「侠」とは、おとこだて、義理人情に厚く、弱い者の味方をする気概のある人物のことです。それでは侠女とはどんな女のことでしょうか?この物語の主人公、顧生は、貧乏書生で、貧しく嫁取りもできず、書を書いたり絵を描いて暮らしていたのですが、向かいに老婆と美しい少女のふたりが引っ越してきて、このふたりと関わるうちに、この「侠女」たる少女のことが次第に分かってきて……、という話です。
侠女
顾生,金陵人,博于材艺,而家綦qí贫。又以母老不忍离膝lí xī下,惟日为人书画,受贽zhì以自给。行年二十有五,伉俪kàng lì犹虚。对户旧有空第,一老妪yù及少女税居shuì jū其中。以其家无男子,故未问其谁何。一日偶自外入,见女郎自母房中出,年约十八九,秀曼xiù màn都雅dū yǎ,世罕其匹shì hǎn qí pǐ。见生不甚避,而意凛如lǐn rú也。生入问母,母曰:“是对户女郎,就吾wú乞qǐ刀尺。适言其家亦止一母。此女不似贫家产。问其何为不字,则以母老为辞。明日当往拜其母,便风以意。倘所望不奢shē,儿可代养其老。”
生員(科挙の第一段階の県試に合格し、県学の学生の資格を得た者)の顧は金陵(今の南京)の人で、博識で才知に富んでいたが、家はたいへん貧しかった。また母が年老いて身辺を離れるに忍びず、日々人のために書を書いたり絵を描き、その謝礼をもらって生活をしていた(受贄zhì以自給)。年齢は二十五になるが、まだ妻帯していなかった(伉儷kàng lì猶虚)。向かいの家は元々空き家であったが、ひとりの老婆と少女がそこを賃借した。その一家には男手がいなかったので、誰もその一家の来歴を尋ねる者はいなかった。ある日たまたま外から戻ると、女性が母屋から出て来るのが見えた。歳の頃は十八九、綺麗で優しく(秀曼xiù màn)、しとやかで(都雅dū yǎ)あること、他に比べようもなかった(世罕其匹shì hǎn qí pǐ)。女は顧生を見ても避けようとせず、気持ちは厳然として、人に媚びるような様子も無かった。顧生は家に入ると母親に何の用事だったのか尋ねると、母親が言った。「あの子は向かいの家の娘さんで、わたしにハサミと物差しを借りに来られたの。さっきあの娘は家にお母さんひとりしかいないと言ってたわ。この娘はでも貧しい家の生まれではないようだった。どうしてまだ嫁に行かないのと聞く(問其何為不字)と、母が老いて面倒を見る必要があると言っていた。明日は母親に会ってみて、ついでにどうするつもりか聞いてみよう(便風以意。「便風」は「順便」)。もし高望みしないなら、おまえが代わりにあの娘の母親の面倒を見ておやり。」
明日造其室,其母一聋媪lóng ǎo耳。视其室并无隔宿粮。问所业,则仰女十指。徐以同食之谋试之,媪意似纳而转商其女。女默然,意殊不乐。母乃归。详其状而疑之曰:“女子得非嫌吾贫乎?为人不言亦不笑,艳如桃李而冷如霜雪,奇人也!”母子猜叹而罢。
翌日その家に行ってみると、母親は耳の聞こえない老婆であった。家の中を見ると、翌日の食糧の蓄えも無い(無隔宿糧。隔は隔夜のこと)ようであった。何をして暮らしているのか尋ねると、娘の手仕事に頼って暮らしている(仰女十指)とのことだった。顧の母親がおもむろに一緒に暮らさないかと聞いてみると、老婆は満更でも無さそうで、娘に相談した。女は黙って聞いていたが、内心とても不満そうだった。母親はそれで家に帰った。息子にその詳細を報告すると、不思議そうに言った。「あの娘は我が家が貧しいのを嫌っているのかしらね?話もしないし笑いもしないんだ。顔はスモモのように綺麗だけど、態度は氷のように冷たいの。変わった娘だね。」母と子は思い出してはため息をつき、諦(あきら)めるしかなかった。
一日生坐斋头,有少年来求画。姿容甚美而意颇儇佻xuān tiāo。诘jié所自,以邻村对。嗣sì后三两日,辄zhé一至。稍稍shāo shāo稔熟rěn shú,渐以嘲谑cháo xuè,生狎抱xiá bào之亦不甚拒,遂私焉。由此往来昵nì甚。会女郎过,少年目送之,问为谁?对以邻女。少年曰:“艳丽如此,神情何可畏?”
