前に、「日本語は単語の数が多い」という話を聞いたことがある。世界にはたくさんの言語があるが、例えば、英語で日常会話ができるようになるために必要な単語の数と、日本語で日常会話ができるようになるために必要な単語の数を比べると、日本語の方が多いみたいな話だったと思う。まぁ、ちゃんと調べたことではなくて、どこかでチラッと聞いた話なので、正しいかどうかはわからない。ただ、日本語を教えていた時、「意味は似てるけど使う場面が違う言葉が多いな。学習者は大変だろうな」と思ったことはよくあった。
例えば、「昼ごはん」「ランチ」「昼食」という3つの単語は、「昼の12時頃の食事」を表していると考えれば同じ。日本語教師ではない普通の日本人なら、外国人の友達とかに「昼食って何?」て聞かれたら、「昼ごはんのことだよ」「昼ごはんと同じだよ」と答える人も多いと思う。でも、単語というのは、意味が似ている、さらにはほとんど同じであっても、使い方が違うことが多いので、日本語教師としては「○○と△△は同じ」と答えることはほとんどないのではないかと思う。「同じ」というのは、「意味も使い方も同じで入れ替え可能」ということになるけど、そういう単語は少ない。大学の授業だったか日本語教師養成講座だったか忘れたけど、「かなりの確率で置き換えが可能な単語」として「大事と大切」が例にあがっていた記憶がある。「大事」や「大切」を使った例文をいくつか作ってみると、たしかに置き換え可能な場合が多い。でも、このような単語はそれほどなく、「たしかに意味は同じだけど、置き換えると変な文になる」ケースがかなり多い。
もし、「『昼食』も『昼ごはん』も同じだよ」と教えたら、その外国人は学校や会社の昼休みに、友達や同僚に対して「ねぇ、そろそろ昼食に行こうよ」とか言ってしまうかもしれない。親しい人との会話の中で「昼食」という言葉を使ったら、やはり違和感があると思う。急に言われたら聞き取れない可能性もある。「え?何?ちゅう?あぁ、昼食ね」みたいな。飲食店では「ランチメニュー」というのを設定しているところも多いけど、これを「昼ごはんメニュー」とか「昼食メニュー」と言い換えることはできない。旅行会社のツアーに申し込んだ時に客に渡される日程表には「12:00 昼食(レストラン○○)」のように書いてあることが多いと思う。ここに「昼ごはん」と書いてあったら違和感があるはず。もちろん、意味は通じるんだし問題ないと考える人もいるかもしれないけど、厳密には同じではなく、母語話者でない人にはこの「違和感」は感じ取ることができないので、使い方の違いまで教えてあげると親切かなと思う。日本語は、話し言葉と書き言葉の差も大きいのではないかと思うので、その辺も伝えると良いと思う。
今試しに「昼ごはん 英語」「ランチ 英語」「昼食 英語」で検索してみたけど、当然全部「lunch」だった。中級以上のレベルまで行きたいと思っている学習者なら、辞書で意味(母語の訳)を調べただけで安心せずに、例文まで覚えた方が良い。これは日本語学習者に限らず、どの言語を学ぶ人も多分同じじゃないかな。日本人が英語を学ぶ場合も、3級より上、高校レベルより上になれば、例文を理解して丸ごと覚えるというやり方が増えていくと思う。
「昼ごはん」「ランチ」「昼食」は、所謂「和語」「外来語」「漢語」というもので、日本語はこれがあるから似た意味が多くなってしまう面もあるのかな。どの言語にも「外来語」というのはあると思うけど、日本語の場合、文化的に中国の影響を受けていた歴史が長いし、近現代に入って一気に外来語が入ってきたのもあるし、その前からある和語も健在で、しかもこの3語のように、似ているけど微妙に役割分担がされてるケースもあるから、外国語として学ぶ人には面倒だとは思う。
日本語では、「袋」と「バッグ」、さらには「鞄」て同じではないけど、英語にすると全部「bag」になってしまうみたいな例は他にもたくさんあると思う。パッと出てこないけど…。「打ち合わせ、ミーティング、会議」とかかな…。それぞれ、表しているものが微妙に違ったり、使うべき場面が違ったりするので、それを間違えると、「意味は通じるけど変」になってしまう。
単語の数が多いと、たしかに覚えるのは大変なんだけど、逆に言えば、単語の数が多い言語の場合、一つ一つの単語の意味の範囲は狭く、単語の数が少ない言語の場合、1つの単語で複数の意味を担っているとも考えられるから、その場面でその語が何を表しているのか判断するのが難しいというようなこともあるかもしれない。前に、「日本語は漢字がたくさんあり、さらに読み方もあるから大変で、英語は文字の数が少ないから楽というわけではない」みたいな話を書いたと思うけど、単語についても似たようなことが言えるのかもしれない。
タイムリーな話題がX(Twitter)で流れてきたので追記。(2026年2月28日)
レストランの「ジョナサン」が、他のユーザーの質問に答える形で
・ライス= 洋食に合う「平皿」
・ご飯 = 和食に合う「茶碗」
とポストしている。使用している米も値段も同じで、食器が違うだけということらしい。このように、口に入る部分に関しては全く同じものであっても呼び方が違うケースがあり得るから難しいし面白い。
「カレーライス」は「カレーご飯」ではないし、「炊き込みご飯」は「炊き込みライス」ではないのだから、やはり「ライス」と「ご飯」はいつでも置き換え可能というわけではないという意味で「同じ」とは言えないってことだろう。
ただ、このポストのように「茶碗に盛られている方だけを『ご飯』と呼ぶ」ということで意味が狭くなるケースがある一方で、「ご飯」という単語は広く食事一般を指す場合もある。これも数日前にX(Twitter)で流れてきたが、医師が患者に「明日は検査だからご飯を食べないで来てください」と言うと、翌日「ご飯を食べないでと言われたからパンを食べてきました♪」と言われるというような落語みたいな話があるらしい。ネタじゃないかと思ってしまうが、まぁ、世の中にはいろんな人がいるから、あり得ないことではないんだろう。でも、こういうケースでは、伝える側の工夫も必要だと思う。「ご飯を食べないで」ではなく「何も食べないで」と言えば、誤解する人は少なくできるんじゃないかな。ゼロにはならないかもしれないけど。