<お仕事> 時々
のち
のち
予定通り、朝は高層雲が張っていた。
川地の読みでは、日が昇るにつれて、高層雲が薄くなり、
南東方向から低層の雲が押し寄せてくる。
つまり、高層雲と低層雲が入れ替わる。
時間帯にスタートを切るのがベストである。
どうやら、予想よりも1時間程それが早まっている。
それを告げるかのようにダミーがソアリングを始めた。
塾生に出来るだけ早く、離陸して空の上で待つように指示した。
今日の雲底高度も前回同様、1000m前後。
川地もすばやく準備を済ませ、空中で待機をした。
読み通りの時間に雲底に付け、スタートタイミングを計った。
しかし、前日同様、上がってくる塾生は限られている。
それでも、7機~8機が上がってくるのが見えた。
川地は、一足先に燕山に移動し、様子を見ることにしたが、
これが大誤算!!
ドス黒い雲とは裏腹に、全く上昇成分が無い。
高度を上げる事は愚か、維持することも難しい状況だ。
一時撤退を余儀なくされる。
それを見ていた数機の塾生が足尾山で待機し、
上がってきたこの日最高のサーマルをゲット!!
標高1300m以上まで上昇して、燕山に向かった。
川地はセカンドグループを引き連れて、
後を追うために、再び上げ直しを開始した。
風向きは、南東から東、そして、時折北東が入ってきた。
この日の最終便が出る時刻が刻一刻と近づいている。
その後、川地は何度も雲底に付けるが、
上がってくる塾生は、まばらで纏まりが無い。
しかも、上げきったら西方向に走ってよいと伝えているのに、
何故か走ろうとしない。
どうやらもう少し上げてからと欲が出ているようだ。 (ーー;)
しかし、もうこの時点でそれ程上昇するはずが無い。
もう既に、機を逸してしまっているからだ。
後は時間が経つにつれて、XCのチャンスが減っていくだけなのに。
この時、塾生の一人が、意を決してXCに出た。
その高度は、たったの800mである。
しかし、結果は30kmをオーバーし、
宇都宮市のすぐ近くまでXCに成功している。
そして、このタイミングが最終列車であると、
川地は薄々感じていた。
まだ上げ切られずに、頑張っている塾生を待つために、
5分程空中待機をしたが、結局誰も上がって来ず、
仕方なく、XCに出た塾生を追ったが、
もうサーマルはどこにも残されていなかった。
そのまま西側の麓にランディング(着陸)した。
前回の様に、大勢がまとまってXCに出れる時は良いが、
今回の様にバラバラで、全員が二の足を踏んでしまった場合、
川地一人で、全員をカバーすることができない。
もっと、強い意志で全員を引っ張る必要があると痛感した。
さて、最初にXCに出た数名の内、一人が生き残り、
距離を伸ばし、なんと66kmも飛んだ。天晴れである。
彼は国道50号を一度も越えたことが無いXC初心者である。
今日の最高高度が1500mで、
その殆どが単独フライトということ考えると、
100kmを飛んだに値するだろう。
しかし、勘違いしてはいけない。
決してビギナーズ・ラックなどではない。
そんな事を言っている人は、きっと彼の記録を抜けないだろう。
彼がこれまで地道な努力をされてきたことを川地は知っている。
それがあったからこそ、今日の大記録が生まれたのだ。
そう、出るべくして出た記録なのである。
逆に言えば、他の塾生も彼を真似れば、
記録を出すことが可能だろう。
神様は努力をされた人にだけご褒美をくれるのである。
是非、これからのシーズン、
そして、来シーズンに向けて腕を磨いてほしい。