『聊斎志異』三作品目です。『青鳳』は狐、『侠女』は任侠に生きる女がヒロインでしたが、今回の『連瑣』のヒロインは幽霊です。 連瑣がそのヒロインの女の名前。彼女は今から二十年前、十七歳の時に急病で死んでしまい、幽霊として書生の楊于畏の前に現れます。この連瑣に出会った 楊于畏が、冥界で嫌な男に妾になるよう迫られた連瑣を助けてやり……。『聊斎志異』巻六『連瑣』をご覧ください。
連瑣
杨于畏,移居泗水sì shuǐ之滨bīn。斋zhāi临旷野kuàng yě,墙外多古墓,夜闻白杨萧萧xiāo xiāo ,声如涛涌tāo yǒng。夜阑yè lán秉烛bǐng zhú,方复凄断qī duàn。忽墙外有人吟曰:“玄夜凄风却倒吹,流萤yíng惹草复沾zhān帏wéi。”反复吟诵yín sòng,其声哀楚āi chǔ。听之,细婉xì wǎn似女子。疑之。明日,视墙外,并无人迹。惟有紫带一条遗荆棘jīng jí中,拾归,置诸窗上。向夜二更许,又吟如昨。杨移杌wù登望,吟顿辍chuò。悟wù其为鬼,然心向慕之。次夜,伏伺fú sì墙头。一更向尽,有女子珊珊shān shān自草中出,手扶小树,低首哀吟。杨微嗽sòu,女忽入荒草而没。杨由是伺诸墙下,听其吟毕,乃隔壁而续之曰:“幽情yōu qíng苦绪kǔ xù何人见?翠袖cuì xiù单寒dān hán月上时。”久之,寂然jì rán。
楊于畏(よううい)は泗水(しすい。山東省泗水県を源流に流れる河川)の川辺(濱bīn。水辺、みぎわ)に引っ越して来た。書斎は広々とした原野に面し、屋敷の外壁の外には古い墓が多く、夜にはモウハクヨウ(毛白楊。ポプラの一種)が風に吹かれてサラサラという音が聞こえ、その音はまるで波濤が逆巻くようであった。夜更けに灯りを点すと、また気持ちが物悲しく感じられた。ふと壁の外から誰かが詩を吟じるのが聞こえた。「漆黒の夜に骨身に染みる冷風が繰り返し吹きすさぶ、空を舞う螢は草むらをかすめてまた帷(とばり)に近づく。」繰り返し朗誦するその声は物悲しかった。聞こえてくるその声は、細やかで柔らかく女のようであった。彼は心中不思議に思った。翌日、壁の外を見ると、全く人の歩いた跡は無く、ただ紫色の帯が一本荊(いばら)の中に残っていて、それを拾って帰ると、それ(「諸」は「之于」)を窓の上に置いた。夜になって二更(21時から23時)頃、また昨日と同様詩を吟じるのが聞こえた。楊は腰かけを持って来てそれに登って見渡すと、詩を詠む声が突然止まった。楊はそれが亡霊の仕業だと悟ったが、それでも内心その声に心惹かれた。翌日の夜、壁の端に隠れてそちらを覗き見た。一更(19時から21時)の終わり頃、ひとりの女がゆっくりと草むらの中から姿を現した。手で小さな樹につかまり、頭を下げて悲し気に詩を吟じた。楊が軽く咳払いをすると、女は俄(にわ)かに草むらに入ると姿を消した。楊はこのため壁の下で待っていたが、女が詩を吟じ終えると、壁を隔ててそれに続けてこう言った。「深き思い、つらい気持ちを、誰が分かってくれるだろう。翠(みどり)の袖の単衣(ひとえ)を纏い、寒々とした月の上(のぼ)る時。」しばらく時が経ったが、壁の外は静まり返ったままだった。
