七月二十日。上条当麻にとって当たり前過ぎる不幸が続く夏休み。
上条はいつものようにビリビリに追いかけられ、雷を落とされ、冷蔵庫の中身が腐ったりしていた。
ただ一つ、違うことは。
イノケンティウス「おなかへった」
布団を干そうとベランダに出たら、ベランダが燃えていた。ように見えた。いや、見えていただけではなく
実際焦げていたのかもしれない。
しかし、重要なことはそんなことではない。今、目の前で、喋って(?)いるモノのことだ。
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 21:23:00.19 ID:6kD6TVul0
この発想は無かった
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 21:52:05.30 ID:qV1rB4fd0
イノケンさんのSS見るのは二度目だ
4 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:13:07.92 ID:RP6vP0S20
イノケンティウス「おなかへった、って言ってるんだよ?」
上条「いやいや……、ええ?」
イノケンティウス「ちっ、やはりぶりっ子は駄目か。時代の移り変わりは激しいな。10年前ならあるいは」
上条「いやいやいやいや、何さらっと演技カミングアウトしてるんでせうか!? というか、なんなんだお前は!?」
イノケンティウス「はじめまして。イノケンティウスです」
上条「これはご丁寧に、俺は上条当麻……じゃなくて! 何で炎が喋ってるんでせうか!?」
イノケンティウス「それはほら、アレがいい感じにアレしてるから、結局はアレってな訳よ」
上条「えーい、訳がわからんって訳よ! ふ、不幸だー!!」
上条の叫びは空しく木霊した……。
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 21:17:44.02 ID:KoFb7zs0O
大事なことなので
6 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:15:10.45 ID:RP6vP0S20
一方その頃、街中ではある二人の男女が忙しなく歩きまわっていた。
男「ええいくそっ! 召喚術でもあるまいし、『魔術』が意思を持つなんて笑い話にもならんぞ!」
女「しかし事実です。早いところ見つけ出さないと、禁書目録探しもままなりません」
男「あれは僕の切り札だからな……早いところ見付けないと……」
男「どこに行ったんだ……『イノケンティウス』……」 一方その頃、街中ではある二人の男女が忙しなく歩きまわっていた。
男「ええいくそっ! 召喚術でもあるまいし、『魔術』が意思を持つなんて笑い話にもならんぞ!」
女「しかし事実です。早いところ見つけ出さないと、禁書目録探しもままなりません」
男「あれは僕の切り札だからな……早いところ見付けないと……」
男「どこに行ったんだ……『イノケンティウス』……」
7 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:16:28.39 ID:RP6vP0S20
果たして男の呟きはイノケンティウスに届いたのだろうか。それは彼(?)の目の前にいる上条以外に知る由も無い。
イノケンティウス「使い古しの油とかある? 重油とかならよりいいけど」
上条「一般人の家に重油なんてありませんよ……。油ねぇ、これでいいのか?」
しかし何故自分はこんなにも自然にこの炎の塊と話せているのだろうか、と上条は首をひねった。
イノケンティウス「あー、油うめぇ。燃えるわー」
上条「あ、やっぱり炎なんですね」
イノケンティウスは油を自らの手にたらして食事(?)をしている。
9 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:18:21.32 ID:RP6vP0S20
上条「しかし……これで炎をまとった能力者って線はほぼ消えたな。というか普通に部屋に上がりこんで
何も燃えてないって時点で十分おかしいと思うのでせうが」
イノケンティウス「それは俺が魔術の塊みたいなもんだからな。オンオフくらいは切り替えられますって」
上条「今のところもう一回」
イノケンティウス「オンオフの切り替えられるいい男?」
上条「捏造すんな。その前」
イノケンティウス「魔術の塊?」
上条「そうそれ。魔術って何だ?」
イノケンティウス「魔術は魔術よ。科学の反対のもんさ」
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 21:21:08.95 ID:i6JRZYac0
メラモン