ある日顧生が書斎に座っていると、ひとりの少年が彼に絵を買い求めに来た。その少年は容姿は綺麗だが、性格は頗る軽薄なところがあった。少年にどこから来たか尋ねると、隣村から来たと答えた。それから二三日すると、またやって来た。次第に親しくなると、だんだん冗談を言う間柄になり、顧生がなれなれしく抱きついても別段拒むことなく、遂に肉体の関係を持つようになった。これより少年がやって来て関係を持つことが頻繁になった。向かいの娘がやって来るのに出逢うと、少年はそれを眺めて、あの娘は誰かと尋ねた。それで、隣の家の娘だと答えた。少年が言った。「顔はあんなに綺麗なのに、どうしてあんなに怖い表情をしているんだろう?」
少间,生入内。母曰:“适女子来乞米,云不举火者经日矣。此女至孝,贫极可悯mǐn,宜少周恤zhōu xù之。”生从母言,负斗粟,款门而达母意。女受之,亦不申谢。日常至生家,见母作衣履,便代缝纫;出入堂中,操作如妇。生益德之。每获馈饵kuì ěr,必分给其母,女亦略不置齿颊chǐ jiá。母适疽jū生隐处,宵旦xiāo dàn号啕háo táo。女时就榻tà省视xǐng shì,为之洗创敷药。日三四作,母意甚不自安,而女不厌其秽huì。母曰:“唉!安得新妇如儿而奉老身以死也!”言讫yán qì,悲哽bēi gěng。女慰之曰:“郎子大孝,胜我寡母孤女多矣!”母曰:“床头蹀躞dié xiè之役,岂孝子所能为者?且身已向暮,旦夕犯雾露fàn wù lù,深以祧tiāo续xù为忧耳。”言间,生入,母泣曰:“亏娘子良多,汝无忘报德。”生伏拜之。女曰:“君敬我母,我勿谢也,君何谢焉?”于是益敬爱之。然其举止生硬,毫不可干。
しばらくして、顧生が家の中に入った。母親が言った。「ちょうど向かいの娘が米が欲しい、もう何日も米を炊いていないと言ってきた。この娘は大層孝行者で、とても貧しく気の毒なので、少しばかり援けてやってもいいんじゃないかい。」顧生は母の意見に従い、一斗の米を背負い、向かいの家の門を叩いて母親の意向を伝えた。女はこれを受け入れたが、特にお礼も言わなかった。娘は日ごろから顧生の家に行き、母親に会い、衣服や履物を作るのに、母に代わって縫物をしてやった。自由に家の中を出入りし、まるでその家の嫁のように家事仕事を行った。顧生は益々この娘の行いに感謝した。菓子の頂き物がある度、必ず娘の母にお裾分けしたが、女はそれにも少しもお礼を言わなかった。母親がちょうど陰部に腫れ物ができ、昼も夜も痛みで泣き叫んだ。女は度々ベッドに近づき病人の具合を診ると、母のため傷口を洗い薬を塗ってやった。毎日三四回もそうしてくれたので、母親はたいへん申し訳なさそうにしたが、女は傷口の汚れを厭わなかった。母親が言った。「ああ!わたしはどうしておまえのような息子の嫁を得て、わたしが年老いて死ぬまで世話をしてもらえないのかね!」 そう言うと、悲しみで声を詰まらせた。女は母親を慰めて言った。「あなたはこのような孝行息子をお持ちだから、うちのような寄る辺の無い母ひとり娘ひとりの家よりずっとましですわ。」母が言った。「病人の枕もとであれこれ世話をするのが、どうして孝行息子がするべきことかね。しかもわたしはもう老い先短く、遅かれ早かれ病死する身、最も憂うのはなんとか宗廟を絶やさぬことだけです。」そう言っていると、顧生が入って来たので、母は泣いて言った。「我が家はこの方にたくさんお世話になりました。おまえ、この方の恩に報いることを忘れてはなりませんよ。」顧生は伏して女に拝礼した。女が言った。「あなたがわたしの母を敬ってくれても、わたしはお礼を言っていないのに、あなたはどうしてわたしに礼をされるんですか。」それで顧生は益々この娘を敬愛した。しかし女の態度は堅苦しく、ちっとも気楽に接することができなかった。