杨乃入室。方坐,忽见丽者自外来,敛衽liǎn rèn曰:“君子固风雅fēng yǎ士,妾qiè乃多所畏避wèi bì。”杨喜,拉坐。瘦怯shòu qiè凝寒,若不胜shēng 衣。问:“何居里,久寄此间?”答曰:“妾陇西lǒng xī人,随父流寓。十七暴疾殂谢cú xiè,今二十余年矣。九泉荒野,孤寂如鹜wù。所吟,乃妾自作以寄幽恨者。思久不属zhǔ;蒙君代续,欢生泉壤quán rǎng。”杨欲与欢。蹙cù然曰:“夜台朽骨,不比生人,如有幽欢,促人寿数。妾不忍祸君子也。”杨乃止。戏以手探胸,则鸡头之肉,依然处子chǔ zǐ。又欲视其裙下双钩。女俯首笑曰:“狂生太罗唣luó zào矣!”杨把玩之,则见月色锦袜,约彩线一缕lǚ。更视其一,则紫带系之。问:“何不俱带?”曰:“昨宵畏君而避,不知遗落何所。”杨曰:“为卿qīng易之。”遂即窗上取以授女。女惊问何来,因以实告。女乃去线束带。既翻案上书,忽见《连昌宫词》,慨然kǎi rán曰:“妾生时最爱读此。今视之,殆dài如梦寐mèng mèi!”与谈诗文,慧黠huì xiá可爱。剪烛西窗,如得良友。
楊于畏はそれで書斎に戻った。座るやいなや、ふと美しい女性が外から入って来るのが見えた。女は服の前おくみを揃える礼をすると、言った。「あなたは本当に教養があって上品な方だから、わたしは畏れ多いと思って避けていました。」楊は喜び、女を引っ張って来て座らせた。身体は瘦せこけ、怯(おび)えているような表情で身体を震わせ、服の重みにも耐えがたいかのようだった。楊は女に尋ねた。「あなたはどちらのご出身ですか、こちらに来てどれくらいになるんですか?」女は答えて言った。「わたしは隴西(甘粛省隴西県。甘粛省東南部)の人間で、父に随いこの地に流れて来ました。十七歳の時急病でこの世を去り、もう二十年余りになります。九泉(よみの国。あの世)の荒野では群れからはぐれた野鴨のように、頼る者も無く、ひとり寂しくしていました。吟じておりましたのは、わたし自ら作った、心の奥に潜めた恨みに寄せる詩なのですが、思索が続かずにいました。あなたがわたしに代わって続きを詠んでいただいたので、わたしはあの世からでも嬉しく思います。」楊は女を抱きしめて男女の営みをしようとした。女は眉を顰めて言った。「わたしの身体は死んで墓場の中に埋められ、身体は朽ちて骸骨になっています。この世で生きている方とは違い、もし密かに男女の営みをしますと、相手の方の寿命を縮めることになります。わたしはこのことであなたに禍(わざわい)が及ぶに忍びません。」楊はそれで行為を止めた。戯れに手で女の胸をまさぐると、乳首は新鮮な慈姑(くわい)の実のようで、女はまだ処女であった。また女のスカートの下の両足を見たいと思った。女は俯(うつむ)いて笑って言った。「この度助べえ、なにそんな大騒ぎをして!」楊がこれをじっくり眺めると、月のように白く輝く錦の靴下が見え、色のついた一本の絹糸で結ばれていた。更にもう一方を見ると、紫の帯で結ばれていた。楊が尋ねた。「どうして帯で結ばないの?」女が言った。「昨晩あなたが怖くて身を隠した時に、どこかで落としてしまったんです。」楊が言った。「おまえのためにそれと交換してあげよう。」それで窓の上に置いてあった帯を取って女に渡した。女は驚いてどこにあったか尋ねたので、楊は正直に答えた。女はそれで絹糸を外して、帯を結んだ。女はテーブルの上の本をめくっていたが、ふと『連昌宮詞』(唐代の元稹作の七言の長篇叙事詩)を見つけたので、感慨深げに言った。「わたしが生きていた時、これらの詞を読むのが最も好きだったの。今これが読めるなんて、まるで夢のようだわ。」女と詩文を論じていると、彼女の聡明で博学なのが分かり、また彼女のことが好きになった。楊は女と共に西側の窓の下で蝋燭の芯を切りながら読書し(李商隠『夜雨寄北』の一節「何當共剪西窗燭、卻話巴山夜雨時」が下敷きにある)、良き友を得たかのようであった。
