友人は自分の事を気遣って、しばらくの間一緒に行動する事を提案してくれた。
勿論大歓迎、心強い。
二人でマンションまでの道を急ぐ。消防署を通り過ぎると、その先の道に明かり
はない。生き物の気配も感じない。
自分をとり囲むようにそびえ立つ、全ての窓が真っ暗なビルは達は、まるで
人間達に捨てられた事を恨んでいる怪物のようだった。
間もなく自分のマンションに辿り着く。
車のダッシュボードから懐中電灯を探し出しすと、布団をとりに家へと向かう。
さて、一匹の怪物の腹の中・・・もとい、マンションの中へ。
エレベータは勿論動いていない。
懐中電灯の明かりだけをたよりに、鉄の扉をくぐりコンクリートの階段を上る。
明かりのないコンクリートの階段は、まるで廃墟を思わせる。
勿論、散らかっているわけではない。
徐々に息はあがり、足はあがらなくなっていく。
『日頃の運動不足がたたったな。』
こんな時だけは、もう少し下の階に住むべきだったと思ったりする。
懐中電灯の明かりで踊り場の数字を確認し、やっとのことで階段終了を知る。
げっそりだ。
友人は余裕の表情、言葉も口にできない程ゼーハーしている自分を見て、
「体力ないなぁ」と笑っている。 『・・・ふん』声に出せない。
よれよれの自分のかわりに、友人がドアを開けた。中は真っ暗。
懐中電灯で照らした床の上はぐちゃぐちゃで、テレビでよくみる廃墟そのもの。
『ああ、片付けを考えると本当に気が重い。』
自分の手にある懐中電灯を見てふと思いつき、お約束な事をしてみたりする
ものの、気持ちが明るくなるわけもなく。
「はいはい。いいから早く布団もっといで。」と、軽くあしらわれてしまった。
靴を履いたまま寝室へ行き、掛けられそうな毛布の類を適当に丸めて両手に
抱える。
「とりあえず寝るだけだから、今はこれだけでいいや。明日明るくなってから、
もう一度ここに来よう。」
ドアの鍵をかけ、懐中電灯の明かりだけをたよりに、布団で見えづらい足元に
集中しながら、ゆっくり階段を下っていく。
そういえば避難所を出てから、自分達意外の人の姿は、全くみていない。