一日女出门,生目注之。女忽回首,嫣然yān rán而笑。生喜出意外,趋而从诸其家,挑tiāo之亦不拒,欣然xīn rán交欢jiāo huān。已,戒生曰:“事可一而不可再。”生不应而归。明日又约之,女厉色不顾而去。日频来,时相遇,并不假以词色jiǎ yǐ cí sè。少游戏之,则冷语冰人lěng yǔ bīng rén。忽于空处问生:“日来少年谁也?”生告之。女曰:“彼举止态状,无礼于妾频矣。以君之狎昵xiá nì,故置之。请更寄语:再复尔,是不欲生也已!”生至夕,以告少年,且曰:“子必慎之,是不可犯!”少年曰:“既不可犯,君何犯之?”生白其无。曰:“如其无,则猥亵wěi xiè之语,何以达君听哉?”生不能答。少年曰:“亦烦寄语,假惺惺jiǎ xīng xīng勿作态。不然,我将遍播扬bō yáng。”生甚怒之,情见于色,少年乃去。
ある日女が家の門を出た時、顧生がじっとそれを見つめた。女は突然振り向くと、嫣然(えんぜん)と笑った。顧生は(思いもかけないことが起こったので)望外に喜び、急いで女に付いて彼女の家に行き、誘惑しても拒まれなかったので、喜んで男女の営みをした。事が終わり、女は顧生を戒めて言った。「このことは今日一度だけで、もう二度としませんからね。」顧生はそれには構わず家に帰った。翌日顧生はまた女と約束をしようとしたが、女は怖い顔をして相手にせず、行ってしまった。その後女は毎日何度も顧生の家に来て、しばしば互いに顔を合わせたが、女は決して顧生にやさしい言葉をかけたり嬉しそうな顔をしたりしなかった。顧生が少しでも女をからかおうものなら、冷酷な言葉をピシャリと返した。ある時ふと誰もいない所で、女が顧生に尋ねた。「毎日訪ねて来る少年は誰なの?」顧生は彼女に答えた。女が言った。「あの子はわたしに何度も無礼な振舞いや態度をしたわ。あなたがあの子と親密にされているから、捨て置いているのよ。あなたからあの子に伝えてちょうだい。またこのようなことをしたら、それは自分が生きていたくないということよ!」顧生は夜になって、少年にこのことを告げ、またこう言った。「おまえ、必ず慎むんだぞ。あの人にはちょっかいを出してはだめだ。」少年が言った。「ちょっかいを出すなと言っておいて、あんたはどうしてあの女といいことをしているんですか?」顧生はあの女とは何にも無いと言った。少年が言った。「もし何も関係が無いなら、みだらな言葉が、どうしてあんたから発せられたのが聞こえてきたんですかね?」顧生は答えることができなかった。少年が言った。「あの女に伝えてください。わざと善良そうなふりをして。もうそんなわざとらしいふりはやめろとね。さもないと、わたしがあちこちで言いふらしてますよ。」顧生はこのことでひどく腹を立て、その気持ちが顔にも表れたので、少年は出て行った。
一夕方独坐,女忽至,笑曰:“我与君情缘未断,宁非天数。”生狂喜而抱于怀,欻xū闻履声籍籍jí jí ,两人惊起,则少年推扉入矣。生惊问:“子胡为者?”笑曰:“我来观贞洁zhēn jié人耳。”顾女曰:“今日不怪人耶?”女眉竖shù颊jiá红,默不一语,急翻上衣,露一革囊gé náng,应手而出,而尺许晶莹匕首bǐ shǒu也。少年见之,骇hài而却走。追出户外,四顾渺然miǎo rán。女以匕首望空抛掷pāo zhì,戛然jiá rán有声,灿càn若长虹,俄é一物堕duò地作响。生急烛zhú之,则一白狐身首异处矣。大骇。女曰:“此君之娈童luán tóng也。我固恕shù之,奈nài渠qú定不欲生何!”收刃rèn入囊。生曳yè令入,曰:“适妖物yāo wù败意,请俟sì来宵xiāo。”出门径jìng去。
ある日の夜、ちょうど顧生がひとりで座っていると、女が突然やって来て、笑って言った。「わたしとあなたの男女の情縁がまだ断たれていないのは、まさか神様が定められたんじゃないわね。」顧生は狂喜し、彼女を胸に抱いたところ、突然履物のガタガタという音が聞こえ、ふたりが驚いて起き上がると、少年が扉を開けて入って来た。顧生が驚いて聞いた。「おまえ、何しに来たんだ?」少年が笑って言った。「わたしは貞操の堅い女を見に来ただけですよ。」女を顧(かえり)みて言った。「今日はわたしを咎めないのかい?」