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約1年ぶりの更新。

久しぶりに自分のブログを見ると、ここ数年、「のぼせ・火照り」関連の症状になやまされているわけね・・・

 

去年の春の「のぼせ・火照り」は香蘇散で落ち着いた。

 

そこからはそんな不快症状もなく過ごしていたが、11月の終わりごろから、再び強烈な「のぼせ・火照り」が起こるようになる。

 

しかも今までとは感覚が違う・・・

 

どういうこっちゃ!?

 

今回の症状は頬部・眉間・眼球付近という超局所で超強度な「のぼせ・火照り」。

 

患部は見事なまでに赤く色づく。

 

症状の増悪因子

・ 昼食後

・ 紫外線

・ 赤外線(直射日光・赤外線ストーブ・石油ストーブなど)

・ 空気がこもる環境(車内など)

・ アルコール

 

不変因子

・ 運動

・ 入浴

・ 朝食後・夕食後

 

以前と同様に香蘇散を服用するも、今回は無効。

 

おいおい、「証」変わったんかい!

 

いや、これほどまでに強烈な「のぼせ・火照り」はさすがにヤバい。しかもちょっとした刺激で一瞬で出現し、なかなか消退しないから厄介だ。

 

症状は必ず昼食後に出てくるのに、朝食後・夕食後には出てこないというメカニズムもいまいち理解できない。紫外線・赤外線の外的因子に刺激されて出現し、かつアルコールを飲んでの内的血行促進作用で出現するのも理解できるが、運動や入浴では悪化しないのはなぜか???

 

患部は如実に赤味を呈するため、顔面の局所毛細血管血流が増加し、血管拡張に伴って熱をもって症状が出現するというのは明らか。

 

しかも症状が起こりやすいときは、「座りっぱなし」の時、で同様の状況でも外で立ったり、歩いたりしているときは出にくい。そのときは帰宅後に座って休憩しているときに症状が出てくる。

 

直射日光は1分程度でもうダメ。冬季なのに少しの外出でも日焼け止めを手放せない。

 

もともと光線過敏症は持っていたが、こんな敏感なことはなかったし、過敏症に伴って出てくる痒みやヒリヒリ感とは性質が違いすぎる。

 

同じ赤外線ヒーターでもコタツでは全く症状が出ないということもある。

 

逆に症状が出たときに、冷風にあたる、窓を開けたりして外気を取り込むなどすると症状は楽になる。

 

 

これらの所見を総合すると、「冷気・外気」にあたると症状が緩解し、「熱刺激」では症状が悪化する。また入浴・運動で発汗を伴う場合、汗から熱が放散するため、症状は悪化しないということは理解できる。

 

さらに昼食後のみ悪化しやすいということは、陽明の熱が盛んな時と読むことができ、この「のぼせ・火照り」は陽明病の悪熱なのかと考える。。。

 

患部は陽明胃経の流注付近でもある・・・

 

でも前回、香蘇散を使ったときに石膏製剤を服用しても、「のぼせ・火照り」は取れなかったですやん。。。

 

ほな、中西医結合で血管系から病理を考えると、熱刺激によって毛細血管が拡張し、動脈血が目の周囲で渋滞することによって赤味・火照りが出現するのか?

 

ということは、血熱か?

 

血熱なら出血傾向があるはずだが、そんな所見あったかいな??

 

と考えると、あったわ!

 

空手でたいして激しく殴ってもないのに拳が内出血しまくったり、口腔内に硬い食べ物が軽く当たっただけでも血豆ができたり・・・

 

その所見を繋げたら、「血熱」で三物黄芩湯か!?

 

 

 

いや、待て。そしたら何で昼食後にだけ症状が出るわけ?? 

 

血熱なら「夜間」に症状が出やすくなってしかるべきで、布団に入ったらのぼせ・火照りが出てくるとかがもっと前面に出てきてええんちゃうの??

