ソウル、ノンヒョンドン観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児6歳。
キャリア:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職後3年。

 


 

「AI主婦」

 

2025年1月18日 午後8時30分。

 

▶観察開始

子ども部屋のドアはきつく閉まっている。

 

リビングの窓は10センチほど開いている。
窓辺に手のひらほどの間接灯が一つ。
入り込む風に、かすかに揺れている。
風が吹くたび、
リビングの片側が明るくなり、また暗くなる。

 

ダイニングテーブルで静まっていたノートパソコン。
タイピングが再び速度を上げ始める。

 

ただの浮気なら、耐えようと思っていた。
コーヒーを手に立っていたキャメル色のコート。
夫の車の助手席に座っていた彼女。
二人が交わしたであろう甘い会話。
703号室。

 

むしろ嫉妬が燃え上がり、感覚はさらに鋭くなった。
ここ数日、私はどれだけ頻繁に
ひとりで自分の身体を確かめてきただろう。

 

眩暈がして、
嫉妬で熱くなり、
恍惚としながらも、
どこか苦しかった。

 

違っていてほしかった。
たとえ浮気でも、今回はやり過ごそうとした。

 

母への仕送り40万ウォン。
兄の後始末で、絶え間なく減っていった私の金。

 

亡くなった父の最後の頼みを握りしめ、
家長でもないのに家長の重さを
ひとりで背負ってきた。
手放せば、自分が崩れそうだったから。

 

義実家名義の家、養育費の支援、安定した給与、私の積立金。
その基盤の上で実家を支えていた。

 

一度くらいは耐えられた。
この均衡が崩れるほうが、もっと怖かったから。

 

 

続いていたとしても、
私は記録していただろう。
保存し、
何事もなかったように通り過ぎようとした。心から。

 

けれど。
この汚れた無存在感。
無視から始まった卑劣な嘘。

 

私をなぞり、切り分け、判断していた義母。
あの言葉のすべてが、
無断侵入で得た情報だったなんて。

 

息が詰まる。
どこまで見たのか。
このノートパソコンを、何度開いて確かめたのか。

 

私はそんなに侮られる存在だったのか。夫と、その母に。

 

父が死んだあと、
私は歯を食いしばって耐えてきた。
彼が残した、たった一言のために。

 

だから、
より良い大学ではなく奨学金が保証された場所を選び、
働きながら続けられる職を選んだ。
私が選べた最善は、
そこで止まった。

 

兄より成績も良く、留学を夢見ていたのに。
肩に乗せられた重さが、すべてを止めた。

 

このアイロニーを、この切実さを、あなたたちは分かるだろうか。

 

浮気した母を、
私の金を吸い尽くしていた兄を。

 

私は耐えてきた。
浮気の果てに崩れた父が残した一言を握りしめて。

 

ブランチでも楽しむように男を替える江南の母親たちの中で、
私は一度も
揺れたことがない。

 

こうして耐えてきた私を、
軽く見てきたということ。
何事もないように侵入してきたということ。

 

許せない。

 

バタン。

 

ノートパソコンを閉じる。
手が震える。
心臓が肩までせり上がる。

 

緊張した足取りで
子ども部屋のドアを開ける。
深く眠る寝息を確かめる。
ドアをもう一度、固く閉める。
ぎゅっと。

 

寝室のドアを開け、
固く閉める。
シャワー室のドアも開け、
力を込めて閉める。

 

洗面台の水を出す。
強く。

 

シャワーの水も最大まで上げる。
携帯の音量を上げ、適当な音楽を流す。

 

「クソ、狂ったやつら。」
「同じように…いや、何千倍で返してやる。何万倍、何億倍で」
「ア――――――ッ、アッ、アッ」

 

水が引き、再び満ちる。
シャワーを止め、
洗面台の水も止める。

 

 

もしかしたら、
私の叫びは7階まで届いたかもしれない。

 

