lily 《文豪ストレイドッグス コラボ》 | 向日葵の宝箱

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まじっく快斗・名探偵コナンの小説を中心に公開しています。
快青大好きですが腐ではないコナンと快斗の組み合わせも大好きです!
よろしくお願いします。

「太宰~!!今日のお前の仕事はこれだ~!!」
いつもの探偵社。

そして、いつも元気な国木田君が私のデスクに山積みの資料をドカッと置くと、その場で腕を組み仁王立ちして、般若の如き笑みを浮かべる。
「今日は逃がさんからな!!しっかりと仕事しろよ!?」
そんな国木田君を一瞥して私は立ちあがる。

「ん~。今日は私はパス。」
それじゃ、と云って手を振り私は立ちあがると、そのまま探偵社の扉を開き外に出た。

「『今日は』じゃなくて『今日も』だろうが!!!日本語の使い方がなっとらん。大体お前というやつはいつもいつも・・・!!!
云々かんぬんと。
尽きる事のない国木田君の語彙力(ごいりょく)に半ば感心しつつ、私はエレベーターの呼び出しボタンを押した。」
そして、エレベーターに乗る直前まで聞こえる国木田君の怒声罵声もいつも通り私は聞きながらす。
私にとってそれは、心地よいBGMでしかない事を国木田君だって知っているだろうに、ご苦労な事だ。

そうして赤レンガ造りの社屋(しゃおく)を出た私は、ある場所に向かった。

そこは、私の生涯ただ一人の友人が眠る場所。
私だけの秘密の場所。

そのはずなのだが・・・。

目的の場所である外国人墓地のはずれにある小さな石碑の前に立つと、私は胸の前で腕を組みつつ、丸めた右手を口許にあてる。

そこには花束が2つ。

一つは白いバラの花束。
もう一つは、百合の花に紫りんどうとかすみそうの組み合わせ。
どちらもこの墓石に飾るにふさわしい小ぶりなブーケだ。

「白いバラの花束は黒羽君か。なんとも彼らしい。」
そう言いながら私は口許を上げ笑みを浮かべる。
白いバラの花言葉は、心からの尊敬。
まさに彼の織田作への気持ちを純粋にこの花束で表しているのだろう。

そして、もう一つ。

「こっちは、敦君かな。」
そう言いながら私はその場で腰を下ろすとその花束を見つめる。

紫りんどうの花言葉は『正義』『誠実』と。
織田作の事は何も知らないはずの敦君。
もちろん本人も花言葉など知る由もないのだろうが。
なんとも織田作の為にある様なその花の花言葉に私は想いを馳せる。

私は黒羽君以外誰にも自らこの場所について語った事はない。

だが、あの毒リンゴ事件の直前。
敦君は私がこの場所にいた事を知っている。
おそらく、国木田君に私を連れてくるよう指示された敦君は、あの超人的な虎の嗅覚で私のにおいを追ってここまで辿り着いたのだろう。

その時にいくつか言葉を交わしたが、私が彼に与えた情報はただ一つ。

ここに眠る人間が私の『友人』だという情報だけ。
その後、私は敦君にその友人、織田作について語った事はないし、彼も聞こうとはしない。

だがあれから、時折、こうして花束が置かれているのは知っている。

敦君が、その誰とも知らぬ相手に対して、彼らしい律義さでこの場所に来ては手を合わせて、私の友人に祈りを捧げているのだろう。
そう思いながら、私はフッと息を吐いて微笑を浮かべた。

「織田作。ずいぶん賑やかになったものだね。」
私はそう云ってフフフッと口許に手をあてた。

「白いバラに百合の花か。ずいぶん豪勢じゃないか。」
私はそこに眠る友人をからかうつもりでそう口にした。

『やめてくれ。俺はそんな大層なガラじゃない。』
きっと織田作はそう云うだろう。

「花か・・・。私も今度何か選んでみようかな?何が良い?」
そう云いながら私は、いつも通り、石碑を背もたれにして頭の後ろで腕を組むと空を見上げた。

「織田作に似合う花・・・か。なんだろう?」
目を閉じながら思案にふける。

流れていく潮風が心地いい。
青い空にはゆっくりとわたぐもが静かに流れていく。
港から聞こえてくる汽笛の音。

そうして私は織田作と二人きりの時間を感じながら目を閉じると、心の中に友人の顔を思い浮かべた。
「天然・・・ていう花言葉を持つ花はあったかな?」
そう言いながら思い出したのは、織田作に生前に『リンゴ自殺って知ってるかい?』と、いつもの馴染みのバーで話を持ち掛けた時の事。

一般的に、リンゴ自殺というワードから連想するものは『毒リンゴ』で。
毒リンゴといえば、アニメ映画でも有名な『白雪姫』だろう。
だが、織田作の答えは『シンデレラ』だった。

まったく。
織田作の思考はいつも私の予想の範疇を越えている。

そんな人間は、世界でただ一人。
織田作だけだった。

織田作以外、誰も私の『想定外』を上回る人間は現れない。
織田作が私に死の間際に告げた通り。

今までも。
きっと、これからも。

まあ、そんなわけで『シンデレラ』という解答を導き出した織田作に、毒リンゴを食べたのは白雪姫だし、彼女は自殺じゃないよと私は説明を加えたのだが。
それも今となっては、織田作の天然エピソードの一つでしかない。

私はそれを振り返る事しか出来ない。
あの日、織田作を失ったあの日から、ずっと。

ただ、織田作の言葉を胸に、せめて人を救う側でいようと。
その方がいくぶんか素敵だ・・・と。

そう、云い残した、友の言葉を信じて。

「織田作。今の君なら数秒先どころか。もっと先の遠くの未来まで見透(とお)せるんじゃないのかい?」
私はそう云って笑った。

「ねぇ、織田作。彼らを待つのはどんな未来なんだろう。」
私はここに自分がもたれ掛かる為にそっと横に置いた花束に視線を向けた。

それから大きく息を吐いて私は立ちあがると、その花束を織田作の前に戻した。

「それじゃあ織田作、私は行くよ。」
そう告げると、踵を返し、『S.ODA』と書かれた石碑に背を向けて、ロングコートのポケットに手を入れたままゆっくりと歩き始めた。

「私一人の織田作でなくなってしまったのは少し寂しくもあるが、きっと・・・。」
そう云いながら少しだけ後ろを振り返って微笑んだ。

子ども好きな織田作の事だ。

きっと、笑顔で彼らとの時間を楽しんでいたのだろうと思いながら私はフッと息を吐くと、再び前を向いて歩き始める。
あの友の様に自分は寛大な人間でも慈悲深い人間でもない。

それでも。

迷いながら。
苦しみながらも。

懸命に自らの道を求め歩く。

そんな。
若きストレイドッグス達に。

幸多からん事を。
心から願って。

願わくば。
彼らを、陰ながら見守っていこう。

それがきっと、友の望むところだろうから・・・と。

私は、そう思いながら。
その場所を後にしたのだった。

Fin.