女は怒って眉毛を吊り上げ、頬を真っ赤にし、黙って一言も発せず、急いで上着をひっくり返すと、中から革(かわ)の袋が現れ、その手で取り出したのは、一尺(30センチ)ほどの長さの透明でキラキラ輝く匕首(あいくち)であった。少年はこれを見て、びっくりして逃げた。女は門の外まで追いかけたが、四方を見ても影も形も無かった。女が匕首を空に向け投げると、甲高い叫び声が響き、目に眩しい光が雲間に輝き、燦爛とした虹のようであったが、しばらくするとドスンと物が落ちる音が響いた。顧生が急いで蝋燭の灯りでそれを照らして見ると、一匹の白い狐で、身体と首が既に分断されていた。顧生は大いに驚いた。女が言った。「これがあなたのお稚児さん(娈童luán tóng。男色の相手をする子供)よ。わたしは元々許してあげていたのに、どうしてこの子は生きていたくなかったのかしら。」匕首をしまって革袋の中に入れた。顧生が女の手を引き部屋の中に入ると、女は言った。「さっきの化け物のお陰で気分が害されたわ。明日の晩までお待ちになって。」門を出るとそのまま帰って行った。
次夕女果至,遂共绸缪chóu móu。诘jié其术,女曰:“此非君所知。宜须慎秘,泄恐不为君福”又订以嫁娶jià qǔ,曰:“枕席焉zhěn xí yān,提汲焉tí jí yān,非妇伊何也?业夫妇矣yǐ,何必复言嫁娶乎?”生曰:“将jiāng勿wù憎zēng吾wú贫耶yé?”曰:“君固贫,妾富耶?今宵xiāo之聚jù,正以怜lián君贫耳。”临别嘱曰:“苟且gǒu qiě之行xíng,不可以屡lǚ。当来我自来,不当来相强无益。”后相值,每欲引与私语,女辄zhé走避。然衣绽zhàn炊薪chuī xīn,悉为纪理jì lǐ ,不啻chì妇也。
翌日の夜、女は果たしてやって来て、遂に共に身体を絡み合わせた(綢繆chóu móu)。顧生が狐の化け物を殺した術を尋ねると、女が言った。「これはあなたの知ったことでは無いわ。慎重に、秘密にしておく方がいいですわ。秘密が漏れると、恐らくあなたにとって良いことにはならないわ。」顧生はまた彼女に嫁に娶る相談をしたが、女は言った。「あなたと枕を共にしていますし、家事もやっておりますのに、これが妻でなければ何なのですか?もう夫婦として暮らしていますのに、どうしてまた嫁に娶るなどとおっしゃるの?」顧生が言った。「わたしが貧乏だから嫌がっているのではないですか?」すると女が言った。「あなたは固より貧しいけど、わたしは金持ちですか?今宵あなたとご一緒したのは、正にあなたの貧しさを憐れんでのことですわ。」別れる時、女はまた顧生に言い含めて言った。「かりそめの行為は、度々やってはいけないことです。こちらに来るべき時は、わたしが自分で来ますから、来るべきでない時に、あなたが無理強いしても良いことはないですわ。」それ以降彼女に会う度に、彼女を引っ張って自分の思いを伝えようとしたが、女はいつも向こうへ行ってしまってそれを避けた。けれども着物の綻(ほころ)びを繕ったり飯を炊くことは、全てちゃんと行い、その振舞いは妻に他ならなかった。
积数月,其母死,生竭力jié lì葬zàng之。女由是独居。生意孤寝gū qǐn可乱,逾垣yú yuán入,隔窗频呼,迄qì不应。视其门,则空室扃jiōng焉。窃疑qiè yí女有他约。夜复往,亦如之。遂留佩玉pèi yù于窗间而去之。越日yuè rì,相遇于母所。既出,而女尾wěi其后曰:“君疑妾耶?人各有心,不可以告人。今欲使君无疑,乌得可?然一事烦急为谋。”问之,曰:“妾体孕yùn已八月矣,恐旦晚dàn wǎn临盆lín pén。‘妾身未分明’,能为君生之,不能为君育之。可密告母觅mì乳媪rǔ ǎo,伪为讨螟蛉míng líng者,勿言妾也。”生诺,以告母。母笑曰:“异哉此女!聘之不可,而顾私于我儿。”喜从其谋以待之。