もしかしたら、
義母と夫にとって。私はAI主婦だったのかもしれない。

 

感情のないデータ。
分析可能な生活パターン。
望めば、切って、入れる存在。

 

知らせてやる。
誰がより正確か。
誰がより徹底しているか。

 

そして、なぜ私を欺いていたのか、最後まで突き止める。

 

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

 関連する観察ログ


この記録は、連続した観察ログの一部です。

 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 12|「不一致 ≠ 一致」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 13|「4〜5時間」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 14|「有能感 #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 15|「データセンター」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 16|「シャワー」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 17|「手がかり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 18|「実がかり #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 19|「父のアングル」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 20|「父のアングル #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 21|「観客」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 22|「対照」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 23|「速度戦」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 24|「703号」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 25|「4桁」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 26|「今この時間に、いてはいけない人何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 27|「薬指」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 28|「顔を上げる。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 29|「振動」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 30|「暗証番号、そのままだよな?」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 31|「AI主婦」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)

ソウル、ノンヒョンドン観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児6歳。
キャリア:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職後3年。

 

 


 

暗証番、そのままだよな

 

2025年1月18日 午前11時30分。

 

#呼び出し音。

トゥ。
一回。
二回。
三回

 

夫が出る。
「…なんで電話出ないんだ?」
さっき、長めに二回かけてきた。
それでも、声は妙に落ち着いている。

 

昨日、夫は私に
なぜ会社に電話したのかと怒鳴り、
家を飛び出し、
明け方五時に戻ってきてシャワーを浴び、そのまま出勤した。

 

そして、少し前。
義母がうちの暗証番号を押した。
変更前の番号を知っていた。

 

その後、
夫は続けて二度、長く電話をかけてきた。
私は出なかった。
それでも、夫は落ち着いている。

 

「本当に、なんで会社に電話した?
 今、部署でお前の電話を受けた人間が三人もいる。
 俺の立場がどうなると思ってる?」

 

冷静に詰めてくる。

「代われ。電話を受けた人に代われ。」

 

沈黙。

 

私が押す。

「話せば、はっきりするよね。
 課長でも、係長でも、男でも女でも。」

 

長い沈黙。

 

「…あとで話す。
 家の暗証番号、そのままだよな?」

 

「どうして?」

 

「昨日、間違えただろ。」

 

私は電話を切る。
夫は動揺したはずだ。

 

今朝、
玄関の暗証番号を2103から8859に変えた。

 

昨日、夫は二度間違えた。
その時の番号は2103。

 

夫のギプスに書かれていた数字は8859。

 

もし今日、帰宅して8859を押して
迷わず入ってきたら――

それは。

 

別の場所。

703号室の暗証番号である可能性が高い。

 


 

車のドアを開ける。

両足を地面に正確に着け、
ゆっくり立ち上がる。

強くドアを閉める。
バン。

 

怒りが込み上げる。

 

夫は何も認めなかった。
それでも、聞いてはいけないことを聞いた。
家の番号。

 

コーヒーが必要だ。

 

義母が番号の変更を
夫に伝えたのだろう。

 

 

会社の話から始めた。
本当に知りたかったのはそこじゃない。
最後の質問は、家の番号。

 

 

隠しているのは
浮気だけではない気がする。

 

なぜ、あの二人は
同じ警戒心を持っているのか。

 

……。

 

落ち着かなければ。

冷静になれば、
今夜、夫から多くを確認できる。

 

手の中の車のキーを見る。

 

向かい側、
夫の車が停まっていた場所。

キャメル色のコートが
コーヒーを買っていたあの店へ。

 

キーを投げつけたくなる。

 

ガラスが割れる音まで想像する。
粉々に。

 

でも、子どもがいる。
別の習い事に連れて行かなければならない。

 

車に乗り込む。

エンジンをかける。

音楽を最大にする。

 

「――――――!」

五秒。

 

誰にも聞こえない。

防犯カメラは音を残さない。

それでも、記録されている。

 

