本項(2) で公立における「ゆとり教育」への批判が、バブル崩壊でしぼんだ中学受験ブームを復活させたと述べました。
さて、その「ゆとり教育」は公立関係者のみで進められたわけではありません。
「ゆとり教育」を審議した中央教育審議会(中教審)には私学のトップ(2人)も入っていました。
その私学トップが、「ゆとり教育」を私学でも実施したらどうか、と突き付けられたことがあります。
突き付けたのは東大教授の市川伸一氏。
市川氏の基本的根拠は「公立だけ『ゆとり教育』を実施すれば、私学との『教育格差』が開く」というもの。
「質の高い」教育を受けられるのは高所得のご家庭の生徒さんだけとなり、社会全体の「教育力」は落ちるというわけです。
さて、自ら「ゆとり教育」を推進してきた私学関係者、「あなたのところもやったらどうか」と言われたら、何とこうなったそうです。
真っ赤になって激怒
著者の横田氏は、当事者への取材も踏まえて、次のように結論付けています。
「(ゆとり教育推進は、私学への)利益誘導と勘繰られるという指摘は、あながち外れていないのではないか」(67頁)
ちなみに、私学トップの一人は、経営する学校が所在する千葉県での公立中高一貫校の拡大に付き、次のような主旨の発言をしています。
「ウチを潰せ、ということだと受け取っています。」(174頁)
公立中高一貫校の意義は、例えば次のような点にあります。
(ア)安価な教育費で
(イ)生徒さんが「質の高い」教育を受けられる
このトップの認識は「(ア)・(イ)を享受できる生徒さんが増える」=「ウチを潰せ」ということになります。
私は公立中高一貫校に全面的に賛成するわけではありませんが、この人の認識は「教育者」のものとは言えません。
完全に「企業経営者」のものです。
このトップの名は田村哲夫・渋谷教育学園理事長。
渋谷教育学園幕張中学・高校の校長でもあります。
もちろん、トップの認識が現場の授業に直結するわけではりません。
しかし、保護者の方は押さえておいて損のない情報でしょう。
こういう教育界の「裏面」を包み隠さずに伝えてくれるのも、横田増生『中学受験』の魅力の一つです。
- 中学受験 (岩波新書)/岩波書店
- ¥864
- Amazon.co.jp