明け方になり、車が米花町に着くと、寺井に探偵事務所の前まで送ってもらっコナンは開いたスライドドアを抜けて外へと降り立つ。、
「それじゃ、とりあえず。ゆっくり休めよ。」
「ああ、サンキュー。」
そう声を掛けたコナンに快斗は笑って手を振り応えた。

そのいつも通りの快斗の姿にほっと息を吐きつつ微笑してコナンは右手を上げる。
そして、踵を返し探偵事務所に向かって歩き出した。

帰宅すると、すでに朝食の支度を始めていた蘭からコナンは、公安の刑事が来ていた時の話などを聞かされた。
それからもちろん、突然昨日夕刻に大阪で姿を現し、テロまがいの宣言をした怪盗キッドについても朝のニュースで流れていたため、否応なく話題に上がったキッドについても、コナンは出来るだけ当たり障りのない無難な答えを返して苦笑いを浮かべた。

そうして、コナンは日常へと戻っていった。

それから2週間くらい経過した頃、コナンは平次から、事件があった翌週の週末に快斗が平次の自宅を訪れていた事を聞いた。
平次の家を訪れた快斗は、和葉との約束通り、今回の事件について詳しく説明をしたらしい。

自分だって大怪我しているはずなのに、翌週早速大阪まで出向くところがなんとも律儀な快斗らしい・・・と。
コナンはそう思った。

そして、今回、平次と和葉が狙われる原因となったのは、以前平次が東都に状況した際に遭遇したある事件が原因だと説明したという。

その事件とは、コナンと平次、快斗の3人で都内を巡ろうと出かけた際に、ビルの屋上で自殺しようとしている女性を見つけた。
快斗はその女性から直接詳しい話を聞く事で、自殺を思いとどまらせる事が出来たが、その事件は始まりに過ぎなかった。

実はその事件には、大手銀行がビッグジュエルを紛失したように保険金詐欺を目論むというあり得ない計画が裏で画策されていたのだ。
また、紛失した責任を部下になすり付けた上に、自殺に見せかけて殺害した。
また、警察はその捜査について、金銭を受け取っていた関係から、正しい捜査は行わずに自殺と即座に断定したという、なんとも忌まわしい事件だった。

その時、ビルの屋上で女性を説得した快斗は、その直後、武装集団を引き連れて彼女を殺しに来た恋人であり、婚約者であった男性の上司から、キッドとなり彼女を守った。
また、いち早く真相を究明した平次もその場に現れて、その上司である銀行の頭取を追及した。

快斗は哀はしめしあわせてその光景をドローンで動画撮影を行い、キッドの名前で動画を大拡散させた。

その甲斐あって、自殺と見せかけられていた男性が実は殺害されていた事も、彼に着せられていた罪も、頭取が保険金詐欺の為に画策した計画もすべてが明らかにされた。
その捜査に2課の担当としてあたった中森警部は警視庁内ではかなり有名になり、一部では英雄扱いだとか・・・。
そんな話もあるのだが。

皮肉にも、その時拡散された画像が高遠の目に留まり、あの人心に長けた犯罪者は、即座に快斗と平次が深い繋がりがある仲である事を見抜いたらしい。
そして高遠は、紺碧島に行く前から、今回の計画を練り、紺碧島で捕まり脱獄した直後から動き出せるように爆弾や平次たちに関しての情報など準備を練り上げていたというのだ。

「なんてやつ・・・。」
その話を聞いたコナンは唇を噛み締めて呟いた。

紺碧島でコナン達がどれほど高遠一人に苦しめられたかは前述したとおりだが、それよりも以前からこんなにも恐ろしい犯罪をほぼ完璧な状態で計画していたのだ。

さすがに高遠逮捕から数週間。
まだ、高遠が脱獄したというニュースは流れていない。

だが、あの男の昏く根深い殺人への欲望がこれで収まったとも思えない。

それに、快斗のあの表情。
再点灯を始めた端末の液晶には何かが書かれていたはずなのだ。

それは、ほぼ間違いなく、次の高遠の殺人計画に関わるものに間違いないだろう。

そうして、快斗の心を引き裂き、苦しめぬく事にあの男は快感を覚えている。
だから・・・。

「絶対に、守るからな。」

誰もいない、たった一人の毛利探偵事務所の窓から見る夕焼けを見つめて。
コナンは、快斗の事を思いながら。

そう、心に強く誓っていた。

Fin.