自此每夜但闻微吟,少顷即至。辄zhé嘱zhǔ曰:“君秘勿宣。妾少shào胆怯dǎn qiè,恐有恶客wù kè见侵jiàn qīn。”杨诺之。两人欢同鱼水,虽不至乱,而闺阁guī gé之中,诚有甚于画眉者。女每于灯下为杨写书,字态端媚duān mèi。又自选宫词百首,录诵lù sòng之。使杨治棋枰qí píng,购琵琶pí pa。每夜教杨手谈shǒu tán,不则挑弄tiǎo nòng弦索xián suǒ。作“蕉窗零雨”之曲,酸人胸臆xiōng yì;杨不忍卒zú听,则为“晓xiǎo苑yuàn莺yīng声”之调,顿觉心怀畅适chàng shì。挑灯tiǎo dēng作剧zuò jù,乐辄忘晓。视窗上有曙shǔ色,则张皇zhāng huáng遁dùn去。
それからというもの、毎晩微かに詩を吟じるのが聞こえると、しばらくして女がやって来た。女はいつも楊于畏にこう言い含めた。「このことは秘密にして、他の人には決して言ってはだめよ。わたしは小さい時から臆病で、悪い客にいじめられるのが怖かったの。」楊は承諾した。ふたりは水を得た魚のように楽しみ、身体を重ねることはなかったが、閨房の中では、真に妻のために眉を描いてやるよりもっと親密(漢書の『張敞伝』の話が下敷きにある)であった。女はいつもランプの下で楊のために書籍から詩文を書き写してやったが、その字体は端正で優美であった。また自分で宮詞百首を選定し、それらを書き出し、朗読した。楊に囲碁の碁盤を用意させ、琵琶を買って来させた。毎晩楊に囲碁の対局(手談shǒu tán)か、そうでなければ琵琶をつま弾くのを教えた。女は『蕉窓零雨』(窓を隔てて庭の芭蕉の葉に降る雨の音が聞こえるという境地を著した曲)の曲を作ったが、それは聞く者の胸のを締め付け、悲しみを誘い、楊は最後まで聞くことができなかった。それで女は今度は『暁苑鶯声』(早朝の庭園に鶯の鳴き声が響き渡るという境地を著した曲)を弾いて調べを変えると、にわかに楊の気持ちは心地よく愉快になった。ふたりは灯火の下で冗談を言い合い、楽しさの余り夜が明けるのも忘れた。窓から黎明の陽の光が射すのが見えると、女は慌ててこそこそ逃げ帰った。
一日,薛生造访,值杨昼寝。视其室,琵琶、棋局俱在,知非所善。又翻书得宫词,见字迹端好,益疑之。杨醒,薛问:“戏具何来?”答:“欲学之。”又问诗卷,托以假诸友人。薛反复检玩,见最后一叶细字一行云:“某月日连琐书。”笑曰:“此是女郎小字,何相欺之甚?”杨大窘jiǒng,不能置词。薛诘jié之益苦,杨不以告。薛卷juǎn挟xié之,杨益窘,遂告之。薛求一见。杨因述所嘱。薛仰慕yǎng mù殷切yīn qiè;杨不得已,诺之。夜分,女至,为致意焉。女怒曰:“所言伊何?乃已喋喋dié dié向人!”杨以实情自白。女曰:“与君缘尽矣!”杨百词慰解,终不欢,起而别去,曰:“妾暂避之。”
ある日、薛生(薛という名の生員。県試の合格者)がやって来ると、ちょうど楊于畏は昼寝をしていた。部屋の中を見ると、琵琶や囲碁の道具が並んでいたが、薛は楊がこういうものが得意ではないことを知っていた。また本をめくってみると宮詞を書いた紙を見つけた。見ると字の筆跡が端正で綺麗で、益々不思議に思った。楊が目覚めると、薛が尋ねた。「これらの遊び道具(琵琶や碁盤)はどうしたんだい?」楊が答えた。「ちょっと学ぼうと思ってね。」薛はまた詩集はどうしたのか尋ねると、楊は友人から借りたと答えた。薛は何度もページをひっくり返して細かく内容を見ていたが、最後の1ページに細かい字でこう書かれているのを見つけた。「某月某日連瑣が記(しる)す。」それで薛は笑って言った。「これは女性の幼名じゃないか。どうしてこんな嘘を言って騙すんだい。」楊はたいへん困って、言葉が出なかった。薛は益々強く詰問したが、楊は本当のことを言うことができなかった。