2018年センター試験古文漢文現代語訳

 

受験生の皆さん、センター試験の問題にチャレンジした高校生の皆さん、お疲れ様でした。

 

こちらのサイトでは、吉田裕子が個人的に作成した2018年センター試験古文の現代語訳(現代日本語訳)の速報版を公開しています。復習などにお役立てくださいませ。※漢文はこちら ※2019年はこちら

 

【出典】
『石上私淑言(いそのかみのささめごと)』本居宣長

【本文書き出し】
問ひて云はく、恋の歌の世に多きはいかに。……

【現代語訳】
 質問して言うには、「恋の歌が非常に多いのはどういうことか」。

 (私が)答えて言うには、「まず『古事記』『日本書紀』に見えている、とても大昔の歌などをはじめとして、代々の歌集にも、恋の歌ばかり特に多い中でも、『万葉集』では『相聞』と題しているのが恋の和歌で、全ての歌を雑歌・相聞・挽歌の三種類に分け、八巻・十巻には、四季の雑歌、四季の相聞と分類している。このようにそれ以外を全て『雑』と呼んでいるのであって、歌は恋を第一のものとすることを分からなくてはならない。そもそもどういうわけで、こうであるかというと、恋は全ての情趣にまさって深く人の心に染みて、大変こらえ難い事柄であるからだ。それなので、大変しみじみと趣深いものは恋の歌にこそ多いものだ」。

 質問して言うには、「だいたい、世間の人それぞれが常に心の奥底に深く願うことについては、恋愛を思うよりも、我が身の繁栄を望み、財宝を求める気持ちなどが、ひたむきで抑えがたく見えるのに、どうしてそういうことは歌に詠まないのか」

 (私が)答えて言うには、「『情』と『欲』との区別がある。まず皆人の心にあれこれと浮かぶ思いは、全て情である。その思いの中にも、『そうありたい』『こうありたい』と追い求める気持ちは、欲というものである。それなので、この二つはお互いに離れないものであって、概して言えば、欲も情の中の一種類なのだが、また、特に区別したら、人を素敵だと思ったり愛しいと思ったり、あるいは、辛いとも恨めしいとも思うようなことを『情』とは言った。実際は、その情から生じて欲にも及び、一方では、欲から生じて情にも及んで、その様子は一通りでなく色々であるが、どのようであっても歌は情の方から出てくるものだ。この『情』の方の思いは、物にも感じやすく、しみじみと感慨に耽ることも格別に深いからである。『欲』の方の思いは一筋に願い求める心だけであって、それほど身に染みわたるような濃密で繊細なものでないからだろうか、ちょっとした花や鳥の色や音に涙がこぼれるほどには深くはない。

 あの財宝を貪る類の感情は、この欲というもので、しみじみと趣深い方面とは関係が薄いがために、和歌は出てこないのであろう。恋愛を思うことも、もともとは欲から出るけれど、特に情の方に深く関わる思いであって、生きとし生けるもの皆が免れ得ないものである。まして人間は、特にものの情趣を理解するものであるため、特に深く心に染み入って感慨に堪えられないのは、この恋の感情なのである。それ以外でも、あれにつけ、これにつけ、物のしみじみと趣深いことに関して、歌が出てくるものだと認識する必要がある。

 そうではあるけれど、情の方は、前に述べたように、意気地の弱いことを恥だと思う後々の時代(※古代との対比)の風潮のもとで、隠して我慢することが多いために、かえって(今日の人が)欲よりも浅く(しか情を抱いていないように)見えるのであろう。しかし、この和歌だけは上代の昔の心構えを失わないで、人間の心の真実をありのままに詠んで、女々しく弱々しい部分も決して恥じることがないので、後の時代になって、優美でみずみずしく上品に歌を詠もうとするときには、いっそうしみじみとした趣をだけ大切なものとして、例の欲の方はとにかく嫌ってしまって、歌に詠もうとは思いはしない。
 
 たまにある欲を詠んだ歌でも、『万葉集』の三巻に「酒を誉めた歌」の類である。漢詩ではいつものことで、こうした欲に由来する類ばかり多いけれど、和歌には(欲の類は)とても気に食わないもので、憎らしくまで思わずにはいられなくて、全く心が惹かれない。(そうした欲の歌は)何の見どころもないのであるよ。これは、欲が汚い感情で、しみじみとした情趣がないからである。それなのに、外国(中国)では、しみじみとした情を恥じて隠し、よりにもよって(酒を好むような)汚い欲を立派なもののように言い合っているのは、どういうことなのだ」。

 

※新潮日本古典集成の注釈をもとにしつつ、吉田が取り急ぎ訳したものです。同業者、学校の先生などで、間違いに気づいた方がいらっしゃいましたら、お手数ですが、コメントやメッセージなどでお知らせいただけましたら幸いです。

 

 

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