如月に入りました。梅が静かにほころぶ季節です。冷たい空気を通 して、ほのかな香りを吸い込むと春がそこまで来ているのだな、と心 が温かくなります。『梅は寒苦を経て清香をひらく』という句があり ます。梅の花のかぐわしい香りも、美しい姿も、厳しい冬を耐えてこ そ。人もまた、苦しい経験を積むことで素晴らしい人間になるのだと いう意味だそうです。梅は百花の先駆けと呼ばれるように、厳しい寒さの中、一番初め に花を咲かせます。この梅の花、咲くためには寒さが必要だそうで、梅の花芽は秋にな ると寒さで仮眠状態に入り、さらに気温が下がって冬が訪れます。しかし、そこで一定 期間、厳しい寒さにさらされると、それがスイッチになって花芽は再び眠りから覚め、 蕾へと成長します。その後、寒さが和らぐのを待って花を咲かせます。梅は厳しい寒さ という刺激がなければ花を咲かせることが出来ないのです。昔の人は、人間にも同じ現 象を見ていました。『艱難汝を玉にす。(かんなんなんじをぎょくにす)』と言って、人間辛いと ころを通らならければ立派な人間にはならないと戒めたり、「若い時の苦労は買ってで もせよ」と若者に苦労をすることの大切さを言い聞かせたりします。人間も苦労の味を 知り、越えて行かなければ素晴らしい花は咲かないのかもしれません。梅は、一斉に咲 く桜とは違い、時には一本の梅の木がひと月近くかけて満開へと向かいます。人の苦労 もサッと報われるわけではありません。じっくりと時間をかけ、静かに花開 いていくものです。苦難の真っ只中にいる現社会、まるで出口がないかのよ うに、この厳しさがどこまでも続くように感じます。しかし、いつか花開く と信じてじっと耐える。その忍耐と情熱が真に人を鍛え上げるのです。古来、 人は耐え忍ぶ力を梅の中に見ていました。冷たい風雪を耐え忍び花開く。私たちもそう ありたいものです。もうじき、梅の花が咲き始める頃。毎朝晴れた空を見上げながら春 の兆しに胸躍る思いがしました。磨かれてこそ人は輝きます。苦労を味わい、辛苦を耐 えてこそ花開く。そこに人生の妙味もあります。