 

でもないで・・・

 

 

う~ん、もうちょっと冷静に考えようか。

 

今、この症状は「熱邪」によって引き起こされていると考えているが、本当にそれでいいの?

 

なんか、「冷え」の症状はないの??

 

普段から運動しまくってるし、なんやいうたらすぐに暑いし、冬でもフローリングは裸足でへっちゃらやし、靴下きらいやし、冷えてはいないと思うけれど・・・

 

冷えるというなら、寒くなっても「冷飲」するくらいか。

 

もともと腹は弱いから、下し気味で胃腸が冷えてるとかどうでもええし。

 

さ~、今回の症状は、漢方で治せるんかいな?

 

答えがわからん!

 

 

 

 

 

ということをさんざん考えまくって、もうちょっと思考をダイブさせていこう。違う視点から考えてみようか。

 

とにかく1日の中で一番悪化を感じて、パターン化できるのは、昼食後の悪化だ。

 

このとき昼食を摂った直後に猛烈に主訴は悪化する。このときの随伴症状はないのか??

 

いや、あるわ。

 

普通、食事を摂ったら、消化管運動によって内臓から発熱し、その熱が血流にのって全身をめぐるため、全身的に温かくなるはず。でものぼせ・火照りが悪化する昼食時だけは、下半身がめちゃくちゃ冷えてる。芯から冷えている感じではなく、体表が冷えている感じが強い。

 

このときに毛布などを足にかけても冷えは取れない。

 

赤外線ヒーターでも冷えは取れない。

 

ゆいいつコタツの中にいたら、冷えは出ないし、そのときは主訴の悪化も少ない。

 

ということは、内的条件として、昼食後の悪化の病理は、消化管運動に伴う熱が下半身に行かず、行き場を失って上半身、とくに顔面に集中することによって症状が起こる。

 

このときコタツに入って下半身が冷えないように温めておくと、血と熱が下半身に巡るため、相対的に上半身過重にならずに主訴が起こりにくくなっている。

 

ほかの暖房器具では、温められた空気は上に行く性質を持っているから、下半身ではなく上半身に作用して、結果、主訴を悪化させる要因になる。

 

つまり、外的な紫外線や赤外線による患部の直接刺激は、「主訴悪化の条件」ではある。さらに冷気・外気は「症状緩解の条件」ではものの、これを病理に組み込んだ、「石膏製剤」等では症状は不変であることから、これらはあくまでも二次的要因であって、病の根本ではないということを理解しておかなければならない。

 

その上で、平素から「冷え」の所見はほとんどないものの、内的要因として主訴の病理が反映されるのは、「昼食後の悪化」のみであり、その時に生じる「下半身の表面的な冷え」が主訴の病理の一部を表現している。

 

 

う~ん、これはかなり難しい病理解析だぞ・・・。

 

たぶん自分の身体だからこそ、そこまで深く考察できるだけで、これが相談者の場合、何を病理に組み込んで、何を除外するか、何が病理の根幹を表現しているのか、理解するのに相当時間がかかるだろう。

 

しかも「のぼせ・火照り」でここ数年、これだけ病理的変化があると、過去の病理解析に引っ張られて、なかなか組み立て直すのも難しい。

 

今回は香蘇散が効かなかったわけだから、そこには病理変化があるし、中年以降になると年齢に伴う体質変化も激しいだろう。

 

 

 

 

ということで、結局、こういうことをウダウダ考えて、下した結論が「温経湯」。

 

これでバッチリ、暖房器具をつけようが、アルコールを飲もうが、直射日光に当たろうが、強烈で不快な局所的のぼせ・火照りの症状はなくなりました。

ちなみに随伴症状の昼食後の下半身の冷えもなくなったし、空手での内出血傾向もなくなりましたよ。

 

 

温経湯は『金匱要略』の「婦人雑病」で出ており、不妊症や月経のトラブルなどで使われているので、女性にしか使えないと思っている方もいると思いますけど、全然、男性にも使えますね。まぁ、ネットで調べれば、温経湯のことはなんぼでも情報が出てくるので、書きませんけどね。

