日本代表がカタールに負けたのが悔しい!
どうも高杉です。
次の日はご飯食べられないくらいショックでした⤵
2月といえば節分,節分といえば豆!
ということで,今回は豆に関する有機金属錯体を紹介します。
植物には窒素が必要
植物は光合成をすることで空気中から炭素を取り込みますが,植物に育つのに必要なすべての元素が光合成から得られるわけではありません。リン,カリウム,窒素などは根を通して土壌から取り込みます。畑に肥料を撒くのは土壌のこれらの元素を補充するためです。
肥料に含まれる元素の中で一番人類を悩ませたのが窒素でした。初めは南米からチリ硝石,次いでグアノ(鳥の糞や市街の堆積物)を輸入して肥料に使っていましたが,これらの窒素源はあっというまに枯渇していしまいます。肥料が無ければ作物が作れない。作物が取れなければ人が飢える。しかも人口は増えているからこれからもっと食料が必要になる。このままではだめだ,何とかしなければ・・・ここまでが19世紀末くらい(第一次世界大戦よりちょっと前)の話です。
ハーバーボッシュ法
この時に考えられた解決策はずばり「空気中の窒素分子をアンモニアにすればいいんじゃね?」というものです。窒素分子は空気の80%を占めるどこでも手に入る化合物で、それをアンモニアにして肥料に使うというわけです。そして,これを実現した方法が高校化学の教科書にも載っている「ハーバーボッシュ法」です(式1)。この方法で人類は空気から肥料を得ることができるようになり,この手法は「空気からパンを作る技術」とも言われました。また,このように空気中の窒素を他の化合物に変換することを窒素固定とも言います。
実現したんです,と書いてはみましたが,N2はものすごく安定な分子なので、そのN≡N三重結合を切断してアンモニアにするのにはとてつもない苦労があったようです。この辺りは本やネットにもよく載っているので興味があったら調べてみてください。とにかく、ハーバーボッシュ法のおかげで地球上にこれだけの人口が暮らすことができ、そういう歴史的なインパクトがハーバーボッシュ法が高校化学の教科書にも載っている理由なのかなと思います。
ただ欠点もあって、ハーバーボッシュ法は実はめちゃくちゃエネルギーを使います。それはものすごい高温高圧で反応をしているから,ではなくて,原料のH2を作るのにエネルギーが必要なんです。人類が1年で作り出すエネルギーの約1%がハーバーボッシュ法に使われ,さらにハーバーボッシュ法に使われるエネルギーの98%がH2製造に使われています。
豆は窒素固定している
ここまで人間がどうやって窒素固定をしているのかをつらつら書いてきましたが,実は植物の中でもマメ科の植物は窒素固定をすることができます。マメ科の植物は根粒菌という微生物と共生しており,その根粒菌が持つ「ニトロゲナーゼ」という酵素がアンモニアを作ることができます(式2)。ハーバーボッシュ法と違い,窒素分子とプロトン(H+)からアンモニアを作り,副生成物としてH2一分子を与えます。そして反応は常圧常温(普段私たちが暮らしているような圧力と温度)で進行します。人間がすごい苦労して窒素固定をしているというのに,植物はそれをいともたやすくやってのけるわけです。そこにしびれる(ry
このニトロゲナーゼの活性中心(アンモニアの合成が実際に起こっている場所)がどういう構造をしているかというのつい最近分かったことで,鉄とモリブデンを含む多核錯体であることが明らかになっています。(図1)。というか,何をどうすればこんな構造の化合物ができるのか(笑)
図1. ニトロゲナーゼ中の窒素固定反応の活性点(文献1より引用)
人類も頑張れば根粒菌みたいに常温常圧でアンモニア合成をできるのではないか。そうすれば高温高圧に耐えられるような特殊な容器を使わず,かつエネルギーを大量に消費するH2を製造するプロセスも必要なくなります。多くの有機金属化学者が実はこの課題に挑んでいて,2003年にマサチューセッツ工科大学のR. R. Schrockが常温常圧で初めての触媒的アンモニア合成に成功しました。このSchrock先生は有機金属化学の大御所で,2005年にはメタセシス反応に関する研究でノーベル化学賞を受賞しています。図2に示すようなモリブデン窒素錯体が触媒として使われており,ついに人類も常温常圧で窒素固定を!となったのですが,やはりそう簡単にはいかず。この反応,触媒1分子当たり8分子のアンモニアしか作り出せませんでした。それでもすごい成果だということには変わりないのですが、実用を考えるとあまりに効率が悪いです。
図2 Schrockのアンモニア合成触媒(文献1より引用)
有機金属錯体は配位子をいろいろいじって性質を変えることができるのが利点ですが,その分オーダーメイドで作られた配位子はやはり高額になります。なるべく一分子で多くの目的物を作れるようにしたいです。ちなみに以前紹介したメントール合成で使われるBINAP-Rh錯体は一分子当たり300000分子の目的物を作れるそうです。
有機金属錯体触媒を用いた実用的なアンモニア合成はまだ達成されていませんが,様々な中心金属,配位子,反応条件などが検討されています。現在のレコードは東京大学の西林先生の研究で,触媒一分子あたりアンモニアを830分子作れるようになったそうです(図3)。8分子が830分子になるまで10年くらいです。金属と配位子の組み合わせなど言ってしまえば無限にあるので,特にこのアンモニア合成みたいなホットな分野では「こういう方針でやればいい」みたいなことが分かると様々な組み合わせが試されてあっという間に研究が進んでいきます。こういうところで研究者同士の熾烈な競争が起きるわけです。なんと殺伐とした研究生活か!
図3. (文献1より引用)
自分は結構興味が赴くままに実験をするタイプだったので、触媒反応みたいに明確な目標(ノルマ?)が定まっている研究を見るとちょっと物怖じしてしまいます。ただ、そういう研究の仕方でしか味わえない面白さややりがいもあると思います。もしこれから化学の道に進む人がいれば、自分がどんな研究をしたいかだけでなく、どんな風に研究をしたいかも考えてみてはいかがでしょうか。
今日はここまで。
参考文献
1) 西林仁昭「遷移金属窒素錯体を利用した触媒的窒素固定法の開発」Bull. Jpn. Soc. Coord. Chem. 2017, p49-55.
2) 大木靖弘「ニトロゲナーゼ活性中心の構造と機能に関する新展開」Bull. Jpn. Soc. Coord. Chem. 2015, p26-30.
3) 田村隆「ニトロゲナーゼの窒素固定と水素生産の電子機構」ビタミン 2015, 8, 409-412.
4) D. V. Yandulov, R. R. Schrock, Science 2003, 5629, 76-78.