薛が詩集の巻物を巻いて持って行こうをしたので、楊は益々困り果て、遂に本当のことを彼に話した。薛はその女に一目会いたいと言った。楊はそれで彼女に言いつけられたことを話した。薛は心の底からなんとか会わせてくれと懇願した。楊はそれでやむを得ず、承諾した。夜になって、女がやって来ると、楊はこのことを伝えた。女は怒って言った。「あなたにどう言いましたっけ?それなのに、他人にベラベラ話してしまうなんて!」楊はその時の実際の状況を説明した。女が言った。「あなたとのご縁ももう尽きました!」楊はあれこれ様々に理由を説明して女の怒りを解こうとしたが、結局女の機嫌を直すことができず、女は立ち上がるとお別れの言葉を口にした。「わたしはしばらく身を隠すことにしますわ。」
明日,薛来,杨代致其不可。薛疑支托zhī tuō,暮与窗友二人来,淹留yānliú不去,故挠náo之:恒终héng zhōng夜哗huá,大为杨生白眼,而无如何。众见数夜杳然yǎo rán,浸有去志,喧嚣xuān xiāo渐息。忽闻吟声,共听之,凄婉qī wǎn欲绝。薛方倾耳神注,内一武生王某,掇duō巨jù 石投之,大呼曰:“作态不见客,甚得好句,呜呜恻恻wū wū cè cè,使人闷损mèn sǔn!”吟顿止。众甚怨之。杨恚愤huì fèn见于词色。次日,始共引去。杨独宿空斋kōng zhāi,冀jì女复来,而殊shū无影迹yǐng jì。
翌日、薛生が来たので、楊于畏は代わりに女が会いたくないと言ったことを告げた。薛は楊がわざといい加減に口実を設けていると疑い、夕方、県学で同じ生員の友人とふたりでやって来て、そのまま居座って帰らず、わざと楊の邪魔をし、一晩中大騒ぎをし、大いに楊生を怒らせ白い目で見させたが、どうしようも無かった。友人たちは幾晩も続けて女が姿を現さなかったので、次第に関心も失せ、騒ぎも次第に収まった。ふと詩を吟じる声が聞こえ、皆でこれを聞くと、この上なく物悲しかった。薛方は耳をそばだて傾聴していたが、友人たちの中で武生(武科挙の県試を合格した生員)の王某が、巨石を持ち上げてそれを投げつけ、大声で叫んで言った。「わざともったいぶって客に会わず、こんな佳い句を吟じたとて、エンエンむせび泣いて、気が滅入るだけだ!」詩を吟じる声はたちまち止まってしまった。皆は王生をたいへん恨んだ。楊于畏は怒気が顔色に顕れた。翌朝、ようやく皆はそこを引き揚げた。楊于畏はひとり書斎に残り、連瑣がまた会いに来てほしいと望んだが、全く彼女の影も形も見ることができなかった。
逾yú二日,女忽至,泣曰:“君致恶宾,几吓煞妾!”杨谢过不遑huáng。女遽jù出,曰:“妾固谓缘分尽也,从此别矣。”挽wǎn之已渺miǎo。由是月余更不复至。杨思之,形销xiāo 骨立,莫可追挽wǎn。
また二日経って、女が突然やって来て、泣きながら言った。「あなたが悪い客を連れて来られるから、わたしは死ぬほどびっくりしました。」楊于畏は慌てて謝った。女はそそくさと外に出ると、言った。「わたしはもうとっくにあなたとのご縁は尽きたと申し上げました。これより永久にお別れします。」楊は彼女を引き留めようと思ったが、もう影も形もなかった。これよりひと月余り経ち、女はもう再びやって来なかった。楊は連瑣のことを思う余り、身体がゲッソリ痩せて骨と皮だけになってしまったが、もはや彼女を追いかけ連れ戻すことはできなかった。