 

温経湯は呉茱萸・生姜・桂枝が配合されているので、慢性的な冷えに使う方剤という認識があると思いますが、慢性的な冷えのみならず、今回のような一定の条件下における病理的な冷えにも使える大変便利な方剤なので、知っておいて損はないと思います。

 

まさか自分が温経湯証になるなんてことは思いもしなかったです。

 

普段から寒くても靴下すらはかなくて大丈夫、しかも頭痛などの痛み系もない、運動して体力にも自信のある自分がなぜに温経湯証?、自分が温経湯証なら、先人が残した口訣は一体何なんだ??、全然当てはまらないですけど!と言いたいところなんですが、昼食後の悪化という特徴的な所見を通じて病理解析をすると、温経湯証なんだから仕方がない。

 

 

ということで、主訴を中心に病理解析をすることは弁証論治を行う上での基本となるわけですけど、全体的にフワッとした病能把握でもOKな場合と、今回のように細かな部分まで切り込んで、全身と局所を切り離し、主訴とつながらない条件はバッサリと切りつつも、つながりを持っているところは突き詰めて分析するという場合をうまく使い分けることができれば、もっと漢方を効かせられるようになると思います。

 

そういう意味で、自分の身体を通じてまた1つ勉強になりました。

 

 

数回に分けてブログを更新するのもなんだかな~と思ったので、一気に書き上げましたが、次回はいつの更新になるのでしょうか・・・

 

すべては僕の気分次第ですね。

 

おしまい。

自身ののぼせ・火照りに対して「香蘇散」を選択し、服用開始後1か月が経過。

 

結果は・・・

 

ものの見事に的中し、のぼせ・火照りはほぼほぼ消失。

 

直射日光に当たっても、閉ざされた車内に長時間いても症状は出現せず。

 

おまけに気分もさっぱりした心地よい感覚となり、重苦しい精神状態からは解放されたようだ。

 

当初は上焦における熱の鬱滞と考えて、石膏製剤を服用したものの、石膏では熱が取れず、逆に熱がこもりやすくなって、のぼせ・火照りが悪化。

 

これは肺・胃の経の清熱によって表の衛気の巡りが停滞してしまい、結果、衛気気滞を助長して悪化したものと考える。

 

またその結果を受けて、上焦の熱を下に落としつつ、上焦に熱が停滞しているのは膈の詰まり、肝鬱気滞があるとし、重苦しい精神状態も弁証に組み込んで「柴胡加竜骨牡蠣湯」を服用してみたが、これも逆効果。

 

肝気を緩めすぎ、無力感・無気力感が強くなり、何もやる気がしない状態に陥ってしまった。

 

昔、どこかの漢方専門医が柴胡加竜骨牡蠣湯を2倍量使っても、全く効かないなどと述べている記事を見たことがあるが、んなことは絶対にありえない。

 

柴胡加竜骨牡蠣湯はこんなに疏肝理気して、緩ませるのかと思い知った。

 

それくらい悪い意味でもいい意味でもよく効いた・・・。

 

この結果を受け、表も裏も関係なく、疏肝理気するのは間違いで、気滞ではあるものの、それはあくまでも衛気の気滞であると考えた。

 

ここに水の停滞も伴えば、「参蘇飲」を選択していたと思うが、上焦の水の停滞(頭冒感や頭重感、めまいなど)はなかったため、気滞単独として、気滞表証にも用いられる「香蘇散」を選んだ次第である。

 

