放送作家の鈴木おさむさんが自ら、脚本・演出を務める舞台です。
彼の関わっているテレビ番組もやブログ、『ブス恋』が大好きな私は、いつか舞台も観に行ってみたいと思っていたのです

キャストには、今田耕司さん・徳井義実(チュートリアル)さん・大久保佳代子さんら。何とも豪華なメンバーが出演されるということもあり、劇場のロビーにはたくさんのお花が届いていました。
「AVM」はその名の通り、アダルトビデオ業界で働いている人々の物語なのですが、 「笑いあり、涙あり」を、これほどのエネルギーでやられてしまったらたまりません!!
前半はとにかく笑いがてんこ盛り
徳井さんのマシンガン下ネタには、M―1優勝時の「チリンチリン」を思い出しました
さすがにテレビでは見られないネタでしょうね。いやー、最高でした。

徳井さんのマシンガン下ネタには、M―1優勝時の「チリンチリン」を思い出しました
さすがにテレビでは見られないネタでしょうね。いやー、最高でした。後半はシリアスになってゆくのですが、AV女優役の長谷川るみさん・大久保佳代子さんが、鬼気迫る演技で素晴らしかったです。もう圧倒されました

長谷川さんが演じたのは、調子に乗っているアイドルAV女優。最初はムカついて仕方なかったのですが(名悪役
)、途中、彼女の素顔や不安が露わになってからは、本当に痛々しく、見ていられないほどでしたね。
)、途中、彼女の素顔や不安が露わになってからは、本当に痛々しく、見ていられないほどでしたね。一方、大久保さんの演じる女性は、昼間にOLをしながら、週末・夜にAV女優の仕事をするという役。お気付きの通り、大久保さん本人の過去と、重なる部分のある役です。その重なりもあって、台詞の1つ1つが重く聞こえました。
もう1人のAV女優役、エリアンナさんも素晴らしかったです。明るいキャラクターも、乙女な素顔も、痛切に響く歌声も、みんな素敵で……。彼女が音楽ステージの側にいるという演出の意味が分かったときは、涙が止まりませんでした

この舞台には、名台詞がたくさんあるのですが、一番は、主役の今田耕司さん演じるAV男優。加藤鷹さんをモデルにしたと思われる人物で、50歳を前にして引退を決意したところです。
彼と、彼に憧れてAV男優になった、若手イケメンAV男優(徳井義実さん)との会話には、胸に刺さるところが多かったです。
※なお、舞台の視覚的イメージがつきやすいよう、役名でなく、今田さん・徳井さんと書きます。
たとえば、今田さんが、親にどう説明するかを悩んでいる徳井さんに対し、「親を、食べたことのないような、高い焼き肉屋さんに連れて行ってやれ」という話をする場面があります。そこで、
「親に恥かかしてる分、他の兄弟が親にしてやれんことしてやるしかないやんか」
という感じの台詞があるんです。
これは、少し拡大すれば、多くの人に通じる思いなのではないかと思いました。いわゆる“ふつう”を外れてしまった人。そういう人は、AV業界に限らず、意外にたくさんいるのではないかと。
かく言う私も、両親に対しての、漠然とした申し訳なさもずっと感じています。正社員ではなく、先行きの不透明なフリーランスの道を選んだことや、結婚していないこと、孫の顔を見せられる見込みもないこと。いわゆる「ふつう」の安心感を味わわせてあげられない分、別の何かをあげられているだろうか、と、よく自問自答しています

しばらくは、先輩=今田さん、後輩=徳井さんという上下関係が明確だったのですが、そのうち、徳井さんが売れっ子になり、立場が逆転し始めます。
徳井さんは、今田さんに憧れ、その背中を追いかけてきたという思いがあるからこそ、彼が衰えていく姿を見ていられなくてイライラしてしまいます。
彼が「体力の限界」といって引退しようとするのに対し、徳井さんが「本当にそんな理由で引退するんですか?」と詰め寄る場面があります。
「体力の限界とかゆうてますけど、本当は、時代の波に取り残されて仕事なくなっただけでしょ!? それを直視してないんでしょ!? 現実を認めないで幸せなフリをしてるのは、余計に格好悪いですよ」
と。それに対し、今田さんが、
「幸せなフリくらいさせてくれよ! 幸せなフリをしていたら、本当に幸せになれるかもしれんやんか!」
という話で切り返した流れは、凄かったですねぇ……。
皆、それぞれの事情を抱え、ギリギリで生きているのではないか。それを隠し、必死で幸せなフリをして、他人だけではなく、自分自身にも、自分が幸せであると信じ込ませようとしているのではないか。それを暴く必要がどこにあるのだろうか。
「AVM」を観ている間じゅう、「幸せって何だろう?」という問いを突きつけられました。
私としては、「幸せになろう」としている努力そのものが、かけがえがなくて、尊いものなのではないかと思いました。
そして、パートナーでも、同僚でも、何でも、幸せになろうとする努力を一緒にしてくれる人がいるというのは奇跡に近いことで、それも、大きな幸せなのではないかと。
泣いて、笑って、いろんなことを考えさせられる、素晴らしい2時間でした。
忙しくて仕方ないであろう面々が集まり、台本を覚え、稽古をして、このような作品を創り上げてくださったことに感謝、感激、感動です。
★ホームページはこちら。著書(『正しい日本語の使い方』、『大人の文章術』、『源氏物語を知りたい』、『東大生の超勉強法』、『百人一首を知りたい』(枻出版社))でも情報を発信しております。隔週月曜13時に東急セミナーBE講座「古典文学Cafe」を担当する他、吉祥寺 古典を読む会も主宰(8月31日(日)『土佐日記』、9月28日(日)『古事記』)。