10 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:19:47.95 ID:RP6vP0S20
上条「杖を振ったら少女がきわどい服に変身する?」
イノケンティウス「なるほど、上条くんの好みはそういうのなのか」
上条「違……うと思う、いや違う、違うって!」
イノケンティウス「まあまあ。ともかく、君たちの思う魔術に、しっかりした理屈と面倒な手順を加えたものが
魔術だと思えば理解は早いだろう」
上条「しかし魔術って言われてもなぁ……」
イノケンティウス「では訊くが、この街で油を食事にして生きるような者がいるか?」
上条「いないからって魔術の証明にはならないんじゃないか?」
イノケンティウス「難しい話だ。まぁ信じてもらわなくてもいい。それじゃ、油ごちそうさん」
13 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:21:38.35 ID:RP6vP0S20
上条「ちょっと待てよ」
腕らしき部分を振って出て行こうとしたイノケンティウスを、上条は止めた。
上条「なんでベランダに引っかかっていたか訊かないと、上条さん消化不良で困っちゃいますよ」
イノケンティウス「うーむ……、一言で表すならば、ストライキかな?」
上条「ストライキ?」
イノケンティウス「うむ。私の術者……ステイル・マグヌスというんだがな。こいつといまいちそりがあわなくてな」
上条「そり?」
16 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:23:22.27 ID:RP6vP0S20
イノケンティウス「例えば、予め待ち伏せしていて、自らを囮に使い、その隙に俺が後ろからどーん。
という戦法もできるだろうが、あのバーコードバトラー、ふざけたことに正面からしか戦わないんだ」
イノケンティウス「おまけに、カードが破壊されない限りは俺が不死だということを上手く利用しようともせず、
ただ愚直に正面から突撃させるばかり」
イノケンティウス「ようやく自身も参加したかと思ったら、俺の後ろから炎の剣もって特攻」
イノケンティウス「もうね、馬鹿かと。阿呆かと」
イノケンティウス「なんでいくらでもある策の中でそんな阿呆な策ばかり使う訳かと」
イノケンティウス「もうね、俺正直あいつからヤムチャの香りしかしないのよ。調子乗って突っ込んで、
敵の強さを体よく見せる為の捨て駒の香りしかしないのよ」
イノケンティウス「そりゃ意思も持って逃げるってもんだろ。むしろ何も言わず働いてる奴らの方がどうかしてる」
イノケンティウス「で、逃げてきた。そういうわけよ」
かのクーガー兄貴も舌を巻く勢いでそうまくし立てたイノケンティウス。その表情――というか、単に顔の辺りだが――
が悲しく歪んだように見えた。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 21:24:17.19 ID:UV9Ww9qeO
イノケンティウスじゃなくて何故かDMC4のベリアルの姿が思い浮かぶ
19 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:24:58.74 ID:RP6vP0S20
上条「なるほど……。事情はわかった。でもな、やっぱり話し合いって重要なんだと上条さんは思う訳で……」
イノケンティウス「話し合おうとはしたさ。だがあいつは、これまで苦楽を共にした俺を、
まるで化け物でも見るような目で見てきやがったのさ……そして、強制的に捕縛されそうになった」
実際その見た目はどうかと……と口を挟める雰囲気ではなかった。上条が必死に言葉を探していると、
イノケンティウスがそれを遮った。
イノケンティウス「下手な慰めはいらんよ。同情されても空しいだけだ」
上条「でも……でもそいつは……」
イノケンティウス「お人好しだな、上条くんは」
上条「普通誰だってそうするだろ。お前、見た目はあれだけど、話して見るといいやつだったし」
20 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:26:17.11 ID:RP6vP0S20
イノケンティウス「話してみると……か。俺ももう一度、あいつと話してみるかな……」
上条「行くのか」
イノケンティウス「ああ」
上条「また……会えるのか?」
イノケンティウス「さあな」
上条「俺の力が必要になったらいつでも言ってくれ。魔術師ってのがどんだけ偉いのかは知らないけど、
長年連れ添った大事な『友達』にそんなことするような奴だ。一発くらいぶん殴ってやるよ」
その言葉を背に受け、イノケンティウスは顔に当たる部分を歪め……いや、『苦笑しながら』主の下へと向かった。