私の怒った動き。
口の形。

いい。

 

この怒り、
消さない。

 

今夜、
終わらせる。

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

 関連する観察ログ


この記録は、連続した観察ログの一部です。

 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
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観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

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・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 12|「不一致 ≠ 一致」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 13|「4〜5時間」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 14|「有能感 #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 15|「データセンター」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

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・観察ログ 17|「手がかり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 18|「実がかり #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 19|「父のアングル」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 20|「父のアングル #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 21|「観客」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 22|「対照」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 23|「速度戦」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

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・観察ログ 26|「今この時間に、いてはいけない人何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 27|「薬指」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 28|「顔を上げる。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 29|「振動」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

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ソウル、ノンヒョンドン観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児6歳。
キャリア:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職後3年。

 


 

「振動」

 

2025年1月18日 午前11時30分。

 

振動が続く。
10回。
20回。

 

夫からの着信が止まる。

 

夫は私に不倫の証拠を押さえられ、
義母の無断訪問は玄関先で遮断された。
暗証番号は、すでに私が変更している。

 

何かが狂い始めたことを、
彼も感じ取っているはずだ。

その後も、夫からの電話は続く。
焦る人間のように、間を置かず押し寄せてくる。

 

私が亀裂を入れているのは確かだ。
流れは変わった。
顎が、ごくわずかに上がる。

 

時間が遅くなる。
ふわりと、達成感が込み上げる。

 

顎を少し前に出し、首を左に傾ける。
急ぐのは、私ではない。

 

左のポケットには夫の不倫の証拠。
右には義母の密かな訪問を遮断した事実。

 

肩が、ほんのわずかに開く。
電話は、急ぐ必要がない。

 

下着を脱いでおいて正解だった。

 

太ももの間、ちょうど中心に置いた
スマートフォンが、再び震える。
スカート一枚だけが間にある。

 

振動が割れ目に沿って
まっすぐに伝わってくる。

 

親指と人差し指だけを伸ばし、
ゆっくりと、中心に合わせる。
奇妙に、胸が高鳴る。

 

厚みを左右に割り、
縦に密着させる。

 

ジーッ。

 

なめらかな曲面に沿って、
震えがそのまま奥へ届く。

 

夫の緊張も、
そのまま伝わる。
もっと強く来るのを待つ。

 

さらに押し込む。もう少し深く。
入口に触れる。

 

太ももをきつく閉じる。
動かない。
待つ。

 

ジーッ。

 

低い波動が、先に染み込む。
外を震わせず、内側だけへ広がる。

 

ジー。

 

今度は、より鮮明だ。
一枚、また一枚、
薄い膜を通過するように入り込む。

 

ジーッ。

 

太ももをさらに締める。
振動が散らないよう、
中心へ押し込む。

 

膝が、わずかに震える。
呼吸が長くなる。

 

振動は内側で増幅する。
外は静かで、
内側だけが、どんどん狭くなる。

 

それでも、
視線は無意識に外をなぞる。

 

ガラス越し。
何も起きていない。
だからこそ、鮮明だ。

 

開く直前。

 

ぷつり、と切れる。

 

太ももが遅れて緩む。
短い空白。

惜しい。

 

素早くスカートを持ち上げる。

 

人差し指と中指を揃え、
熱を帯びた裂け目を急いでなぞる。

 

開ききらず、強く圧をかける。
引かずに耐える。
内側の熱が、
指先にまとわりつく。

 

すでに、十分に濡れている。
もう一度、
深く息を吸う。

 

シートに敷いたスカートを折り上げ、
ヒップの後ろを開ける。
それでもCCTVには映らない。

 

左手にティッシュを重ねて持ち、
ヒップを浮かせて下に敷く。
三本の指を、
固く揃える。

 

下唇を噛み、
CCTVを横目で見る。
左、右。
確認、確認。

 

もう一度噛み、
入れる。

 

