【超お勧め本】横田増生『中学受験』(4)-暗闘!公立VS私立- | 「お受験」問題ー子どもの「気持ち」-

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 受験のさまざまな問題について、皆さんと交流できればと思います。ご父兄・生徒さんにはあまり知られていない問題を取り上げたいと思います。
 なお、「傾向と対策」「学校情報」(進学率など)は基本テーマになりませんので悪しからず。

 本項(2) で公立における「ゆとり教育」への批判が、バブル崩壊でしぼんだ中学受験ブームを復活させたと述べました。


 さて、その「ゆとり教育」は公立関係者のみで進められたわけではありません。


 「ゆとり教育」を審議した中央教育審議会(中教審)には私学のトップ(2人)も入っていました。


 その私学トップが、「ゆとり教育」を私学でも実施したらどうか、と突き付けられたことがあります。


 突き付けたのは東大教授の市川伸一氏


 市川氏の基本的根拠は「公立だけ『ゆとり教育』を実施すれば、私学との『教育格差』が開く」というもの。


 「質の高い」教育を受けられるのは高所得のご家庭の生徒さんだけとなり、社会全体の「教育力」は落ちるというわけです。


 さて、自ら「ゆとり教育」を推進してきた私学関係者、「あなたのところもやったらどうか」と言われたら、何とこうなったそうです。


 真っ赤になって激怒


 著者の横田氏は、当事者への取材も踏まえて、次のように結論付けています。


「(ゆとり教育推進は、私学への)利益誘導と勘繰られるという指摘は、あながち外れていないのではないか」(67頁) 


 ちなみに、私学トップの一人は、経営する学校が所在する千葉県での公立中高一貫校の拡大に付き、次のような主旨の発言をしています。


 「ウチを潰せ、ということだと受け取っています。」(174頁)


 公立中高一貫校の意義は、例えば次のような点にあります。


 (ア)安価な教育費で


 (イ)生徒さんが「質の高い」教育を受けられる


 このトップの認識は「(ア)・(イ)を享受できる生徒さんが増える」=「ウチを潰せ」ということになります。


 私は公立中高一貫校に全面的に賛成するわけではありませんが、この人の認識は「教育者」のものとは言えません。


 完全に「企業経営者」のものです。


 このトップの名は田村哲夫・渋谷教育学園理事長


 渋谷教育学園幕張中学・高校の校長でもあります。


 もちろん、トップの認識が現場の授業に直結するわけではりません。


 しかし、保護者の方は押さえておいて損のない情報でしょう。


 こういう教育界の「裏面」を包み隠さずに伝えてくれるのも、横田増生『中学受験』の魅力の一つです。


 

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