車へ戻って、早速昼食。
温かいうちに食べようという事で意見が一致し、一パックづつ手にとる。
何とも言えない温かな重み。
蓋を開けると、思い切り吸い込みたくなるデミグラスソースの香り。
目を釘付けにする、色と照り。やばい、やられそうだ。
今の状況で目の前の御馳走をオアズケされたら、転げまわってしまう。
間髪いれずに 『いただきます!』
口に入れると、何とも言えないデミグラスソースの味と香りに全身染まる。
『ああ、こんな時にこんなに美味い物を食べているなんて、どれだけ
贅沢なんだ!自分!』
一気に食べ終わりソースまで飲み干す。至福の時間は終わりだ。
名残惜しいが、もうない物はない。
ふと思う。『あそこのお弁当屋さん、まだガスコンロ使えるんだよな。』
自分の家の冷蔵庫には、買ったばかりで手つかずの食材があった。
このまま、ガスも電気も水道も使えない状態で、それらを腐らせる
くらいなら、ガスコンロのある人に提供した方がいい。
そう思い立ち、再度お弁当屋へ。
お弁当屋さんのおくさんに訳を話すと、自分達と同じような事を考えて
いたようで。
お弁当屋さんには業務用冷蔵庫が何台かあり、その中は食材で
いっぱいなのだそうだ。電気の来ない冷蔵庫で腐らせるくらいならと、
炊き出しに使ってほしい旨を避難所へ伝えに行ったそうだ。
しかし、断られたのだという。
そこでおくさんも含め、いろいろ話した結果、自分達が避難所へ話を
しに行く事となった。
これからしばらくの間は、自分達も避難所の炊き出しを利用する事に
なりそうだし。協力出来る事があるのなら協力したい。
避難所へ行く途中、お弁当屋さんのすぐ近くで行列を見た。
行列の先には焼き鳥屋さん。
『ああそうか、焼き鳥は炭火で焼くからな。』
もしこの人達が、お弁当屋さんが開いていた事に気付いていたなら、
自分達はあんな時間を過ごせなかったかも知れない。
この状況下にあって、自分達は何と幸運なのだろう。
心の中で様々なものに感謝する。