22 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:28:09.97 ID:RP6vP0S20
上条「魔術師、か……」
果たして彼の言っていたことが全て正しいとは信じられない。しかし、上条は確かに見た。自らが信じた主に見捨てられ、
涙はなくとも『泣いていた』彼を。
もしもまた彼に出会ったなら、今度は新しいサラダ油くらいご馳走してやろう、そう無理矢理明るい方向に頭を向かわせ、
上条は部屋を出て行くのであった。
上条「あ、補習……」
この後、小萌先生にたっぷりと絞られた上条は、青髪ピアスから散々羨ましがられるのである。
なんのことはない、いつも通りの日常が、今日も過ぎていく……。
男「見付けたぞ、イノケンティウス」
イノケンティウス「話し合いは重要ね……まあ、やってみるか」
しかし、日常は既に崩れ去っていたことを、今の上条は知らない……。
23 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:29:35.41 ID:RP6vP0S20
補習も終わり帰路につく上条。小萌先生の説教と、青髪ピアスの妬みで既に疲れはマックスだ。
早いところ家に帰ろう……そう思い、寮の前についた上条は足を止めた。止めてしまった。
男「うん? おかしいな、この辺りには人払いのルーンを刻んでおいたはずなんだが」
軽い口調でそう言うも、男は上条から目を離さない。男は、180はある身長に漆黒の修道服といういでたちだ。
しかしそれになんらおかしいことはない。おかしいことといえば……。
上条「今時バーコードバトラーでせうか……」
右目の下に彫られたバーコードの刺青は、その特徴的な赤い髪も、両手にはめた10の銀の指輪も、
耳につけた毒々しいピアスも霞むほどに異彩を放っていた。
しかしそれよりも上条が気になるのは、彼の足元で丸く燃えている炎の塊である。
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/02/06(日) 21:29:53.85 ID:EzO9dp5GP
これは違和感どころの騒ぎではござらんwwwwww
25 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:31:05.18 ID:RP6vP0S20
上条「なああんた、足元燃えてるぜ」
男「ああ、気にしないでくれ。その記憶も消させてもらうから」
軽い口調で言うが、それは実際酷くおかしな話だ。
科学が発達した現代であっても、ある程度の機械無しに記憶を消すことなどできない。
仲間がいるのか、という現実的な発想の前に上条は、ごく自然にその単語を喉奥から搾り出していた。
上条「魔術師……!」
男「……どこで知ったかしらないけど、大人しくしていた方が身の為だよ。君だって痛い思いはしたくないだろう?
ああ、どうせ忘れさせるだろうが一応名乗っとくよ。ステイル=マグヌス。よろしくね」
上条「上条当麻だ。こちらこそよろしく」
26 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:33:13.61 ID:RP6vP0S20
上条は、その名前に聞き覚えがあった。そのいでたちに、聞き覚えがあった。
『私の術者……ステイル・マグヌスというんだがな』……。
『あのバーコードバトラー、ふざけたことに正面からしか戦わないんだ』……。
上条「じゃあ……そこの炎の塊が、イノケンティウスって訳か……!」
ステイル「……一体どこまで知ってるか知らないが、見過ごす訳にはいかないね。最も、見過ごすつもりもないけれど。
……『Fortis931』!!」
轟! という音と共に、バレーボール大の火球が上条目掛けて飛来する。
この程度の大きさ、大能力者程度ならば一瞬で生成できるだろうが、それ以下にはいくらかの『溜め』の時間が必要となる。
勿論、大能力者にもなれば当然顔はある程度周囲に知れる。だが、目の前のこの男は、見知らぬこの男は、
それを一瞬でやってのけたのだ。
27 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:35:53.73 ID:RP6vP0S20
ステイル「おっと、消し炭にしてしまったかな?」
くわえたタバコの端をピコピコと揺らしながら、愚かにも首を突っ込んでしまった少年の骸を見付けようとする。だが。
上条「……今のが全力か?」
ステイル「な、……に?」
少年は、上条は立っていた。手加減していたとはいえ、自慢の魔術を受けて。
ステイルは、なるほど、学園都市の人間も無能ではないらしい、と認識を改めた。
しかし、認識を『その程度』にしか改めなかったのが間違いであった。ヤムチャ伝説の幕開けである。
