小説西寺物語 27話 平城天皇上皇へ、西寺派奈良に21名のスパイ僧侶派遣
809年2月1日に平城天皇から奈良仏教六大宗派七大寺院の代表大安寺貫主の恵慈に密書が届いた。それによると、
「809年5月18日に天皇を退位して弟の静野親王に皇位を譲る。譲位後は旧平城宮にて上皇としての任務を果たすが、809年5月15日までに平城宮の整備、公卿及び貴族の屋敷の整備を求める。尚、整備費用その他は奈良仏教の寺領(荘園)の拡張を5割認める」
この勅命を平城天皇から受け取ると同時に奈良仏教は緊急会議を開催していた。この時代は天皇がたとえ退位しても上皇として天皇と同じだけの権力を持ち上皇がなにかの政策を認めればそれが即法律となり上皇の勅命になる。つまり、この上皇の一言で奈良仏教は寺領を5割拡張したことになる。しかも、上皇は奈良の平城宮に住み、有力公卿や貴族まで連れてくるというから事実上の平城京への遷都と同じ意味を持つので衰退寸前の奈良仏教に大きな光が射し込んだとこの夜は奈良仏教幹部の大宴会になった。
上皇が住まいとする平城宮とは元の平城京の宮殿で奈良から長岡京に遷都する際にはこの宮殿や公卿、それに有力貴族の屋敷をそのまま保存している。これはもし都に火災や天災があればすぐに仮の宮殿として使うためで平城京でもその前の難波宮を保存していた。そして長岡京に遷都する際には難波宮を解体して長岡京の宮殿にするという合理的な遷都作戦でもあった。
なら長岡京から京の都に遷都する場合は長岡宮を保存して平城宮を解体して京に運べはいいのだが、これは当時まだ巨大な権力を持つ奈良仏教の強烈な反対運動があり実現はしなかった。その奈良仏教の反対の思惑は奈良には日本のすべての宗教宗派があり、本来都は奈良にあるべきでいつかは天皇が代わり奈良に都を遷都される際にはどうしても平城宮と公卿、貴族の屋敷が必要になるからだ。
その奈良仏教の長年の夢が上皇とはいえ叶うことになり平城宮と公卿、貴族の屋敷や庭の修繕の手配をしていた。とはいってもこれらの屋敷は長岡京遷都からもう25年が経過しているので宮殿の檜皮葺の屋根はすべて葺き替えしなければならない。公卿や貴族の屋敷の板張りの屋根も同じでこれらの修繕の見積もりを見て奈良仏教は愕然とした。
その修繕費用とは30万貫で奈良仏教六大宗派七大寺院の年間予算の3年分にもなった。寺領からの年貢だと5年分にもなりたとえ来年から寺領が5割増えたとしても間尺に合わない金額になっていた。これまで奈良仏教は200年かけて貯め込んできた銀、金、銭で120万貫あったが、官営西寺建設の塔頭に60万貫もの大金を拠出してきた。これは奈良仏教は投資のつもりで塔頭30寺院から各本山へ必ず上納金があると信じてきたが、守敏僧都の策略で上納される可能性はなかった。
奈良仏教の各本山には東大寺のような財宝を収納する正倉院と同じ宝物殿には遣隋使、遣唐使が持ち帰った国宝級の文化芸術品が数多くあるが、これはそんな簡単に買い手は見つかる代物ではない。見積もり書を提出した宮大工の棟梁は、
「今はたまたま官営西寺、東寺の建立工事が中断された上に西寺、東寺の塔頭工事も一段落して宮大工の大量動員も可能だが、平城天皇が退位されて静野親王が即位され官営西寺、東寺の建立工事の再開の命令があれば私ら宮大工のすべてが京の都に招集されて平城宮の修繕工事も中断します。この平城宮の修繕工事を明日から始めれば平城天皇の退位までには必ず完成させますが、その決断を本日されたい」
と、恵慈に決断を迫っていた。
