第三回目です。
8月ももうすぐ終わりですが皆さんいかがお過ごしでしょうか。暑さに参っていないでしょうか。
今回はちょっとだけ涼しさに関連している話をします。
ガムや歯磨き粉などですうっとするタイプのものがありますよね。そういうものに大体入っているのが「メントール」という物質です。元々は自然からとれるものを使っていましたが,それだけでは需要に追い付かないので人工的に合成して使うようになりました。一般的にメントールと言っている物質は厳密には「l-メントール」という名前で,その構造は炭素でできた六員環から3つの異なる置換基(メチル基:CH3,ヒドロキシ基:OH,イソプロピル基:CH(CH3)2)が生えているという構造です(図1)。
このメントールの性質を決めるのに重要な点は置換基の立体配置です。例えば,l-メントールの分子構造では六員環に対してメチル基とOH基が上向き,イソプロピル基が下向きに生えています。ここでちょっと構造をいじってメチル基とOH基を六員環の下側に,イソプロピル基を上側に向けてみます。すると,それだけで別の化合物の構造の出来上がりです。これはd-メントールという実在する化合物の構造なのですが,2つの構造はどうやっても重なり合いません。そして実際に,置換基の方向が違うという違いだけであるにも関わらず,l-メントールが清涼感のある香りをしているのに対してd-メントールは不快な匂いがするという大きな性質の違いがあります。メントールについてはこのような感じで置換基の向きが違うだけの構造が8種類あります(図2)。しかし,その中で香料などに利用されるのはl-メントールだけです。
工業的に有用なl-メントールだけをきれいに合成できるのが一番望ましいのですが,以前はl-メントールだけをきれいに作る手法が無く,そのため図2に示したような色々な種類のメントールの混合物を始めに作り,それからl-メントールを取り出すという手法がとられていました。しかし,技術は日進月歩していくもの。最近ではl-メントールだけをきれいに作ることができるようになったのです。そのl-メントールの工業的な作り方は下図のようになっています。① 原料(ミルセンという化合物)のアミノ化 ② 水素移動 ③ アミンの加水分解 ④ エン反応 ⑤ C=C結合の水素化という5段階のステップを経てl-メントールが得られます。
さて,前振りが長くなりましたが,l-メントールをきれいに大量に作ることができるようになった要因の一つというのが有機金属錯体の利用で②のステップが可能になったことです。つまり,水素原子を赤色のメチル基の付いている炭素上に移動させ,さらに移動後のメチル基と水素の向きもl-メントールを合成するのに適した向きに制御できるようになったということです。
長くなってきたので今回はここまでにします。続きは次回書きます!
参考文献
メントールの合成について
1) 雲林秀徳,佐用昇,芥川進,坂口登志昭,鶴田治樹 「金属一BINAP錯体触媒を用いた不斉合成技術の開発」 日本化学会誌,1997年,No. 12,p835-836.
2) 芥川進 「不斉異性化反応の開発とその工業化」 有機合成化学協会誌,1986年,44巻,6号,p513-518.
d-メントールの匂いについて(生憎自分では嗅いだことが無くて💦)
3) 株式会社カネカテクノリサーチ様の分析事例 (2018年8月30日アクセス)https://www.ktr.co.jp/analysis/case/case_001.html


