Masquerade Game(金田一ルート) 1 | 向日葵の宝箱

向日葵の宝箱

まじっく快斗・名探偵コナンの小説を中心に公開しています。
快青大好きですが腐ではないコナンと快斗の組み合わせも大好きです!
よろしくお願いします。

気がつくと、はじめは真っ暗な空間の中にただ一人立っていた。

「ここはどこだ?」
はじめは頭をひねり首を傾げる。

そもそも、今日は休日で。
しかも明日は日曜、あさっては祝日で三連休。

面倒な定期テストも、結果はさておき。
先日終えたばかりで、連休は家でだらだらごろごろと自由の時間を満喫出来る!!!と思い、朝食を食べた後、さっそく昼寝をむさぼっていた。
まあ、正確に言うと、まだ午前中なので、それを昼寝と呼ぶのかどうかは甚(はなは)だ疑問なのだが。
とにかく、そのはずだった。

ところが・・・。

「金田一君。」

暗闇の中で自分に呼び掛ける声に、はじめは「うげっ・・・。」と。
まず何よりも一番に、そんな人によっては品が悪いと言われそうな声をもらした。

そもそも、はじめ自身に『品の良さ』などというものを求める人間ははじめのまわりにはいないし、はじめ自身にとってそんな事は本当にどうでもいい事なのだが・・・。

(それよりもこの声・・・。)
はじめは心の中で呟く。

自分の人生の中で、唯一はじめが自分自身の誇りにかけて捕まえると誓った相手。

地獄の傀儡師と呼ばれ、数々の殺人をいわばプロデュースしてきた人間。
犯罪コーディネーター。

人の心の隙間に入り込み、人間の弱さに乗じてつけ込み、ごく小さな炎の様に灯った殺意を助長して、その火を業火へと転じさせて、人をまさに地獄に誘い込み、その殺意を決定(けつじょう)した想いへと変化させる。
そして、完璧な殺人プランを提示して、殺意を持った人間の想いを成就させるが、その結果が失敗に終わった時には、自分の芸術を汚した罪の報いとして、その実行犯すらも容赦なく殺してしまう。

非道で冷酷な連続殺人犯。
高遠遙一。

自称「犯罪芸術家」であり、奇術師の母親を持ち、自身も奇術師でもある。

最近は、怪盗キッドであり、夏にははじめにとって因縁の紺碧島。
そして、沖縄で共に高遠を協力して捕まえたはじめの友人でもある黒羽快斗になぜか固執しており、はじめとしては、あの高遠に事あるごとに絡まれる快斗が不憫でならないし、友人としては腹立たしくもある。

高遠遙一とはそんな人間である。

ぶっちゃけいえば、はじめとしては、一生顔を合わせたくない相手・・・である事は間違いない。
間違いないのだが、会わずにいられないのが運命というのだろう。

「高遠・・・。」
呼び掛けたはじめの目の前に、高遠の細面の姿がスゥッとまるで幽霊の様に浮かび上がる。

(気色わりぃ・・・。)
はじめは心の中で呟きを漏らす。
そんなはじめの心の声に気づいているのか、高遠は目許をニヤリと歪めると口許に手をあてて笑う。

「お久しぶりですね。」
「いいよ。お久しぶりどころか、一生お前は刑務所に入ってろよ。そうすれば世の中ちっとは平和になるんだから。」
視線を逸らさずにそう返したはじめに、高遠は口許を上げていやらしい笑みを浮かべる。

「刑務所に入ったくらいで私が何も出来なくなるとお思いですか?」
その言葉にはじめは目を見開く。
「なにっ・・・!?」
「その思考は単純お気楽と言わざる負えませんね。フフフッ・・・。」
再び口許に手をあてて高遠が楽し気に笑った。

「まあ、それはさておき・・・。」
声を上げようとしたはじめに隙を与える事なく、高遠はそう言うと再び顔を上げてはじめに笑い掛けた。

「金田一君。ショーの準備が整いました。」
その言葉にはじめは目を瞠った。

高遠が告げるショー。
つまりそれは、殺人ショー。

この世界で誰かが命を奪われる。
もしくは今この瞬間、命を奪われる危機に晒されているという事。

「だけどお前は・・・。」
刑務所の中・・・。
言い掛けたはじめに高遠が口許を上げる。

「あなたにはおわかりのはずですよ。私にとってそれはただのショーの合間の間隙(かんげき)に過ぎないという事を。」
その言葉にはじめはクッ・・・と唇を噛み締める。

確かに。
自分以上に、その高遠の言葉の意味を理解出来る人間はいない。

奇術師であり、簡単に堅牢で厳重な刑務所すら脱獄をしてしまう高遠にとって、その高度な防犯システムも、刑務所を取り囲む高い壁も大した意味のないものだという事を。

「まあ、今回はあなたの出る幕はありません。ゆっくりそこでご観覧ください。それでは。」
そう、一方的に告げると、高遠の影はスッと消えて、空間が再び真っ暗闇に戻る。

「今のは・・・。」
呟いたはじめはその場で掌を強く握り締める。
握った両の掌から嫌な汗が湧き出してくるのを感じる。

それからハッと気づいて顔を上げた。

『あなたの出る幕はありません。ゆっくりそこでご観覧ください。』
という事は・・・。

「黒羽・・・!?あいつまた・・・!!」
そう声を大きく上げたところで・・・。

はじめは、ガバッと布団から体を上げて飛び起きた。

「あれ?」
気づいてまわりを見渡すと、目の前にはマンガ本しか並んでいない本棚と、ほぼ物置と化している学校のプリントや教科書などが山積みの一応勉強机。
それに、窓から入り込む差し込む日差しがとても眩しい。

「はじめーーー!!!あんたはいつまで寝てるのよ!!」
階下から叫ぶ良く聞き慣れた母親の怒鳴り声。

「という事は・・・。夢、か?」
はじめは呟いて立ち上がると窓の外に視線を向けた。

「ただの夢・・・なのか?」
はじめは掌を握り、先ほどの夢の中の高遠の言葉を思い出しながら目許を細める。

夢はすぐに忘れてしまうものだというけれど、はじめはハッキリと、一言一句漏らさず記憶していた。
忘れる事など出来るはずもない。

あの高遠のショーの開幕宣言。
どうか、ただの夢である様に・・・と願ったけれども。

それから、携帯を手に取り、美幸からのメッセージを確認したはじめは、どうやら、ただの夢では終わらなそうだ・・・と。
すぐにそう直感するのであった。