下唇を噛む。
CCTVをちらりと見る。
左。
右。
確認。

 

呼吸を整える。
再び唇を噛む。

 

太ももが浅く痙攣する。
準備は整った。

ゆっくり、
中へ押し込む。

 

夫の緊張した表情。
義母の妙な視線が、
脳裏をかすめる。

 

 

材料は十分だ。
ここは屋外。
私は車内。
夫は確実に緊張している。
義母は、もう私に見抜かれている。

 

ハンドルの下は、
車に近づいても見えない。

 

揃えた指が、
内と外をなめらかに、
速く往復する。

 

官能の材料が、
頭の中で息を切らしながら連なっていく。

 

夫の緊張した顔。
義母の硬い目。

 

ここは屋外。
私は車内。

 

動揺する夫の無力さ。
遮断された義母の喪失。

 

ハンドルの下、
私の手と中心は見えない。

 

ぎゅっと。
主導権を強く握る。
遠くへ行く。

 

もう、私が引いている。

 

太ももが大きく開き、
短く痙攣する。

一分もかからなかった。

 

……

 

スマートフォンを右手で強く握る。
呼吸を一度整える。

 

夫に電話をかける。

 

 

 


 

Ennd
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・観察ログ 18|「実がかり #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 19|「父のアングル」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 20|「父のアングル #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 21|「観客」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 22|「対照」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 23|「速度戦」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 24|「703号」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 25|「4桁」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 26|「今この時間に、いてはいけない人何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 27|「薬指」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 28|「顔を上げる。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 29|「振動」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)

ソウル、ノンヒョンドン観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児6歳。
キャリア:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職後3年。

 


 

「顔を上げる。」

 

2025年1月18日 
 

▶ 午前10時30分

 

703号室の玄関ドアを掴んでいた夫の手。

 

夫の手。
薬指。
光を反射する結婚指輪。
そして、
キャメルコートの彼女。

夫はドアを急いで閉めなかった。
完全に中へ入ることもなかった。
一瞬、止まり、
ドアを握ったまま立っていた。

 

薬指。
光。
映像にはっきりと映っている。
私の指輪とデザインを照合した。
一致。

 

今回は、
状況でも、疑いでもない。

 

冷たい証拠を一つ、手に入れた。
何日も掴んでいた疑いが、
初めて形になった。

 

旧正月。
義母はきっと見渡すだろう。
私の後ろ姿、横顔、歩き方。
話す口元、
笑う時の視線の行き先。

 

気づかれないように、
私をスキャンし、
以前の私と照合する。
一緒にいる間、ずっと。

 

以前なら、
無防備なまま、すべて読まれていただろう。
疑いで重くなった頭。
落ちた肩。
整わない表情。

 

今回は違う。

 

私は知っている。
何を見て、
何を確認したのか。

 

排除の視線が来ても、
顔を上げる。

ノートパソコンを閉じ、頭を預ける。
少し、目を閉じる。

 

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ビー。
停止。

 

再び、
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ビーー。

 

誤入力。

 

この時間。
一度。
そして、もう一度。

 

ドアの前に、
誰かが立っている。

 

この時間に、夫?
夫が引っかかったのか。
それとも、別の誰か。

 

朝、登園前に、
玄関の暗証番号を
[2][1][0][3]から
[8][8][5][9]に変えておいた。

 

昨日、
夫は一度、番号を間違えた。
玄関の前に立つと、
思うより先に指が動く。
以前の番号を押した可能性が高い。

 

だから、変えた。
昨日押した数字が
この組み合わせだったのか、確かめるために。

 

もし
ドアが開けば、
ドアの前にいるのは夫だ。

 

静かに立ち上がる。
ソファ横のラグを避け、
足を運ぶ。


床が鳴らないように、
かかとを先に上げる。

 

ドアスコープの前に立つ。

 

ピッ。
ピッ。
ビー。

 

一度、失敗。

 

再び。

 

ピッ。
ピッ。

 

息を止める。.

