果てしなき迷宮(ダンジョン) 1 | 向日葵の宝箱

向日葵の宝箱

まじっく快斗・名探偵コナンの小説を中心に公開しています。
快青大好きですが腐ではないコナンと快斗の組み合わせも大好きです!
よろしくお願いします。

『ちはやぶる 神代もきかず 竜田川
からくれなひに 水くくるとは』

紅葉が竜田川を埋め尽くす。
その光景は、まるで真っ赤な赤色が燃える様なあなたへの恋心を映し出す。
そんな不思議な景色。
きっと、わたしの想いがこれほどのものとは。
神様だって気づかないのかもしれない。

だけど私はずっと、思っているよ。

いつもそばにいてくれなくてもいい。
どんなに離れていても。
あなたの声がすぐ隣に聞こえなくても。

いつもすぐ。
まるで、風に流れる雲に姿を隠してしまう月のように。
姿が見えなくなってしまうあなたでも。

人目を避ける必要なんてない。
夢の中にすら、会いに来てくれないあなたなのだとしても。

待っても待っても。
どれだけ待ち続けても。
あなたはやっぱり来てくれないけれど。
それでも。

私はやっぱりあなたを思っているから。

ずっとずっと。
待ち続けているから。

だから、会いに来て。
必ず。

待っているからね。
約束だよ。
[newpage]
日本の古都。
京都。

その京都の中でも有数の観光地といわれる清水寺。

『清水の舞台から飛び降りる』
思い切った決断をする時に良く使われる言葉であるが・・・。

まさに、その場所で、清水の舞台から飛び降りる想いで普段はとても常識的で、控えめな彼女が、とても大胆な行動に出た。

数か月に目の前に現れた最愛の人を目の前にして、ネクタイを引きつつ顔を寄せるとその頬にキスをした。
頬への口づけではあるが、薄く顔を紅色に染めた彼女の想いはまさに『清水の舞台から飛び降りる』想いだったのだろう。

それを少し離れた場所で見ていた外国人は、思わずその瞬間を、持っていたスマートフォンのカメラにおさめた。
「It’s so cute!!!」
そう言って彼女は、その写真を自身のSNSに投稿した。

実は海外ではある程度知名度のあるインフルエンサーだったのだが、日本ではその事実はほぼ知られていない状況であった。

その後、死亡説さえ流れていた東の名探偵、工藤新一が京都で難事件を解決した・・・という話題が一時的にSNSなどで広まり拡散されていくが、その事実はその後、ある人物の知略により順調に沈静化されていく。

その為、日本国内でその情報が人々の話題に上がる事は皆無といってもいい状況の中で、彼も彼女も順調に元通りの穏やかな日常の中で、穏やかな暮らしを取り戻していた。

その平穏は、その後もずっと続いていくはずだった。

だが、望みは叶わない。
希望は裏切られる。

それが人の常である。

そして、彼らにとってもそれは、例外ではなかった。
[newpage]
東の高校生探偵、工藤新一が、ある組織により体を幼児化され、小学生の江戸川コナンとして過ごす様になってから数か月。
彼にもいろいろな変化が起きていた。

その変化というのは数えきれないほど多々あるが、彼にとって非常に大きな変化と呼べるのは、ずっと最大の敵でありライバルだった『怪盗キッド』の正体をある事件により知る事になり、今では、そのキッドである黒羽快斗の一番の親友になった・・・という事だった。

コナンは、キッドの組織壊滅にも惜しみなく助力、サポートを行い、結果、敵組織のボスからは、コナンがいなければ、組織が壊滅される事は無かった。
そういわしめる存在となった。

そして、最近では、休日になるとたびたびその快斗と約束をしては、阿笠邸で泊まり込み、日が変わるまで話題が尽きる事なく話続ける。
そういう日々が続いていた。

だが、コナンが今いるのは、阿笠邸ではなく、阿笠邸のすぐ隣にある工藤邸。
つまり、本来、工藤新一であるコナンからすると、自宅の居間に両親と共にいる・・・という状況だった。