副次的な嬉しい効能として、いつもならこの季節、花粉症が爆発して目痒、鼻水が止まらないのだが、今年はほぼその症状に悩まされることなく過ごすことができている。

【コメント内容】

数ヶ月ぶりのブログ記事更新、嬉しく思います。

以前アドバイスいただきました、脱毛の相談者は残念ながらその後来なくなったので、結果を廣田先生にご報告差し上げることができませんでした。
が、先日に別の相談者からの円形脱毛について漢方治療を行う機会があり、廣田先生にご教授いただいた『絡』を意識して、また気血両虚の体質もあったことから
【冠心二号方】と【婦人宝】
で脱毛は10日もすれば止まり、1ヶ月服用後には完全に髪が生え戻りしました。
お陰様で信頼を得ることができました、ありがとうございますm(__)m


もし僕が本記事の相談を受けたなら、「寒暖差の場所・肩こり・頭痛・吐き気」と聞けば短絡的に肝経の冷えに効く呉茱萸を連想して、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を処方してしまいそうです。
記事には寒熱に関しての情報がなかったことから、少なくとも相談者の体感として冷えはなかった、ということでしょうか。

また、僕の場合は交感神経の興奮というと、(加味)逍遙散・第一加減・血府逐瘀湯がほとんどなので、滋陰至宝湯はなかなか頭に浮かんできませんが、今回の廣田先生の症例により、使用法のヒントが得られました、ありがとうございます。

 

 

 

【コメントに対する考え】

相談者には自覚的冷えあり。(特に下半身)

 

なぜ呉茱萸配合方剤にしなかったか?

する必要がない。

 

当該相談者には下半身に冷えを感じるという訴えはあったが、これは完璧に平素からの運動不足による血行不良によるものと考えてよい。

だいたい現代人は慢性的な運動不足で末梢血管の萎縮、全身の血流停滞傾向が顕著にある。筋肉を動かさないので、心臓だけで頑張って血を巡らせようとしているが、そもそも心臓だけで血液を動かそうとするのに無理がある。

 

運動していないので、心拍出量も少ないし、心拍数も上がらない。つまり「心」の力が弱すぎる。

 

そのくせ欲に負けて「食べる」傾向があるので太る。

 

血流が停滞し、汚れが血管内部に蓄積し、さらに食べるので汚れがたまる一方だ。

 

しかも汚れが溜まるせいで、新鮮な栄養も届きにくくなるし、代謝は落ちてエネルギー効率は悪くなるし、運動しないので呼吸も浅くなって酸素の利用率も減る。

 

今は昔と違って、上述のように生理・解剖・生化学などなどの知識を使って分析できるのだから、昔と違ってこの分析を元に当該相談者の体質をもっと深く考察することができるはずだ。

 

そもそも昔の人は不便な世の中にあり、もっと身体を使っていたので、運動不足などという概念がなかったと思う。

 

食糧不足による栄養不良はあっても栄養過多はほとんどない時代だし、寒熱に関しても、冷房も暖房もない時代はもっときつかったはずだ。

 

そう考えると、自覚的な冷えがあったとしても、『黄帝内経』『難経』『傷寒論』などが書かれた時代、それ以降の時代と比べると、その意味合いは全く異なる。

 

冷えという言葉の意味合いが今と昔では違いすぎる。

 

だから冷えがあったとしても、呉茱萸が本当に必要な冷えはそんなに多くないし、上述のタイプのような人に呉茱萸を使っても効果を発揮しないばかりか、上の熱証を煽ることにもつながりかねない。

 

 

 

慢性的な運動不足から生じる循環不良に伴う冷えなのか、寒邪が血脈に停滞しての冷えなのか、このあたりは冷静に判断したいところだ。

 

今回の症例では、明らかに前者であり、しかも舌の乾燥という陰虚症状で地黄までは必要のない程度と判断したため、半夏配合の小柴胡湯加減や地黄配合の血府逐瘀丸ではなく、食欲はあり、便通も問題ないことから肝脾不和の逍遥散でもなく、肝鬱気滞、肺腎の余熱、肺陰不足、化痰の滋陰至宝湯を選択した次第である。

 

呉茱萸がフィットするような人は、煤けた暗い肌色ではなく、もっと血色のない肌白い人と想像するが、方剤中の配合で変化するが当たり合えなので一概には言えない。