2月19日『朝日新聞』朝刊(1面。3・4面に関連記事)に次のような見出しの記事が載りました。
「国、教委への関与強化」(http://www.asahi.com/articles/DA3S10986536.html )
自民党が教育委員会改革の見直し案を実質的に決定したというもの。
骨子は以下の四点とされています。
(1)首長が直接、任命・罷免できる「新教育長」を設け、教育行政の最終責任者とする。
(2)首長が主宰する「総合教育施策会議」を設置する。
(3)首長は教育委員会に対して緊急時に要求を出せるようにする。
(4)文部科学省が教科書採択やいじめ防止策について教委の方針に介入できるよう関連法を見直す。
(1)の「新教育長」は教育委員長と教育長を一本化したものです。
教育委員長は何かというと文字通り「教育委員会の長」ですね。
教育長も教育委員の一人なのですが、「実務の長」です。
ところが教育委員長は非常勤ですが、教育長は常勤なのですね。
このため教育行政は、実権は教育長が握るという形になっています。
責任は一応、教育委員長が担う形になっていますが、曖昧な上、実態とかけ離れているのです。
(1)はこの弊害を改めようというもので、記事でも評価されています。
とは言え、今までも教育長は実質的に首長任命とされており、教育が政治の強い影響下にあったことは否定できません。
それで様々な問題が起こってきたのですから、この点を形式的に改めたからと言って学校が良くなるかは予断を許さないように思います。
(2)~(4)は一目瞭然ですが、教育をさらに政治の強い影響下におこうとするものです。
もともと、この「改革」の目的には「首長の意向の反映」や「国の関与」を強めることが入っているんですね。
さて、問題になるのは子どもさんへの影響です。
私の感想は「全体の『流れ』についていけない子どもさんは大変になるな」というもの。
政治家は選挙で「公約」を掲げ当選するので、その「方針」は「民意」の支持の下にあります。
例えば、「私が当選すれば、お子さんをいじめをしない『優しい心』の持ち主に育てます」という公約を掲げた政治家がいたとしましょう。
ついつい投票してしまう保護者の方も多いのではないでしょうか?
しかし、いじめは家庭環境その他の外的要因が複合して起っているので、単純に「心の問題」に帰すことはできません。
実際には、この間まで「優しくて良い子」と思っていた子どもさんが、いじめや暴力的行動に出ることは珍しくありません。
しかし、こういう政治家が当選すれば、場合によっては、この子どもさんの「心の在り方」そのものが「是正対象」になりかねません。
政治家が支持されていればいるほど、その生徒さんの「疎外感」は強く深いものになります。
これでは、いじめを拡大・深化させかねないと言えます。
しかし、選挙にはこんな複雑な話はそぐわないので、当選したい政治家は上のような「分かりやすい」公約を掲げるでしょうね。
問題が周知されれば政治家は落選するでしょうが、その間、子どもさんは二度と来ない子ども時代を辛い思いで過ごすことになります。
尤も、私立校は教育委員会の直接の管轄は受けないので、「お受験」をされる生徒さんには直接の関係はありません。
しかし、「うちの子は私立だから良かった」などと安心してはいけません。
こういう流れは社会全体のものなので、私立の生徒さんも似たような影響を受ける可能性もあります。
そもそも、上記の記事では教育委員長と教育長の説明もありません。
そのため、新教育長の意義も分かりにくいものになっています。
こういう記事を読むと、教育関係の記事はかなり低レベルの記者が書いているのではないか、と思わざるを得ません。
恐らく、基本的に自民党の発表の「垂れ流し」ではないでしょうか。
マスコミがこういう状態であるからこそ、保護者の方は情報に敏感になる必要があると思います。
〈参考文献〉
・古山明男『変えよう!日本の学校システム』(平凡社、2006年)
- 変えよう! 日本の学校システム 教育に競争はいらない/平凡社
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※こういう本もあるようです(私は未見)
↓
- 教育委員会――何が問題か (岩波新書)/岩波書店
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