一夕,方独酌zhuó,忽女子搴帏qiān wéi入。杨喜极,曰:“卿qīng见宥yòu耶yē?”女涕tì垂膺chuí yīng,默不一言。亟qì问之,欲言复忍,曰:“负气去,又急而求人,难免愧恧kuì nǜ。”杨再三研诘yán jié,乃曰:“不知何处来一龌龊wò chuò隶lì,逼充媵yìng妾。顾念清白裔yì,岂qǐ屈身qū shēn舆台yú tái之鬼?然一线弱质,乌能抗拒?君如齿妾chǐ qiè在琴瑟qín sè之数,必不听自为生活。”杨大怒,愤将致死;但虑人鬼殊途,不能为力。女曰:“来夜早眠,妾邀君梦中耳。”于是复共倾谈qīng tán,坐以达曙dá shǔ。女临去,嘱勿昼眠,留待夜约。杨诺之。
ある晩、楊于畏がちょうどひとり座って酒を飲もうとしていると、突然女が帷(とばり)をまくり上げて入って来た。楊はたいへん喜び、言った。「あなた、わたしを赦してくださらない?」女は涙の雫が胸元に垂れていたが、黙って一言も語らなかった。楊は何度も連瑣に尋ねたが、彼女は何度か口を開くのだが、恥ずかしくて言うに忍びなく、こう言った。「わたしが意固地になって出て行きましたのに、また急な事情でなすすべも無くなり、あなたにおすがりするのは、お恥ずかしい限りです。」楊が何度も繰り返し問い質すと、連瑣はようやく言った。「どこから来た品の無い下劣な(齷齪wò chuò)小役人(隷lì)か存じませんが、わたしに妾(めかけ)になれと迫るのです。わたしは代々品行方正な家柄の子孫(清白裔)でありますのに、どうしてわざわざ卑賎な奴婢如きの亡霊に身をやつさないといけないのでしょう?けれどもか弱い女の身、どうしてそれに抗(あらが)うことができましょう。あなたがもしわたしを夫婦だと認めてくださるなら、きっと知らぬ顔はなさらないでしょう。」楊は大いに腹を立て、相手を殺してしまわんばかりに憤慨した。けれどこの世とあの世では世界が違うので、力になれないのではないかと心配した。女が言った。「夜になったら、あなたは早く休んでください。わたしは夢の中であなたにお願いに上がります。」そしてふたりはまた仲睦まじく語り合い、そのまま夜明けまで座っていた。女はそこを去るに当り、昼間は眠らず、夜の約束まで待っているよう言いつけた。楊はこれを承諾した。
因于午后薄bó饮,乘醺xūn登榻,蒙衣méng yī偃卧yǎn wò。忽见女来,授以佩刀pèi dāo,引手去。至一院宇yuàn yǔ,方阖门hé mén语,闻有人掿nuò石挝zhuā门。女惊曰:“仇人至矣!”杨启户qǐ hù骤出zhòu chū,见一人赤帽青衣,猬毛wèi máo绕喙rào huì。怒咄duō之。隶横目相仇,言词凶谩。杨大怒,奔之。隶捉石以投,骤如急雨,中杨腕,不能握刃。方危急所,遥见一人,腰矢野射。审视之,王生也。大号乞救。王生张弓急至,射之,中股;再射之,殪yì。杨喜感谢。王问故,具告之。王自喜前罪可赎shú,遂与共入女室。女战惕zhàn tì羞缩xiū suō,遥立不作一语。案上有小刀,长仅尺余,而装以金玉,出诸匣,光芒guāng máng鉴影jiàn yǐng。王叹赞不释手。与杨略话,见女惭惧cán jù可怜,乃出,分手去。杨亦自归,越墙而仆pū,于是惊寤jīng wù,听村鸡已乱鸣矣。觉腕中痛甚,晓而视之,则皮肉赤肿。
翌日の午後、楊于畏は少しばかり酒を引っかけ、酔った勢いで床に入り、服を着たままで眠りについた。ふと女が来るのが見え、楊に腰に挿す刀を授けると、手を引いて出かけた。とある屋敷に着き、ふたりがちょうど門を閉めて話をしていると、ふと誰かが石を持って門を叩くのが聞こえた。女は驚いて言った。「仇が来ました。」楊が扉を開け急いで出てくると、ひとりの赤い帽子に青い上着の役人の装束の男の姿が見えた。男は口の周りにハリネズミのような堅い髭を生やしていた。楊は怒ってこの男を叱りつけた。その小役人の男は楊を仇のように睨みつけ、酷く傲慢な口をきいた。楊は大いに怒り、男の方に向かって行った。