(前項 の続き)
前項 に続き横田増生『中学受験』の紹介を。
「我が子に良い教育を受けさせたい」というのは、保護者の方の当たり前の願いだと思います。
では、そのためになぜ、厳しい受験勉強を経て私立中学に入学しなければならないのでしょうか?
それには、まず中学受験の歴史を押さえる必要があります。
この本には、こういう現状を考える上での「最低条件」がしっかり紹介されています。
著者によれば、中学受験の歴史は以下の四期に区分されます(戦前は除く)。
(1)「学校群制度」の成立(1967年~)
(2)バブル経済(1988年~)
(3)「ゆとり教育」批判(2000年~)
(4)都立中高一貫校の成立(2005年~)
(1)の「学校群制度」は現在はほとんどの方が知らないのではないでしょうか?
かつての「名門都立高校」を崩壊させた制度です。
それまでは都立高校における「学力ピラミッド」が存在していました。
仮に定員3人の高校が3校(A~C校)あり、9人の受験者がいたとしましょう。
成績順に次のように入学していたわけです(数字はテストの順位を示す)。
・A校…1・2・3
・B校…4・5・6
・C校…7・8・9
「学校群制度」とはこれを次のように変えるものです。
・A校…1・4・7
・B校…2・5・8
・C校…3・6・9
主導したのは小尾乕雄・東京都教育委員長(当時)。
一目瞭然ですが、学力の平均化を目指したものです。
トップだったA校はそれまではあり得なかった「4」・「5」の生徒が入ってくるし、「底辺」だったC校は「3」・「6」の生徒を迎えることができます。
しかし、A校に入れるはずだった「2」・「3」の生徒などには不満が残ります。
そのため、「学力」のある生徒は私立校に流れるようになったというわけです。
(2)の「バブル期」に中学受験に対する批判が下火になり、ブームになります。
(3)の「ゆとり教育」批判によって、バブル崩壊によって落ち込んだ中学受験は再びブームを迎えます。
(4)の都立中高一貫校によって、公立が再び注目されるようになります。
現在は、この(4)の段階ということになります。
歴史を知ったからと言って、子どもさんの受験をどうするかについて、「解答」が出るわけではありません。
しかし、何か問題が起こった時に、「なぜ、こうなるのか?」を考える上で重要な前提になります。
また、ここでは省略しましたが、それぞれの時期に行政・学校・塾などがどう動いたかが、しっかり書いてあります。
そういう記述は大変興味深いですが、それは実際に本書でご確認ください。
(この項、続く)
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