お弁当屋の入口にはベンチが置いてあり、その上には即席味噌汁とお惣菜、
それにソースのたっぷりかかった煮込みハンバーグが1つ。
カセットコンロを使って、とにかく作る事が可能な分だけ作る事にしたのだ
そうだ。
その食欲をそそる姿に目をくぎ付けにされる。ちょうど昼時。食べたい。
買う気満々の二人。
まずは新聞を見せてもらおうと友人が言い、店の奥へ声をかける。
顔をのぞかせたおじさんに、
「すみません、新聞見せて頂きたいんですけど。」
と友人が言うと、おじさんは快く新聞を持ってきてくれた。
折りたたまれた新聞を広げ、目に飛び込んできた写真に言葉が出ない。
地震の前までは、人間の生活を守るために存在していたはずのものが、
様々な状態で水面を埋め尽くしていた。
その印象が強すぎて、他に視線が移らない。
目は写真を映したままで、頭の中では昨夜携帯で見た、
”宮城県仙台市若林区荒浜の海岸で200~300人の多数の水死体発見”
という内容が姿を現す。
一応、写真の周囲を埋める文字に目を通し、他の面も見ようとするものの、
その内容は、自分の脳には残れなかった。
新聞を一緒に見ていた友人も、怖い顔をしながら新聞上で視線を走らせ
ている。
一通り新聞を見終わって、元通り折りたたんだ。
言葉も少なく会話の形式にはならない。
今この時も、悪い状況が次々と人間達の前に姿を晒していることだろう。
そこへ、若い女の子が一人やってくる。手には折りたたまれた段ボール。
マスクをしているため、顔は目の部分しかわからない。
避難所でボランティアをしているそうで、腕には腕章代わりのガムテープが
貼られていた。たまたま通りかかったようだ。
自分の手にある新聞を見つけると、「新聞見せてもらえますか?」という。
どうぞと言い、お弁当屋のおじさんから借りた新聞を差し出した。
しかし、大きめの段ボールで片手がふさがっていては、新聞が見づらい
だろうと思いなおし、新聞紙を彼女の前に広げて見せた。
彼女は食い入るように紙面を見つめ、気になる地域の情報を探していた。
一通り見終わった表情は硬い。
その新聞の中に、心が救われるような内容は何一つ見い出せなかった。