三人の目はベンチの上の煮込みハンバーグへ移る。
煮込みハンバーグは一つ。一瞬の沈黙。
たまらず、お弁当屋のおくさんに声をかける。
「すみません。煮込みハンバーグってこれだけですか?」
すると店の奥から「もっとできるよ。今作ってるから。」 と先ほどのおじさんが
顔を出した。
「いくつくらい出来ますか?」と訊く。とりあえず七つ出来るそうで、ほっとする。
とりあえずベンチの上の一つをもらおうとすると、
「今温かいの出してあげるから、ちょっと待ってて。」 と声をかけられた。
おくさんが、「煮込みハンバーグいくつ?」 と尋ねる。
こちらは二つ欲しいのだが、後ろに並ぶ女の子はいくつ必要なのだろうか。
振り返って尋ねると、彼女は
「私の事は気にせずに、必要なだけどうぞどうぞ。」 と言いながら、手で
”どうぞ” という動きをしてみせる。
「でも、それでは・・・。」とこちらが迷っていると、「弱肉強食ですから。」 と
彼女は笑って言った。
『なんとも、ゆるーい感じの ”弱肉強食” だな』 と心の中で笑ってしまう。
それではと、ハンバーグ二つ注文する。
煮込みハンバーグが出来るのを待ちながら、少しだけ雑談。
彼女の口調や雰囲気から、しっかりした印象を受ける。
顔の中で、見えるのは目だけ。
そこから想像すると、結構美人さんのようだ。
煮込みハンバーグが袋に入れられて出てきた。
良心的な金額の代金を払って袋を受け取ると、袋の中にはお惣菜のパックも
一つサービスされていた。かなり嬉しい。
自分と友人は、温かい ” 煮込みハンバーグ ” を手に、この弱肉強食と
いう言葉とはかけ離れた空間から離れて行った。