前項まででお伝えしたように、横田増生『中学受験』は非常に貴重な内容を含んでいます。
しかし、私なりに疑問に思う点もあります。
最後にこの点について述べてみましょう。
1.公立中高一貫校に甘いのでは?
一つは公立中高一貫校に甘いのではないか、ということです。
著者は、当初、私立校を「楽園」のように思っていたと言います。
「受験情報」の影響をまともに受けたからですが、このため子どもさんを中学受験させようとします。
しかし、この過程で疑問を抱き取材を開始、本書の執筆に至ったというわけです。
そういう経緯もあるのか、公立中高一貫校にかなりの期待を寄せています。
しかし、ジャーナリストのこういう姿勢は、今度は公立中高一貫校が「楽園」であるかのようなイメージをふりまきかねないのではないでしょうか?
しかし、そもそも学校が「楽園」であることはまずありません。
本来、多様性に富んだ子どもさんを、ある社会的なシステムに馴致させる機関だからです。
勿論、それは社会的に必要な存在なのですが、常に子どもさんの個性・人権の侵害と紙一重です。
大人がよかれと思ってやったことが、結果として子どもさんを傷つけていたということはどの学校でもあり得ます。
本来、こういう問題が起こらないように監視するのが、ジャーナリズムの役割ではないでしょうか。
著者の姿勢が、ジャーナリズム本来の機能を鈍らせないか、危惧します。
2.「結果不平等」は簡単に言えるか?
著者の教育に対する基本的立場は次のようなものです。
「教育における機会の平等が保障されているのなら、結果として不平等が生じたとしても、それはやむをえない」(186頁)
この立場は前述の公立中高一貫校への高評価ともつながります。
私自身も一般論としては、著者の立場を否定するものではありません。
しかし、日本の現状で簡単に口にしていいのか、という疑問があります。
なぜなら、日本における教育の「結果不平等」は、一般的認識では極めて厳しいと思われるからです。
実際、この国で中卒・高卒の学歴で生きていくのは、一部の人を除けば、極めて大変でしょう。
だからこそ、中学受験が「過熱」するという側面もあります。
「機会不平等」は勿論、問題ですが、「結果不平等」の内実は取り上げずに、簡単に承認してしまうのはいかがなものでしょうか?
「なぜ、中学受験が行われるのか?」という本質を見落としかねないように思うのですが…
以上のように、私とは見解を異にする部分もありますが、良書であることに変わりはありません。
岩波書店にはもっと大々的に宣伝してもらいたいものです。
皆さんにも、是非、お手にとってご覧になることをお勧めします。
(この項、終わり)
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