小役人は石を掴むとそれを投げつけ、それがまるでにわか雨のように急に次々投げられて来たので、それが楊の腕に当り、刀を握ることができなくなった。ちょうど危急な状況であったところ、遠くでひとりの男の姿が見え、腰には弓矢を提げていた。この男をよく見ると、武生の王であった。それで大声で助けてくれと叫んだ。王生は弓を引いて急いで近づき、小役人に向け弓を射ると、その太ももに当った。再度弓を射ると、小役人は死んだ。楊は喜んで王生に礼を言った。王がどうしたのか尋ねたので、楊はつぶさに事情を説明した。王はこの前女を怒らせた罪は赦してもらえると知り喜び、遂に王は楊と一緒に女の部屋に入った。女は恐怖でブルブル震え、恥ずかしくてたじろき、遠くに突っ立って一言も言葉を発しなかった。テーブルの上には小刀が置かれていたが、その刃渡りは一尺余り(30センチ強)に過ぎなかったが、金や玉で装飾されていた。箱から取り出してその刀を見ると、刃先はキラキラ輝き、人の姿を映し出した。王はこの小刀がとても気に入り、手放すことができなかった。王が楊と二言三言話をしていると、女は恥ずかしがり、また可哀そうなほど怖がって、そこを出て行ったので、ふたりはそこで別れた。楊もまたひとりで帰り、壁を越えたところで前に転んでしまい、それで驚いて夢から目覚めた。村の雄鶏がもう朝を告げて盛んに鳴いているのが聞こえた。腕がとても痛むので、明るくなってからそこを見てみると、腕の皮膚が赤く腫れていた。
亭午,王生来,便言夜梦之奇。杨曰:“未梦射否?”王怪其先知。杨出手示之,且告以故。王忆梦中颜色,恨不真见;自幸有功于女,复请先容。夜间,女来称谢。杨归功王生,遂达诚恳。女曰:“将伯之助qiāng bó zhī zhù,义不敢忘。然彼赳赳jiū jiū,妾实畏之。”既而曰:“彼爱妾佩刀。刀实妾父出使粤中,百金购之。妾爱而有之,缠chán以金丝,瓣bàn以明珠。大人怜lián妾夭亡yǎo wáng,用以殉葬xùn zàng。今愿割爱gē ài相赠zèng,见刀如见妾也。”次日,杨致此意。王大悦。至夜,女果携刀来,曰:“嘱伊珍重,此非中华物也。”由是往来如初。
お昼になり、王生がやって来て、昨晩奇妙な夢を見たと話し出した。楊于畏が言った。「夢の中で弓矢を射らなかったかい?」王はどうして楊が先にそれを知っているのか不思議に思った。楊は腕を出して王に見せると、いきさつを説明した。王は夢の中でのその女の容貌を思い出したが、実物に会えないのを残念に思った。王は自分が女を助ける功績があったことを幸いに思い、また楊に、女にこのことで自分を紹介するよう要求した。夜になって、女がやって来てお礼を言った。楊は仇を打った功績は王生にあると言い、彼が女に一目会いたいとの心からの気持ちを伝えた。女が言った。「他の方がわたしを助けてくださったことを、わたしは決して忘れません。けれどもあの方の猛々しい様子は、わたしは本当に怖いと思いました。」そう言ってから更に言った。「あの方はわたしの佩刀を気に入っておられました。あの小刀は、実はわたしの父が粤中(今の広東、広西)に遣いで派遣された際に、百両の銀子で購入したものです。わたしはこの刀が好きで手元に置き、金糸を巻き付け、真珠の象嵌を施しました。大人たちはわたしが十七の時急病で死んだことを哀れに思い、この刀を一緒に埋葬してくれました。今はこの愛する刀を手放し、あの方に差し上げたいと思います。この刀を見たら、わたしに会ったと思ってください。」翌日、楊は王に女の気持ちを伝えた。王はたいへん喜んだ。夜になり、女が刀を携えて来て、言った。「あの方に、この刀を大事にするよう言ってください。この刀は中華(中国の中原地方)の物ではありませんから。」これからというもの、楊と女の往き来はまた最初の頃のようになった。
