30. 行列 | 憂さ憂さうさぎ

憂さ憂さうさぎ

世の中は憂さだらけ!
はき出す場所のない憂さを、ここで晴らしてみましょうか。

自分は、普段行列に並ぶという事をしない。むしろ避けている。

確かに ” 行列の出来る店=美味い ” なのかもしれないが、並ぶのは

めんどくさいし疲れる。何時間も並ばなければ食べられないような贅沢

なものならば、いっそのこと食べなくてもいいとさえ思っている。

あまり並ばずに手に入る物だって、それなりに美味しいのだ。

念のため言っておくが、自分は味音痴という事ではない。

自分で言うのもなんだが、舌は肥えている方だと思う。

”美味しい” という評判を聞いて何時間も並び、高いお金を払って買う。

期待するだけ期待して、期待したほどでもなかった時の ”がっかり”

といったら・・・。

自分はそんな時間とお金の使い方はしたくない。

何の期待もせずに普通の値段の商品を並ばずに買って家で食べる。

それが、思いの外美味しかったりして感動する事だってあるのだ。

むしろその方が感動は大きいかもしれない。

なんかドストライク庶民な自分。

・・・少々脱線してしまったが。

とにかく、こんな行列ぎらいの自分が明日の食糧確保のために並ぶ。

状況が変わればかわるものだな。

列に並んでいる自分のそばで子供がうろついていた。

何気なくその子供を視線の中に収める。手には10cm程の鳥の羽根。

子供はまるで、宝物を見つけたかのようににこにこしながら、その羽根で

自分自身の頬をなでている。感触が気にいったのだろう。

しかしすぐに、地震当日避難所へ行く途中で、路面に横たわる鳩の亡骸

を見た事が脳裏に浮かぶ。

その路面に視線を移すと鳩の亡骸は既に無く、柔らかそうな鳥の羽根と

乾ききった血が路面にこびりついているだけだった。

子供はまだ自分の近くをうろついている。

スーパーのすぐ近くには、道路に面した小さな空き地があった。

その片隅に、薄い灰色の塊が一つ。鳩の亡骸だ。

道路の真ん中にあったものを、誰かが寄せたのだろう。

そのすぐそばに、子供が二人しゃがみこんだ。

子供達の視線は鳩の亡骸に釘付けである。

彼らはそれを指先でつつき始める。

恐る恐るだが興味津津といった感じで、指先がちょっと触れては飛び退く

といった行動を繰り返した。

乾いた血が、まだ赤くべったりとこびりついている、鳩の亡骸。

まるでその亡骸に、どちらがより触れる事が出来るのかを、競うかのように。

行列に並ぶという事は、普段あまり気付かないような光景を、目にする

機会が増えるという事なのか。