何ヶ月か経って、女の母が亡くなり、顧生はできるだけのことをして(竭力jié lì)その母親を葬ってやった。女はこれより独り身になった。顧生は女がひとりで寝ているので、この機にいかがわしいことができるのではないかと思い、垣根を乗り越え、窓越しに何度も呼びかけたが、終始応答が無かった。家の入口の門を見ると、部屋には誰もおらず、門には閂(かんぬき)がかかっていた。ひそかに女が他所で逢引きしているのではないかと疑った。夜になってもう一度行ってみたが、また同じく留守であった。遂にいつも身に着けている玉の飾りを窓の敷居のところに置いて帰った。翌日、母親の部屋で女に会った。部屋を出ると、女が背後から言った。「あなたはわたしを疑っていらっしゃるの?人は皆それぞれ心に思っていることがあっても、他人には言えないものよ。今あなたの疑いを解こうと思っても、そんなことできないわ。でもひとつ急いでご相談することがあるの。」顧生が何のことか尋ねると、女は言った。「わたしはもう身ごもって八ヶ月になるの。おそらく間もなく臨月を迎えるわ。「わたしはあなたの家に嫁入りしていない」(妾身未分明)ので、あなたのために子を生むことはできても、あなたのために子を育てることはできません。こっそりお母さんに乳母を捜して来てもらって、わざと外から養子(螟蛉míng líng。アオムシのことだが、ジガバチが青虫を養い育てて自分の子とするという故事から、養子の意味で使われる)を見つけて来たと嘘を言って、決してこの子を生んだのはわたしだとは言わないでください。」顧生はそれを承諾し、母親にその旨を告げた。母は笑って言った。「この娘は変わっているね。嫁入りはできないと言っておいて、密かにうちの息子と誼を遂げるんだから。」喜んで女の申し出に従うと、子供が生まれるのを待った。
又月余,女数日不至,母疑之,往探其门,萧萧xiāo xiāo闭寂bì jì。叩kòu良久,女始蓬头péng
tóu垢面gòu miàn自内出。启而入之,则复阖hé之。入其室,则呱呱gūgū者在床上矣。母惊问:“诞几时矣?”答云:“三日。”捉zhuō绷席bēng xí而视之,则男也,且丰颐fēng yí而广额。喜曰:“儿已为老身育孙子,伶仃líng dīng一身,将焉所托jiāng yān suǒ tuō?”女曰:“区区qū qū隐衷yǐn zhōng,不敢掬示jū shì老母。俟sì夜无人,可即抱儿去。”母归与子言,窃qiè共异之。夜往抱子归。
またひと月余り経ち、女が何日もやって来なかった。母親は疑問に思い、女の家に行って入口の門を見ると、閉め切られてひっそりとしていた。門をしばらく叩き続けると、女がようやくぼさぼさの髪、垢だらけの顔で中から出て来た。門を開けて中に入ると、女がまた門を閉めた。部屋の中に入ると、寝台の上で赤ん坊がオギャアオギャアと泣いていた。母親は驚いて尋ねた。「いつ生まれたの?」女は答えて言った。「三日前です。」おくるみを掴んでこれを見ると、男の子で、下あごがしっかり張り、おでこが広かった。母親は喜んで言った。「おまえはもうわたしのために孫を生んでくれた。それなのにおまえはやせ細ってひとりぼっちで、これから誰に頼って生きるつもりだい?」女が言った。「いささか秘密にしていることがあり、敢えてお母さまにも打ち明けることができません。夜まで待って人がいなくなったら、その子を抱いて行ってください。」母親は家に帰って息子にそのことを伝えると、密かにふたりとも不思議に思った。夜になって女の家に行き、子供を抱いて帰った。
更数夕,夜将半,女忽款门kuǎn mén入,手提革囊gé náng,笑曰:“我大事已了,请从此别。”急询其故,曰:“养母之德,刻刻不去诸怀。向云‘可一而不可再’者,以相报不在床笫chuáng zǐ也。为君贫不能婚,将为君延一线之续。本期一索而得,不意信水复来,遂至破戒而再。今君德既酬,妾志亦遂,无憾矣。”问:“囊中何物?”曰:“仇人chóu rén头耳。”检而窥之,须发交而血模糊。骇绝,复致研诘yán jié。曰:“向不与君言者,以机事不密,惧有宣泄xuān xiè 。今事已成,不妨相告:妾浙人。父官司马,陷于仇,彼籍 jí吾wú家。妾负老母出,隐姓名,埋头项,已三年矣。所以不即报者,徒tú以有母在;母去,又一块肉累lěi腹中,因而迟之又久。曩nǎng夜出非他,道路门户未稔rěn,恐有讹误é wù耳。”言已出门,又嘱曰:“所生儿,善视之。君福薄无寿,此儿可光门闾mén lǘ。夜深不得惊老母,我去矣!”方凄然qī rán欲询所之,女一闪如电,瞥piē尔间遂不复见。生叹惋wǎn木立,若丧sàng魂魄。明以告母,相为叹异tàn yì而已。
