一貫堂医学は漢方を勉強している人間なら一度は触れたことがあると思う。
その一貫堂医学の代表方剤の1つ、荊芥連翹湯
昔は生薬構成を見ても、何をどうしたいのか全く分からなかった。
なぜ清熱剤の中に、温性の四物湯が配合されているのか?
四物湯の芍薬は赤芍、地黄は乾地黄で涼血を目的に使用していると説明されるが、んなことあるかいな。。。
どう考えたって温性でしょ。特に現代のエキス剤では。。。
ましてや処方が頻用された時代背景として「結核」が流行った時代であり、その解毒を目的に多用され、その後、結核が減ってきてからはアトピー性皮膚炎や慢性鼻炎、気管支喘息などのアレルギー体質に用いられてきた。
また解毒症体質を3つのステージ、柴胡清肝散証、荊芥連翹湯証、竜胆瀉肝湯にわけ、それぞれ小児期、青年期、壮年期にほぼ対応するとした。
中医学から東洋医学を学び始めた自分にとって、これほど理解しにくいことはない。
なんでそんな分類されんねん!
みたいな。
でも実際に臨床に使うと、『これほど効くとは!』と感嘆さえする優れた方剤であることも事実。
この3つの分類は、臨床を重ねれば重ねるほど、実に合理的であることに気づく。(ただしそれを鵜呑みにして、臨機応変出来ないのでは話にならない)
小児はまだ体内毒素の蓄積量が少なく、さらに汗・尿・便からの解毒ルートが未発達であることから、柴胡清肝湯で中和する。
青年期は体内毒素の蓄積が徐々に重なるが、その影響はあくまでも気分レベルであり、尿・便からの解毒ルートを使うよりも汗で発表させて表から抜くほうがより効率的である。従って荊芥連翹湯がよい。
壮年期は体内毒素が蓄積し、影響が気分を突き抜け、血分にまで及び、血熱などの血毒を含むようになる。したがって表からの解毒だけでは到底間に合わず、血分の汚れを気分に持ち上げ、さらに毒が重濁であることから尿・便(つまり肝・腎)から抜くほうが合理的となる。
一貫堂では、年代による毒の質、量、性質、重濁度、範囲を考慮した上で、それぞれに適した解毒法を提示してくれている。
つまり、アレルギー疾患などで相談に来られた場合には、その当人の年齢なども考慮し、どこから解毒するかを考えろよと教えてくれているのである。
ただそれをルール化し、頑なに守るようなバカなことはせず、何事も柔軟に考えることも必要である。
例えば、昨年に例示した2歳の女児の全身脱毛症。
2歳と言えば小児期となり、柴胡清肝湯が適応となる年齢だ。
この女児は、別に大したストレスもなく、成長も問題ないにもかかわらず、何かのきっかけで頭髪が抜け始め、それが全身に及び、西洋医学では頭皮にステロイドを塗布しつつ、赤外線で治療する対処療法しかできず、全く効果がなかった。
これを中医学的に弁証してみろと言われても、脱毛がある以外、全く何も所見がない。(腎虚も血虚もなにも・・・)
中医学的にはお手上げだ。。。
そこで『傷寒論雑病論』に則り、桂枝加竜骨牡蠣湯などを使用するも全くの無効。
そんな中、思案して辿り着いたのが西洋医学的発想からの一貫堂理論。
この女児の脱毛の問題は、毛根細胞に対して自身のリンパ球をはじめとした免疫細胞の誤爆。つまり自己免疫疾患であり、炎症、アレルギーの1種だ。
その免疫の誤爆の程度を軽減するために、西洋医学ではステロイドを使用している。
とするならば、この免疫の誤爆のベクトル性を変え、毛根細胞への攻撃性をなくしてしまえば、脱毛は自然に治まるはずだ。
そしてこの女児は、毛根にある種の毒が溜まり、その毒を制するために免疫が働く。(この毒が皮膚に溜まれば、皮膚炎となる。)
従って、この毒を解し、毛根への攻撃を落ち着かせれば、問題は解決するはずと考え、病態が表にある体毛であることから、発表して解毒すべしと考えて「荊芥連翹湯」を選択。
まだ幼子であるため、中気の保護、および体毛の発育を促す目的で「補中益気湯」を加味。
荊芥連翹湯合補中益気湯として処方するとたちまち体毛および毛髮が生えてきて、半年余りで医師から完治と言われるほど、ものの見事に生えそろってくれた。
これから先、成長していく過程で小学校に入学したり、新しい環境の中でストレスを感じたら再発する可能性も捨てきれないので、しばらく継続したほうが良いとアドバイスを行い、同処方を継続中である。
臨床で、この一貫堂医学の世界を展開できると、理論・実践の幅が大いに広がることは間違いがない。時代背景がいかに代わろうとも人間自体の機能と構造は変わらない。それを応用できると、実に素晴らしいものだと理解できるのが、一貫堂医学なのである。