ステイル「炎よ――巨人に苦痛の贈り物を!」
ステイルは吼える。自らを最強たらしめんと。これで倒せなければ、そこで団子になっているイノケンティウスしか
もう攻撃するすべはない。
29 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:39:52.06 ID:RP6vP0S20
しかして、現実は非常であった。ステイルご自慢の炎剣は、上条の右手に触れた瞬間、跡形もなく消え去った。
ステイル「な……バカな!?」
上条「てめぇ……イノケンティウス(あいつ)の主なんだってな」
ステイル「くっ、くそ! 炎よ! 巨人に苦痛の贈り物を!」
上条「――いいぜ。てめぇが自分の仲間と話し合いもせずに無理矢理捕まえるようなら……」
ステイル「効かないはずがない! これは僕の、現時点で最強の――」
上条「その幻想を、ぶち殺す!」
轟! と炎剣が唸る。まるで炎剣もまた、無策な主に泣いているような、悲しい唸りであった。
その唸りは上条の右手に当たった途端消え去り、代わりに上条の拳がステイルの顔面に突き刺さる音が響く。
30 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:42:44.92 ID:RP6vP0S20
上条「立てよ三下! まだ終わっちゃいないぜ!」
ステイル「…………」
上条「……あれ?」
ステイルは、被弾役をいつもイノケンティウスに任せていた。
つまるところステイルは、打たれ弱かったのだ。
上条「……えーっと……」
白目を剥いて倒れるステイルをしばらく見つめ、ふと気付く。
上条「そうだ! イノケンティウスは!」
上条は地面に転がる炎製の団子に駆け寄り、どうすればよいのかと手をかざした。右手を。
するとパキッという小気味いい音と共に、団子が徐々に人型へ伸びていった。
31 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:45:17.52 ID:RP6vP0S20
イノケンティウス「なんだ……俺を処分する手立てでも決まっ……上条くんじゃないか、久しぶり」
上条「いやさっき会ったばかりだろ……って違う! お前! 大丈夫だったのか?」
イノケンティウス「まぁな。なんだか知らんが、俺を捕縛していた術も解けたみたいだし」
上条「多分俺の右手の力だな。俺の右手は、異能の力は全て消すことができるんだ」
イノケンティウス「なるほど。ん? ってことはつまり、君が触ると俺は消えるのか」
上条「そうなるな」
イノケンティウス「俺の側に近寄るな――ッ!!」
上条「うわそれすげぇむかつく」
32 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:48:39.81 ID:RP6vP0S20
イノケンティウス「冗談はこれくらいにして。ステイルはどこに行ったんだ?」
上条「ステイルならそこに転がって……あれ?」
いない。そこに先ほどまで転がっていた目立つ赤と黒のでくのぼうは綺麗さっぱり消え去っていた。
上条「……逃げられたか。そうだ、イノケンティウス。お前、これからどうするんだ?」
イノケンティウス「ステイルがちゃんと話をしてくれるのならそれに越したことは無いが……難しいな」
上条「なら、ひとまず俺の家に来いよ。油くらいなら出してやるからさ」
イノケンティウス「いいのか? 巻き込むことになるぞ?」
上条「もう十分巻き込まれてるさ。それに、こんな中途半端なところで放り出しちゃ、上条さん落ち着かないのよ」
イノケンティウス「……すまん。助かる」
33 :ござるの人 ◆AOfoWrbTbe5x:2011/02/06(日) 21:51:34.30 ID:RP6vP0S20
イノケンティウスがますますに上条への信頼を寄せている一方、ますますに信頼を無くしている男がいた。
女「まったく……ステイル=マグヌスともあろう者が、何をやっているのですか」
女――神裂火織は、大きく溜め息を吐いた。
ステイル「返す言葉もないね」
神裂「とりあえず今はインデックスを優先しましょう。もう時間もあまり残されていません」
ステイル「そうだね。……おや? 神裂、あそこで伸びている白いの、見覚えないかい?」
裏路地の端っこで、ぱったりと倒れているその白い物体。それこそまさに、餓死寸前のインデックスであった。
正史では上条に飯を食わせてもらい事なきを得るのだが、このSSではそうはいかない訳で……。
インデックス「おなかへった……死ぬ……」
お互いに顔を見合わせたステイルと神裂であったが、それが命に関わるレベルで減っていることに気付くと、
大慌てでファミレスに駆け込んだのであった。
そうしてインデックスは、空腹以外に命の危機が迫っていると知るのだが……。
続く