夕方近くになって、玄関の電気がついた。
「おお~!!」 二人の声がはもる。
今日は平日月曜で、管理人も来ているだろうから、うまくいけば今日辺り
電気が復旧するかもしれないと思っていた。
それで、電気が復旧したらすぐわかるようにと、玄関の電気のスイッチを
“ON” にしておいたのだ。
嬉しい!興奮する。
電気がついただけの事が、こんなにもエキサイティングだなんて。
部屋の電気をつけると、めちゃくちゃになった台所の全容が浮き彫りに
なった。でも・・・、それでも、明るい室内が嬉しくて、めちゃくちゃになって
いることなど、今は問題ではない。
テレビをつけてみた。ついた!
パソコンもつけてみた。ついた!!
地震の時、パソコンは起動させたままだった。その状態で停電になって
しまったため、少々心配していたのだ。
前進していた冷蔵庫も、元気そうでなによりだ。
家には、2ドアの一人暮らし用冷蔵庫があって、他に1台フリーザー
を物置に置いている。安い時の買いだめに最適なのだ。
そのフリーザーは地震以来開けていない。
凍ったものがある程度入っていれば、それが互いに冷やしあって
長くもつため、冷気を逃さないようにと開けないでおいたのだ。
今こそその扉を開ける時だ。
中は融けた霜のせいで、少々水びたしな感じだが、その霜は融けきって
いない。肉類も、ほとんど融けている感じだが、触るとしっかり冷たかった。
『うん、大丈夫。煮込んでしまえば問題ない・・・事にしておく。』
一応友人にも意見を求めたが、判断は任せると言われた。
『ならば、再び “問題ない・・・事にしておく。” 』
そうだ、今は食材などなかなか手に入らない。肉は特に貴重品だ。
そんな貴重品を、そう易々と捨てる訳にはいかないのだ。
今朝近所のスーパーで野菜を売っていた。
その野菜を買っている人もいた。
きっとその人達の家では、昨日の時点で電気がついていたのだろう。
自分も、今日電気が復旧するとわかっていたなら、野菜を買っていただろう。
しかし今更嘆いても仕方が無い。
冷蔵庫の中には避難所に提供を断られた白菜と長ネギがある。
実家から、いろいろ送ってもらった干物もある。
5年以上も前に、鍋でもやろう!と買ってはみたものの、ほとんど使った事
のないホットプレート(深型)もある。
いい感じだ。
電気様々だ。
久しぶりに 『炊飯器、出動!』
その日の夜は、家にあった食材をホットプレートにぶっ込んで適当に
煮た “鍋” と炊きたての “ごはん” を二人で食べたのだった。
久しぶりの満腹感は二人にささやかな幸福をもたらした。
そして幸福がもう一つ、今日からは水でいっぱいのバケツを両手に
階段を上らなくてもいいのだ。エレベーターが動くのだから。
電気、ありがとう。本当にありがとう。