 

ピッ——
ビー——

 

義母だ。

 

ドアスコープ越しの顔。
指の動きに迷いはない。
この時間に、なぜ。

 

しばらくして、
エレベーターの扉が閉まる音。

 

静寂。

 

私は動かない。

 

10分。
20分。
30分。

 

エレベーターが下りた後、
家の中は真空のように静かだ。

 

ドアロックの数字盤の灯りも消えた。
玄関側の空気が冷えている。

 

脳も、
感覚も、
一瞬止まったかのように凍りついている。

 

これまで、
私の知らない間に、
この家で何が起きていたのか。

 

単なる浮気と見るには、
あまりにも古い匂いがする。

 

けれど、
このまま座っているわけにはいかない。

 

もうすぐ子どもを迎えに行かなければならない。
手を握り、
次の習い事へ連れていく。

 

いつもより少し早めに行き、
何もなかった顔で
待たなければならない。

 

子どもの前では、
揺らげない。

 

私の子。

 

もしかして。
また、もしかして。

 

不安が再び頭を揺らす。
思考が逸れる前に、
先に体を動かす。

 

幼稚園へ。

 

駆けるように地下駐車場へ降りる。
リモコンを押す前に、
ドアを開ける。

 

出発。

 

周囲の車が
やけに速くすれ違う気がする。
信号が遅く変わる気がする。

 

アクセルを少し踏み込む。
一度、後ろを見る。
誰かついてきていないか。
義母の顔が、
ミラーに重なる。

 

窓を下ろす。
車内にこもった空気が抜ける。
その時、
冷たい風がスカートの内側へ深く入り込み、
太ももの内側、中心へと広がる。

 

その時、
ようやく、息を吐く。

 

幼稚園の駐車場入口。
車を停める。
周囲を一度見渡す。

 

義母はいない。
よかった。

 

時間を見る。20分前。
余裕がある。
子どもを動揺させることはない。

 

ハンドルに頭を預ける。
先ほどの状況を、
ゆっくり辿る。

 

なぜ、
家の暗証番号を、
何の躊躇もなく押したのか。

 

あの指の動きは、
初めての人間のものではなかった。

 

私がいない時、
この家に来たことがあったのかもしれない。

 

私がどこにいるか、
確認していた可能性。
鳥肌が立つ。

 

ならば、
車は。

 

ドライブレコーダーにも、
残っていないか。

 

すぐに保存画面を開く。
1時間前へ戻す。

 

地下駐車場。
私の車の前。

 

いる。

 

ちょうど50分前、
私の車の前に立ち止まった人物。

 

顔を下げ、
車のナンバーを確認する。

 

義母だ。

 

私は画面を止める。

 

時間的に、
義母は私の家のドアロック暗証番号を押して失敗した。
そして駐車場へ下り、
私の車があることを確認した。

 

私が家にいたことを、
確認したということだ。

 

ブーン。
ブーン。

 

太ももの間に置いたスマートフォンが振動する。


夫からの電話。

 

この時間。

 

少し前、
義母は私の車の前に立っていた。

 

そして今、
夫が電話をかけてくる。

 

なぜ、
ここまで畳みかけるのか。

 

 


 

Ennd
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観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

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・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
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・観察ログ 15|「データセンター」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 16|「シャワー」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 17|「手がかり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 18|「実がかり #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 19|「父のアングル」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 20|「父のアングル #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 21|「観客」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 22|「対照」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 23|「速度戦」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 24|「703号」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 25|「4桁」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 26|「今この時間に、いてはいけない人何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 27|「薬指」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 28|「顔を上げる。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)

ソウル、ノンヒョンドン観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児6歳。
キャリア:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職後3年。

 


 

「薬指」

 

2025年1月18日 0時30分

 

