
養護学校での4年間の経験は貴重なものであった。しかしその反面、普通小学校で必要とされる集団を統率する教育技術を身につける機会なく、私は転勤となった。
受け持った学級は5年3組。32名の子ども達が待っていた。
それまでの4年間は、直接担任していた生徒が3~4人だったので、一気に10倍もの人数を相手にしなくてはならなくなったのである。これは大変なことだった。
新任教員であれば「分からない」で済むことがある。しかし私は新任ではなく、4年間も教員経験を積んで異動した教員である。「分からない」は通用しない。
一人一人を奥深く見つめていく目は、私の中で確かに育っていた感じがする。例えばウソのような話だが、廊下を歩いてくる児童の足音で体調や気分の良し悪しを聞き取れた。研ぎ澄まされるというのはすごいことだ。
元気な小学生たちは本当に可愛かった。こんなに楽しい仕事は絶対にないと心から思った。元気が何よりだと信じていた。教室にいても楽しかった。ところが1回目の授業参観で目を覚まされた。参観直後の保護者会で口々に指摘された。
「先生の授業は、子ども達が勝手に話をしたり後ろを向いたりしている。こんなにうるさいクラスを見たことがない。」
子ども達が元気で楽しそうにしているクラスという“おほめの言葉”をいただけると信じていた私は、まさか厳しい指摘を受けるとは予想もしていなかった。私は完全に“自己満足”をしていたのだ。
この日から自分との戦いが始まった。
(つづく)


