ラベンダーの殺意《2024 ver.》 9 | 向日葵の宝箱

向日葵の宝箱

まじっく快斗・名探偵コナンの小説を中心に公開しています。
快青大好きですが腐ではないコナンと快斗の組み合わせも大好きです!
よろしくお願いします。

「それで、警部さん。私は何をお話すればよろしいのでしょう。」
再びソファーに腰を下ろすと、館長はそう言って笑みを浮かべた。
警部は館長とテーブルを挟んで立ったまま向かい合うと視線を鋭くして館長を見据える。

「率直にお伺いします。今回偽の予告状を作ったのは館長、あなたではないですか?」
その問いに館長はせせら笑う様に口許を上げる。
「バカな。そんな事をして私に何の得があるというのですか?」
館長はそう言うと、胸の前で腕を組み視線を鋭くする。

「警部さん、今この場に来たばかりのあなたに現状がお分かりにならないのは致し方ない事だと思いますが、あの予告状の為に私は多大なる被害を被っています。」
そう告げる館長は、胸ポケットからカードを取り出し、机の上でバンッとわざと大きな音がする様に叩きつけた。

「これが例のキッドの・・・。」
間に挟まれた状態でソファーに座ったまま呟いた毛利探偵に館長が頷く。
「そうですよ。これのおかげで、この美術館はこのまま廃館に追い込まれるかもしれない。こんなふざけたカード一枚で!!とんでもない話ですよ。」
その言葉に警部が頷く。

「聞きましたよ。あなたは美術館の起死回生を狙い、わざわざ鈴木財閥の鈴木相談役に助力を乞い、ハワイの美術館から今回の目玉である超ビッグジュエルを借り受けたと。」
「その通りです。その為に銀行の融資まで受けて。それが、このカードが来て、警察にその事を報告した途端、警察はカードが偽物だと私共には何の相談もなくメディアまで介して発表をした。おかげで、今回取り寄せたあの宝石まで偽物だと思われたのでしょう。来館者は昨年より激減しています。」
「そのようですな。」
冷静に頷く警部と怒りに頬を紅潮させる館長の顔を、間にいる毛利探偵が不安そうに交互に見つめる。

「このカードとあなた方警察のせいといっても過言ではない。私の計画は滅茶苦茶だ!!」
「なるほど。ですが・・・。」
言い掛けた警部が顔を上げた。

「まず、あなたは銀行の融資を受けて多額の負債を負いながらこの宝石を借り受けたと仰りますが、我々の調べでは、その費用のほとんどは鈴木相談役が負担されていますな。」
「だから何ですか。この公共の施設で大きな収入を見込めない中で銀行から融資を受けるのがどれほどの苦労か、あなたにわかりますか?」
更に拳を振り上げるほど興奮する館長に警部は頷く。

「では、逆にお伺いしますが、この美術館は基本的には町と道が管理していて、入館料はきっとこの施設の管理費に比べれば微々たるもので、また民間の企業の様に値上げもままならない状況でしょう。そんな施設で、もし今回の計画がうまく言っていたとしても。来館者がプラスになった事での利益はそれほど見込めないでしょう。だがあなたはその為に、なぜ、それだけ多額の資金を投入したのですか?」
「だからそれは・・・!!」
言い掛けた館長に警部が更に畳みかけるように口を開く。

「さらに私が不審に思うのは、今回この宝石に掛けられた盗難保険の額です。その額は、もし宝石が盗まれれば、この建物をリニューアル出来るほどの額に及んでいる。それはなぜですか?」
「当然でしょう。先ほどもそこの少年がいったように、今回借り受けた『アイランドクリスタル』は正真正銘の本物、時価数億円と言われる宝石です。盗難されれば、我々はその責を負い賠償を負わねばならない。もちろん我々の信用も失墜する。当たり前の話ですがおわかりになりませんか?」
「わかりますよ。ですが、もし、その盗難自体が自作自演だとしたらどうなりますか?」
その問いに館長は立ち上がり拳を握り締める。

「盗んだと申告された宝石は闇で売りさばかれ、相当な額があなたの懐に舞い込む事になるでしょう。更に盗難保険も合わせれば、借り受けた美術館への賠償金を支払っても有り余るほどの大金があなたの懐に舞い込む。」
「ふざけないでください。私を愚弄する気ですか?」
憤慨して声を荒げる館長だが、中森警部はいたって冷静だった。