一睡もしていない。
昨夜、夫は
自宅の玄関の暗証番号を二度間違えた。


私がドアを開けた。
夫は車のキーを持ち、再び出ていった。


ギプスに書かれた数字。
夫の筋肉が覚えている、もう一つの四桁。


703号室の暗証番号である可能性。

だから、
703号室の玄関が見える廊下の窓枠に
携帯電話を隠して撮影した。

回収した私の携帯映像には
夫の姿は映っていなかった。
撮影された1時間30分の間、
703号室のドアは一度しか開かなかった。

昨夜、私がドアの前に立っていた
あの時間だった。

ドアだけが開いた。
誰も出てこない。

5秒後、
ドアは再び閉まった。

おかしい。
急いでマンションに戻り、
703号室に何があるのか
自分の目で確かめるしかない。

子どもを押し込むように送り出す。
車を回し、地下駐車場へ戻る。

ハンドルに額をつけ、
昨夜の自分の動きを反芻する。

昨夜、
私は初めて先に動いた。

エレベーターの中で
7階以外のすべての階のボタンを押し、
時間を稼いだ。
窓枠に携帯を隠した。
開いた隙間から、ドアの開閉音。
すべて確認した。

携帯は最大1〜2時間の撮影が可能だ。
夫は私と衝突したわけではない。
一人で感情をぶつけて出ていっただけだ。
長時間外にいる蓋然性は低い。

703号室にいたなら、
その時間内に出入りがあり、
夫の姿が画面に残っているはずだった。

だが、映像に夫は
いない。

だから、眠れなかった。

▶ 09:30 AM

7階。
703号室の前。
思考を整え、
足早に703号室へ向かう。

遅いエレベーターは使わず、
一気に駆け上がる。

インターホンを押す。
ピンポーン。

静寂。

もう一度、ピンポーン。

迷っている時間はない。
ドアロックに手をかける。
ギプスに書かれた夫の文字。
[8][8][5][9][*]
ピッ。エラー音。

自宅の番号か。
[2][1][0][3][*]
ピピッ。ピピッ。

ドアは開かない。
状況証拠はすべて
浮気を指していた。
703号室が現場だ。

だが、ドアは閉じている。
インターホンにも、
誤った暗証番号の音にも、
中からの反応はない。

私の予測は、
崩れている。

▶ 09:50 AM

14階。

携帯の映像をもう一度再生する。
最後まで見る。
夫はいない。

あり得ない。
どこか見落としている。
画面を拡大する。
明るさを上げる。

ノートパソコンを開く。
携帯を接続し、映像を移す。
400%まで拡大。
画素が崩れる。
ノイズがざらつく。
これで……失敗か。

拡大された画面を
さらに細かく見る。

昨夜。
ドアが開く。
何もない。
ゆっくり閉じる。

停止。
1フレームずつ戻す。
ない。

今度は前へ。
マウスではなく、
方向キーで
さらに
ゆっくり。

ここ。
ドアロック付近。
何かが、かすかにかかっている。
これは
何だ。

指?
四本。

かすかに
何かが
光る。

これは。
……
……
指輪?

ドアを掴む手。
薬指の上で
ぼんやりと光る
艶。
プラチナ?

完全に停止。
これが……

ノートパソコンの画面の上に
自分の手を
重ねてみる。

二つの指輪。
男の手。
私の手。

私と同じデザインの結婚指輪をした手が
703号室の玄関を握っている。
夫は、そこにいた。

急いでメールとクラウドに映像をアップロードする。
ノートパソコンを閉じ、
片手を胸に当てる。

残して見つかれば、
局面は完全に変わる。
携帯に保存された映像は削除。
ふう。

次は……
……
キャメルコート。

 

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

 関連する観察ログ


この記録は、連続した観察ログの一部です。

 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 12|「不一致 ≠ 一致」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 13|「4〜5時間」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 14|「有能感 #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 15|「データセンター」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 16|「シャワー」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 17|「手がかり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 18|「実がかり #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 19|「父のアングル」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 20|「父のアングル #2」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 21|「観客」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 22|「対照」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

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