恵慈にすれば平城天皇の勅命は絶対であり、もし平城宮の整備を断れば奈良仏教に与えられた寺領のすべてを取り上げられるのならまだしも、奈良仏教は国賊だとして解散命令の危険もある。恵慈の宮大工棟梁への返事は「それでお願いします」しかなかった。この恵慈の立場を棟梁も知っているからこそ馬鹿高い見積もり書を提出したが、この棟梁に入れ知恵したのは守敏僧都で修繕費の一部は守敏僧都が住職の源光寺にお布施として納入されて約200名の修行僧の育成費に使われていた。
この本山の修行僧及び僧侶だが、都が奈良にあったころは各本山合計で6000名の僧侶が在籍していた。これは全国に2500寺院の末寺があったが、これらの住職はやがて高齢で引退しなければならない。それらの補充のための僧侶を育成するためだが、現在は修行僧を含めても1500名に減少していた。
この原因は奈良仏教が10年もかけて育てた中堅若手僧侶のすべてに当たる350名を西寺塔頭建設工事に派遣したことから奈良仏教の若手が本山から消えて残ったのは高齢僧侶と修行歴10年未満の修行僧だけになった。その修行僧さえ300名も守敏僧都に引き抜かれて各本山は老人と二十歳未満の修行僧のみの中抜き状態になった。
この残った修行僧及び僧侶は末寺の後継ぎ僧侶ばかりだが、それがたとえ1500寺院としても残りの1000寺院にはいずれ後継ぎがいない無住職の寺になるが、この1000寺院に僧侶を派遣できるのは比叡山に2000名の僧侶を抱える比叡山仏教の空海であった。空海にすればなんの苦労もしないで全国の1000寺院を手に入れることになる。
しかし、こうなれば奈良仏教の存在さえ危なくなると守敏僧都は考えていた。たしかに守敏僧都は現在の奈良仏教の権力の弱体化を願ってはいたが、消滅は考えてもいなかった。これは守敏僧都と西寺塔頭30寺院の住職も同じ考えばかりか奈良仏教西寺派と名乗る以上奈良仏教の歴史を闇に葬ることはできなかった。
現在西寺派には塔頭に350名、西寺宿坊に300名の修行僧、源光寺には僧侶が200名、修行僧が175名在籍して合計1025名にもなるが、それらと各本山の修行僧、僧侶を合わせれば2525名になる。これらを奈良仏教各本山の僧侶とすれば僧侶の数の上では比叡山仏教に侵略されることはないと各本山と西寺派との和解の計画を守敏僧都と塔頭幹部で練られていた。
その練られた案というか策略を各本山に伝える使者として各本山から派遣されている屁理屈理論派の僧侶3名×7本山の21名を選抜して元の本山に派遣していた。その本山への交渉の柱は本山の貫主を退いてもらって西寺塔頭幹部を貫主及び幹部にすること、この場合は元貫主、元幹部の僧侶としての身分は保障した上で自坊の住職はそのまま認める。そして脅し文句は「嫌なら各本山の後継ぎ僧侶のすべてを引き抜きその寺を西寺派の末寺にする」であった。これら守敏僧都の要求という脅迫は奈良仏教の幹部会にかけられたが、5月になれば上皇が奈良に遷都されるのを期待してか返事を保留していた。
この各本山からの返事を待つという理由で使者21名は各本山の塔頭に住み込んでいた。つまり、奈良には西寺の工作僧侶が21名潜入して5月にも平城天皇が上皇となって奈良の平城宮で院政を展開するというが、その上皇と薬子一派と奈良仏教の癒着、企みを察知して守敏僧都に報告するという重要な仕事も兼ねていた。またこの工作僧侶に京の都の話しを聞きたいと塔頭を訪れる奈良仏教末寺の後継ぎ僧侶にも西寺思想を広めるという仕事も兼務する大忙しい各工作僧侶の里帰りの任務であった。
気になる木 ②コンドー山
東寺と対になっていた西寺は火災で荒廃した。江戸時代荒地を畑にする際に西寺の礎石、瓦、瓦礫などを山積みした山(標高約6m)の頂上の二本の気になる木。史跡西寺跡の石碑、当初、金堂跡だったが、講堂跡に変更された。
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