最近はめっきり冷えてきましたが,皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
冬も本格的で,私が住んでいるところも最近は雪が降ったりします。
ちょっと化学的な視点で見ると雪は氷の結晶,もっと言えばH2Oの結晶です。地表の水が水蒸気として蒸発して雲になり,それが固体として落ちてきたのが雪,雪は最終的に溶けてまた液体になります。水は融点が0 ℃,沸点が100 ℃と私たちの日常生活中で達成できる温度なので,水が固体や気体に変わるのは感覚的にもなじみがあるかと思います。
一方,金属や金属化合物なんかは基本的には固体である印象が強いと思います。実際に,例えば純粋な鉄の融点は1538 ℃で,日常生活の中で鉄が溶ける場面はちょっと想像しづらいです。工業的には溶かして方に流しいれて鋳物を作るなど,加工のために液体状態で取り扱われることもありますが,そうコロコロ液体や気体に変わることはありません。ただ,少数ですが水銀のように常温で液体の金属もあります。水銀はガラス温度計や気圧計等に使わています。(毒性等の問題で現在は代替品の使用が進んでいます。)同じような感じで,有機金属錯体も固体のものが多いのですが,液体や気体として利用されているものもあります。
その中で一番有名なものは恐らくニッケルカルボニル。構造はいたってシンプル。ニッケルに4つのカルボニル配位子(CO,一酸化炭素のこと。金属に配意している一酸化炭素をカルボニル配位子と呼ぶ)が付いているだけ。水素原子を含んでいないので厳密には有機金属錯体ではないのではないかという細かい疑問はここでは置いておきます。一応金属-炭素結合あるし。
この錯体は,元々工場の配管が腐食する原因を追究する過程で得られたものです。ニッケル製のバルブがやけに早くボロボロになってしまう。調べてみるとバルブの表面には炭素の粉が析出している。どうも酸化ニッケル存在下だと一酸化炭素が炭素と二酸化炭素になるらしい(式1)…という風な流れでじゃあ金属ニッケルと一酸化炭素はどうなるのかやってみたそうです(式2)。この反応では炭素は生成せず,代わりにNi(CO)4が沸点なんと43 ℃の液体として得られました。つまり,ニッケルカルボニルは金属化合物でありながら室温では液体,ぬるま湯くらいの温度で沸騰して気体になります。ちなみに-25 ℃まで冷やすと針状の結晶になるそうですが,逆に150 ℃まで加熱するとニッケルと一酸化炭素に分解します。
このようなニッケルカルボニルの特性を生かして作られたのがモンド法というニッケルの精製プロセスです。すごいざっくり説明すると
①ニッケルを含む鉱石をCOガスと反応させNi(CO)4を作る。
②Ni(CO)4だけを取り出し,それを強熱してNiとCOに分解させる。
③きれいなニッケルが得られる。発生したCOガスは①で再利用する。
というプロセスになります。ニッケルはステンレス鋼,電池,メッキ製品など様々な製品の製造に使われていますが,それらに使うための純度の高いニッケルを得るためにニッケルカルボニルの性質が活かされています。
ただ,ニッケルカルボニルには大きな欠点が一つあります。それは毒性です。沸点が低いために容易に気化する上に,発癌性も疑われており,取り扱いの際には身体とのあらゆる接触を避けることが推奨されています。まあ普通に暮らしている分にはニッケルカルボニルに触れる機会なんてまずありませんが,例えば工場などでニッケルの精製やニッケルを使った製品の製造に従事している方なんかはこういうことにも気を付けているはずだと思います。あと有機合成でも昔はニッケルカルボニルを使用することがあったみたいなのでもしかしたら有機系の研究室でも置いているところがあるかもしれません(私が所属していた研究室にもありました。実際に使っている人は見たことないですが...)。
兎にも角にも,液体・気体として利用されている有機金属錯体の話でした。
毒性もあって沸騰しやすいし蒸気暴威に使ったら強いんじゃね?
明日から帰省します。
年内はこれで最後の更新にします。皆さん,よいお年を!
参考文献
1)J. Wisniak, Educación Química 2006, 17, 464-476.
2) The Extraction of Nickel from Its Ores by The Mond Process, Nature 1898, 59, 63-64.
3) 国際化学物質安全性カード,ICSC番号:0064.



