か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に一円未満の端数が生じた場合、(2)と同様に処理すること。
3 1か月の賃金支払額における端数処理
次の方法は、賃金支払いの便宜上の取扱いと認められるから、法第24条違反としては取り扱わない。
なお、これらの方法をとる場合には、就業規則の定めに基づき行うよう指導されたい。
(1)一か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には、控除した額。以下同じ。)に百円未満の端数が生じたばあ、50円未満の端数を切り捨て、それ以上を百円に切り上げて支払うこと。
(2)一か月の賃金支払額に生じた千円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと。
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この通達にある、円未満の端数処理の方法をそのまま最低賃金の賃金の端数処理に適用してよいのかどうか(労基法24条、37条の違反としては取り扱わないとあるが、最低賃金法違反とは取り扱わないとはされていない)、それがポイントであった。
先ほどの問に関して言えば、1円未満の端数については50銭以上は1円に切り上げ、50銭未満は切り捨て、とする取り扱いは可であるという結論になると思われる。
、
「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」(昭和六十二年六月一日法律第四十二号)
という通貨の計算方法の一般的なルールを定めた法律があるが、その第3条には以下のように書かれている。
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第3条
1 債務の弁済を現金の支払により行う場合において、その支払うべき金額(数個の債務の弁済を同時に現金の支払により行う場合においては、その支払うべき金額の合計額)に五十銭未満の端数があるとき、又はその支払うべき金額の全額が五十銭未満であるときは、その端数金額又は支払うべき金額の全額を切り捨てて計算するものとし、その支払うべき金額に五十銭以上一円未満の端数があるとき、又はその支払うべき金額の全額が五十銭以上一円未満であるときは、その端数金額又は支払うべき金額の全額を一円として計算するものとする。ただし、特約がある場合には、この限りでない。
2 前項の規定は、国及び公庫等(国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律 (昭和二十五年法律第六十一号)に規定する国及び公庫等をいう。)が収納し、又は支払う場合においては、適用しない。
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この法律に基づき、50銭未満を切り捨てることは違法ではないということができると思われる。
ただし、若干気がかりなのは、「ただし、特約がある場合には、この限りでない」というただし書きである。
特約が有る場合は、このルールは適用しないということであり、労基法のような最低基準を定める強行法規とは性質が異なることがここで示されているわけである。
とすると、たとえば、就業規則等で「円未満の端数は切り捨てて支払うこととする」というルールを定めればこの第3条は適用されず、円未満の端数はすべて切り捨てることも差し支えないということになる。
労基法の割増賃金の計算方法に関しては、50銭以上を切り上げる処理をするということをいわば条件として50銭未満を切り捨てることを認めている訳であるが、割増賃金ではない通常の賃金の端数処理にこの通達が適用されるかどうかは定かではない。
よって、円未満は一律切捨てるという定めを、違法であると断定することはできないのではないかと思われる。
また、余談ではあるが、時間に関しての、30分以上は1時間に切り上げ、30分未満は切り捨てる取り扱いについても、割増賃金の計算に際してのもので、通常の賃金には適用されるどうか定かではない。
もし適用されるとするならばたとえば25分しか仕事せずに辞めて行った者の賃金は0円としても差し支えないということになってしまう。
しかしながら、賃金はやはり全額支払うことが原則なのであり、割増賃金について可とするとしているだけの決まりを通常賃金にそのまま適用はできないだろう。
よって、やはりこの例では最低賃金額×25/60と計算し、円未満の端数を上記の方法で処理するということになると思われる。