积数月,忽于灯下笑而向杨,似有所语,面红而止者三。生抱问之。答曰:“久蒙眷爱juàn ài,妾受生人气,日食烟火,白骨顿有生意。但须生人精血,可以复活。”杨笑曰:“卿qīng自不肯,岂我故惜之?”女云:“交接后,君必有廿余日大病,然药之可愈。”遂与为欢。既而着衣起,又曰:“尚须生血一点,能拚pàn痛以相爱乎?”杨取利刃rèn刺臂cì bì出血;女卧榻tà上,使滴dī脐qí中。乃起曰:“妾不来矣。君记取百日之期,视妾坟前,有青鸟鸣于树巅diān,即速发冢。”杨谨受教。出门,又嘱曰:“慎记勿忘,迟速皆不可!”乃去。
何ヶ月か過ぎ、ある時ふと女が灯下で笑いながら楊于畏の方を見て、何か言いたそうにしていたが、顔を真っ赤にして、言いよどむこと三度に及んだ。楊は女の肩を抱いて、どうしたのか尋ねた。女は答えて言った。「これまで長い間あなたに可愛がっていただいて、わたしは生きた人間の息吹を受け、毎日人間の煙や火を食べたので、白骨がにわかに生気を帯てきたのです。ただあと生きた人間の精液や血液をもらいさえすれば、また生き返ることができるのです。」楊は笑って言った。「おまえ自身が望まないのでなければ、どうしてわたしが故意にそれを惜しむことなどあろうか?」女が言った。「わたしたち、身体を交えて後、あなたは必ず二十日余りすると大病を患いますが、薬を飲めば直ります。」遂に女と身体を合わせ、快楽を味わった。事が終わり、女は着物を着ると、また言った。「まだ新鮮な血液が少し必要です。痛くてもいいなら、今ここでわたしと愛し合っていただけますか?」楊は鋭利な刃物を取り出し、腕を刺して血を出し、女はベッドに横になり、血をへその中に滴(したた)り落とした。女はそれで起き上がって言った。「わたしはもうここへは参りません。あなた、よく憶えておいてくださいね。これから百日が経ちましたら、わたしの墓の前を見て、青鳥(西王母の使者と伝えられ、その形が鸞luán(鳳凰に似た伝説上の鳥)に似ている)が木のてっぺんで鳴いたら、すぐに塚を掘ってください。」楊は謹んで女の教えを受けた。女は門を出る時、またこう言い含めた。「慎んで記憶し、忘れないでください。遅くても早くてもだめですよ。」そう言うと、行ってしまった。
越十余日,杨果病,腹胀欲死。医师投药,下恶wù物如泥,浃辰 jiā chén而愈yù。计至百日,使家人荷hè锸chā以待。日既夕,果见青鸟双鸣。杨喜曰:“可矣。”乃斩zhǎn荆jīng发圹kuàng。见棺木已朽,而女貌如生。摩之微温。蒙衣méng yī舁yú归,置暖处,气咻咻xiū xiū然,细于属zhǔ丝。渐进汤酏yǐ,半夜而苏。每谓杨曰:“二十余年如一梦耳。”
また十数日経ち、楊は果たして病気になり、腹が張って死にそうになった。医師が投薬すると、汚いものが泥のように排泄され、十二日(干支が一巡する日数)すると治癒した。日にちを計って百日経つと、家人に土を掘る鍬を担がせ、墓場の前で待機させた。日が既に西に傾くと、果たして青鳥が二羽鳴くのが見えた。楊は喜んで言った。「大丈夫だ。」それで荊(いばら)を刈り取って墓穴を掘った。見ると柩の木は既に朽ちていたが、女の容貌はまるで生きているかのようであった。手でさすってみると微かに温かかった。服を着せて担いで帰り、暖かいところに置くと、ハーハーと荒い息をはじめ、弱い息遣いが続いた。ゆっくり薄いお粥を食べさせ、夜半になると女は目覚めた。それからというもの、女は常々楊に言った。「死んでからの二十年余りは、まるで夢をみていたかのようだわ。」