避難所に到着すると、作業している人達の中から、一番 ”まとめ役” な
雰囲気の人を探す。
すぐ近くに腕章をつけた年配の男性が立っていた。この人にしよう。
「すみません。」と声をかける。
振り向いた男性に、お弁当屋さんと話し合ってきた内容を伝えた。
男性は「肉かぁ、そんなに大量には無くても、出汁が出るだろうから、それ
だけでもいいかもなぁ。」 と、結構乗り気に見える。
話によるとその男性は、食材調達の担当なのだそうで、調理担当の人に
了解得ないと決められないとの事だった。
早速男性が話をしに行く。自分達も後に続いた。
途中、豆腐でいっぱいの”ばんじゅう”が大量に並ぶエリアを通る。圧巻だ。
その先に調理を取り仕切っているらしい女性がいた。すぐ横に同じ担当
らしき男性もいる。
その二人に、食材調達担当の男性が今までの経緯を話した。
結果は ”却下”
調理担当側の考えはこうだ。
① 献立が決まっているため、変更出来ない。
② お年寄りがいるため、肉を使えない。
③ お年寄りに油っこいものを出して、体調を崩されては困る。
④ 中途半端な量の食材を持ってこられても困る。
⑤ 個人が約1,000人分の材料を提供出来るのか?
⑥ 約1,000人全員の人達に、同じ内容の物を提供しなければいけない。
⑦ 今持ってこられても、今日の炊き出しには間に合わない。
等々。
・・・わかりました、もういいです。
自分達は意気消沈で、まだ空っぽの大なべの横を通り、
すごすごと来た道を引き返して行く。
再び通る豆腐街道。
この豆腐は近くのお豆腐工場から提供されたものなのだそうで。
今日いつも通り豆腐を作ったものの、卸す先の店が開店出来ない状態。
そこで、この避難所へ提供する事になったのだそうだ。
『約1,000人分。確かに、これだけの量の食材を提供するのは無理
なのだが。』
とりあえず、お弁当屋のおくさんに結果を報告。
「やっぱり断られました。」 断られた理由も一通り伝える。
店の入り口で、炊き出しの考え方について “少々批判的な討論” を
行った後、自分達は部屋へ戻った。
部屋へ戻ると、乾燥わかめと買ったばかりの長ネギ一束を用意する。
5本程束ねられた長ネギをばらばらにし、適当に一本選ぶ。
炊き出しに使ってもらえないのならと、贅沢に二人分長ネギを刻んだ。
夕方炊き出しを頂に行く。
器と箸は勿論の事、白い買い物袋には刻んだばかりの長ネギと
乾燥わかめが潜んでいる。
おにぎりは、もうなくなったとの事で、汁物だけ器によそってもらい、
体育館横の人気の少ない一画へ。
二人並んで、冷たいコンクリートの上に腰をおろした。
あらためて器をのぞくと、豆腐と揚げ豆腐だけが沢山入った味噌汁。
その中へ、持参した刻んだ長ネギと乾燥わかめを贅沢に放り込む。
これで少しはお腹が膨れるかな。食べようと、器の中をかきまわす。
自分が刻んだ長ネギとは切り方の違うそれが一切れ顔をのぞかせた。
ここで思う。
長ネギの一束や白菜くらい、ちゃちゃっと切って鍋に放り込めば終わり
じゃないのか?
お年寄りは肉を食べられないというのなら、豚汁もとりそばも食べられ
ないというのか?
お年寄りは油っこいものはダメと言ったのに、揚げ豆腐は入っている。
ちなみに自分達は、”炊き出し” といえば ”汁物” くらいの想像は
出来るのだ。はじめから、汁物には向かない物など持ってくる気はない。
”全員に同じもの” と言いつつ、結局自分達は ”同じもの” はもらえ
ていないのだ。早い者勝ちと言うならばそれでもいい。
ならば、“全員に同じ物” とか “約1,000人分の材用調達ができるのか“
等と言われた揚句、おにぎりをもらえなかった自分の立場は・・・。
食べ物が無くて、困っているから炊き出しをもらいに来るのに、汁物に
入っている具の一切れや二切れで文句をつける人がいるのなら、ぜひ
一目見てみたい。
寒空の下、久しぶりに食べる温かい味噌汁は、身体にしみわたった。