「それで新ちゃん。」
居間のソファーで目の前に座る工藤優作、その隣に座る母の有希子が呼び掛けた。
その時だった。

トゥルルルル・・・。
コナンが持っているスマートフォンから呼び出し音が鳴り出す。

「ちょっと待って。はい。」
コナンがすかさず画面をスライドして、携帯を耳許にあてた。

「ああ、悪い。今はちょっと警察に呼ばれたりとかいろいろ用事があってバタついてるらしくて。今度また都合のいい日聞いとくから。じゃあな。」
コナンは手短に応えるとすぐに終話ボタンを押して息を吐いた。

「だぁれ?蘭ちゃんじゃなさそうね。」
興味深々という感じで身を乗り出した有希子にコナンが応える。
「ああ、あいつだよ。」
「あいつ?」
首を傾げた有希子を見て優作が口許を上げる。

「彼だね。2代目怪盗キッドであり、今は新一の無二の友ともいうべき黒羽快斗君。」
「正解。」
ズバリ正解を言い当てた優作にコナンは頷く。

「嘘!?あの黒羽君?」
「そうだよ。」
コナンは応えると息を吐いた。

「最近父さんが良くテレビに出てるだろ?だから、こっちに帰って来てるって知ったら、あの時の礼に挨拶したい・・・って。」
「なるほど。それにしても、私に挨拶とは・・・。律儀な子だね。」
「そういうヤツだよ。」
応えたコナンが苦笑するが、その様子を見ていた有希子が優作の隣で頬を膨らませる。

「だったら新ちゃんすぐに連れて来てくれればいいのに。どうせ優作も私もずっとここにいるんだし。」
その言葉にコナンがもう一度溜息を吐いた。
「そうはいかねぇよ。」
コナンは応えると顔を上げた。

「父さんと母さんがどうしてここにいるのか・・・。わかってるだろ?」
「ええ、新ちゃんが新ちゃんの体をちっちゃくしたあの組織とちょっと大変な事になりそうだから・・・って事でしょ?」
「そういう事。」
応えたコナンが再び溜息を吐いた。
その顔を見て有希子が訝し気に首を傾げる。

「いいじゃない。黒羽君て怪盗キッドで、IQ400の天才なんでしょ?マジックの腕も超一流で、人並み外れた運動神経と知略の持ち主で、おまけに変装も変声機なしで誰にでも一瞬でなりすます事が出来る凄い子なんでしょ?」
「ああ。」
頷いたコナンがわずかに視線を逸らした。

「だったら黒羽君にも手伝ってもらえばいいじゃない。まさに百人力で新ちゃんの力になってくれるじゃない?」
「だからダメなんだって。」
応えたコナンに有希子が優作の方を見て首を傾げた。

「なんで?」
たずねた有希子を見て優作が口許を上げる。

「それは、そんな危険に巻き込む事が躊躇われるほど、新一にとって彼が大切な友人だからだろう。」
「友人って。友達なのはわかるけど。ちょっとくらい・・・。」
「ダメなモノはダメなんだって。」
コナンはそう言うと、真剣な顔で有希子を見つめた。

「あいつの力が欲しくて俺はあいつのそばにいるんじゃない。」
「でも~・・・。」
「でもも何もないんだよ。俺は絶対あの組織とあいつを関わらせる事はしない。何があっても。そう決めてるんだ。」
応えたコナンに有希子が胸の前に両手の拳を上げて叫んだ。

「新ちゃんのバカ~!!黒羽君、私も会ってみたいのに!!新ちゃん全然連れて来てくれないんだもん!!」
最後に思いっきり本音を吐露した有希子にコナンが今日一番、深く大きな溜息を吐き出す。

「あいつには今のあいつが命がけで手に入れた大切な生活があるんだ。それを、こっちの都合で巻き込む事なんて絶対に出来ねぇからな。」
コナンは応えると前を向いた。

「とりあえず、あいつの事はいいから。昴さんが出かけてる間に。父さんと母さんのまわりで最近何か変わった事が無かったかとか。なんでもいいから話してくれ。」
「わかったわよ。でも、ちゃんと、黒羽君に会わせてよ。」
「わぁ~ったよ。そのうちな。」
応えたコナンに優作が苦笑を浮かべる。

「それじゃ、始めようか。」
優作のその声で、その話は打ち切りとなった。

そうして両親と話しながら、コナンは改めて心の中で誓う。

快斗をこの戦いに巻き込まない。
絶対に関わらせる事はしないのだ・・・と。