「奥様は元華族の出だそうで、お召し物などにも強いこだわりがあるそうですな。公共の施設の館長というのはその出費を支えられるだけの高額な収入があるのでしょうか。」
「ぐぬぬぬっ・・・!!!」
その問いに館長は、唸り声を上げ始める。

きっと、警部の指摘はすべて的を射ていて、言い返す言葉が見つからないのだろう。
(さすが捜査二課の名刑事!!)
オレは心の中で改めて警部の能力の高さを思い知らされた気がした。

警部が所属する二課は、詐欺や企業の粉飾決算。
すべて金銭に関わる事件を調べるのが仕事だ。

今回警部はきっと、館長から話が持ち込まれた時点で、その取引の内容や、掛けられた保険の額。
館長夫妻の懐事情まで詳細に調べ上げていたのだろう。

「おじさん何も言えなくなっちゃったね。という事は、警部さんが話したのは全部本当の事なのかな。」
名探偵の話す声と口調とは裏腹に、その視線は鋭く館長を見据えている。

「小僧、名前はなんと言った?」
「江戸川コナン。探偵だよ。」
あえて、探偵と名乗る名探偵。

「江戸川・・・コナン。コナン・ドイル、シャーロックホームズか。」
「そう。」
応えると名探偵は楽し気に口許を上げる。

「ポワロはホームズが大嫌いなんだよね。」
「ああ。」
応えると館長は、子どもに向ける視線とは思えない、怒りに満ちた真っ赤な目で名探偵を見下ろした。

「『ABC殺人事件』でポワロはホームズでいうところのワトソン役であるヘイスティングスに『私に地面に這いつくばれというのか!?』と、明らかにホームズを意識した台詞を口にして憤慨しているよね。」
「もちろんさ。ポワロは優秀な探偵だ。地面を這いつくばり土いじりをしたり、タバコの灰を持ち帰るようなあさましく下品な事はしない。彼は誇り高く高尚で優秀な名探偵だからね。」
ポケットに手を入れたまま口許を上げて館長を見つめる名探偵と対峙して、後ろ手に余裕の笑みを浮かべる館長。

「なんか凄いね、快斗。」
「ああ。」
応えたオレも、その張りつめた緊張感のある雰囲気に息をのんだ。

「そういえば、奥様との間にはお子様は?」
「いませんよ。あれとの間にはね。」
そんなプライベートなことまで・・・と呟いた館長に、名探偵が歩み寄り首を傾げる。

「あれれ?あれとの間に・・・っていう事は、他の人との間にはいたの?」
その問いに館長は顔を真っ赤にすると、踵を返し、早足で出口へと向かう。

「不愉快だ。せっかく私は好意的に捜査に協力しているのに。あなた達は私を愚弄するばかりで話にならないな。」
そういうと、バタンッと強く音を響かせながら扉を閉めて出ていってしまった。

だが、残された警部は目の前の名探偵と顔を見合わせて口許を上げる。
「かなりの収穫ありだな。」
「そうだね、警部さん。」
そういうと、名探偵はオレの手を引いた。

「行くぞ。」
「えっ?どこに?」
たずねたオレに応える事なく名探偵が扉の前で振り返り警部の方を向く。

「ちょっと行ってくるね。」
そう言って走り始めた名探偵の後を、オレは青子と二人で走って追いかけた。

「どこに行くんだよ。」
「睦月さんのところ。」
その答えにオレと青子が顔を見合わせて目を丸くする。

「なんで?」
「睦月さんの待ち続けている人を確かめる為さ。」
その答えにオレはハッとした。

「もしかしてそれって・・・。」
「ああ。あの人と睦月さんとの年齢差から考えた関係。それに、あの人と不仲だったことも合わせて考えてみれば、その可能性は高い。」
「なるほど。」
応えたオレに名探偵は頷く。

「子どもはいつだって親の愛情を求めるものだよ。その想いが満たされない程、渇望して、憎んで愛して。それが人間てものだから。」
名探偵のその言葉に、オレも青子も何も言えなかった。

そして、しばらく何も話さないまま、美術館の中を走り続けて、オレ達はその人を見つけたんだ。