また数夜が過ぎ、ある日の夜半、女が突然門を叩いて入って来た。手には革袋を提げ、笑って言った。「我が大事は既に成就しました。これにてお暇(いとま)いたします。」顧生が急いでその故を尋ねると、女が言った。「あなたが母の面倒を見ていただいた恩は、いつもわたしの心から消し去ることができません。「一度はやり得ても、再びはできない」(可一而不可再)と申します。わたしの行った報いは、男女の睦(むつみ)ごとではないのです。あなたは貧しくて妻を娶ることができないので、あなたのために血脈が続くようにいたしました(為君延一綫之續)。元々一回で懐妊できると思っていました(本期一索而得)のに、思いがけず月経が来て懐妊できませんでした(不意信水復来)。それで誓いを破って、もう一度睦ごとを行ったのです。今あなたの恩にはもう報いましたし、わたしの志(こころざし)も遂げましたので、思い残すことはありません。」顧生が尋ねた。「袋の中は何だい?」女が言った。「仇の首です。」袋を確かめ、中を覗くと、髭や髪の毛が纏わりつき、血でべっとり染まっていた。びっくり仰天し、また子細を尋ねた。女は言った。「これまであなたに何も申し上げなかったのは、事が機密を要し、秘密が漏れることを怖れたからです。今は事が成就しましたので、あなたにお話ししても大丈夫です。わたしは浙江の人間です。父は役人で司馬の職に就いておりましたが、仇に陥れられ、家財を没収されました。わたしは老母を背に背負って家を出、姓名を隠し、行方を隠して(埋頭項。「埋没行踪」のこと)、もう三年になります。すぐに復讐をしなかったのは、他でもなく母親が生きていたからです。母が亡くなると、今度はお腹に子供ができたおかげで、また事を行うのが随分遅れました。昨晩外出したのは他でもなく、周囲の道や家の中をよく知らないので、間違いをしてしまうのを恐れたからだけです。」そう言って家の門を出ると、またこと付けて言った。「生まれた子供は、よく面倒をみてくださいね。あなたは福が薄く長生きできませんが、この子は一族の名誉を高めることができるでしょう。もう夜も遅く、年老いたお母さんを驚かせてはいけないので、わたしは行きますわ。」顧生がちょうど悲し気にどこへ行くのか聞こうとしていると、女は電光石火、瞬(まばた)きする間もなく姿が見えなくなった。顧生はため息をつき、ボオッと立ちつくし、魂が抜け落ちたようになった。翌日母親にこのことを告げると、母子互いにため息をつき、不思議なこともあるものだと思った。
后三年生果卒zú。子十八举进士,犹奉祖母以终老云。
その後三年して、果たして顧生は世を去った。子供は十八にして科挙の進士に合格し、その後祖母のお世話を、ずっと祖母が亡くなるまで続けたということだ。
异史氏曰:“人必室有侠女,而后可以畜xù娈童luán tóng也。不然,尔ěr爱其艾豭ài jiā,彼爱尔娄猪lóu zhū矣!”
異史氏曰く(作者の蒲松齢が、『史記』の「太史公曰く」を真似て、本文の論評をしている)、「男は家に必ず品行方正な侠女がいないといけない。それならお稚児さん(男色の相手をする子供)を囲っても構わない。さもないと、あなたが他人のブタ(浮気相手)を引き込めば、相手もあなたのメスブタ(浮気性の妻のこと)を誘惑するかもしれない。」
王阮亭云: “神龙见首不见尾。此侠女其犹龙乎!”
王阮亭(王士禛(1634–1711)、字は子真、阮亭と号す。別号は漁洋山人。山東新城(今の山東桓台)の人。清初の文壇の盟主)は言う。「神龍は首が見えるが尾は見えない(侠女が最後、忽然と姿を消したことを言っている)。この侠女はまるで龍のようだ。」