小説西寺物語 21話 奈良仏教稲荷神社の仲介で金銀三十万貫を比叡山へ

 順守は奈良仏教からの全権委任大使として京の都の西寺を訪ねる途中、まだ建造中でその建設工事が中止されている東寺の前で南大門の後ろの金堂を見上げていた。それは東大寺や大安寺に匹敵する伽藍だが、東大寺や大安寺は300年ほどの年月をかけて築いて来た歴史があるが、この官営東寺の官主に内定している空海はまだ33歳でしかも奈良仏教から独立した最澄の新興宗派の天台宗からさらに独立して自らの真言宗を立ち上げたという空海に我が奈良仏教は翻弄されている。

 その奈良仏教だが六宗派七大寺院はそれぞれ仏教思想を競い合うことはまったくない仲良し宗教集団に成り果てたということを今回の事件で順守は知った。そもそも奈良仏教の順位21番目中の最下位の私が、それもその21番目の兄の明心が西寺塔頭建造責任者になり空席になったために私が幹部になった。そして兄は奈良仏教を破門されてその兄の破門を許すために私がその全権大使になったが、我々奈良仏教はお釈迦様ではなく空海の手の中で踊らされていると思うと順守は心底空海に恐怖を感じていた。

 もう日は落ちかけていたが、順守は西寺の東門から入り兄の塔頭を探していた。食堂の真裏から南から北へと広い通路の左右に規則正しく15ヶ寺の塔頭の建造予定地はあるが、まだ屋根がある寺院は南端の寺院しか見当たらない。ここが兄の寺だと見当を付けて入ったが、見覚えがある僧侶が出て来た。兄の明心は源光寺で守敏僧都と会議中だというのでその僧侶に案内されて源光寺に行った。

 兄の明心は順守の突然の訪問に驚いていたが、なにはともあれと守敏僧都に順守を合わせていたが、守敏は東大寺で順守は大安寺というので初顔合わせだった。順守はここで私は奈良仏教の全権大使として来たが、まずこれらの詳細は先に兄の明心に伝えたいと言葉を濁していた。明心は順守に、
「そか、それならその話しは私の塔頭で今夜聞くとして、まずは久し振りに飯を食べよう」

 それを合図なのか僧侶5名ほどが湯気が沸き立つ大鍋を持って来た。守敏僧都は順守に、
「宗派は違っても我々宗教者は民衆を救い幸せにする任務があるので比叡山とも奈良仏教とも、それに神教とも仲良くしたい」
 順守は、
「その仲良くですが、官営の東寺を比叡山に西寺を奈良仏教が管理するのが一番の方法だと言うのが奈良仏教の結論になります。そのためには西寺の塔頭のすべてを奈良仏教に渡してほしいというのが私の願いです」

 守敏僧都は、
「その話は明日にして今夜はこの山薬(牡丹鍋)と般若湯(僧侶専門の薬酒)を飲んでゆっくりして下さい」
「はい、ありがとうございます。それにしても守敏僧都も兄も奈良仏教から破門されたが、奈良仏教を恨んでいないのですか?」
 兄は、
「いやいや、ここには奈良仏教から逃げてきた僧侶が188名、破門された僧侶が350名もいるが、宗派なんてものは所属を示す便宜上の仮の名前にしかならない。我々は日本の仏教者で民衆を救い幸せにするのが任務になる」
「それなら兄はもし奈良仏教全権大使の私が奈良仏教からの破門を解除して西寺塔頭建造責任者を命じると言えば素直に従うのか?」
「おいおい、順守…それを言ったら明日の話しの楽しみがないが、私も守敏僧都も奈良仏教を衰退させるつもりは微塵もない」

 その明くる日にも守敏僧都と明心、それに順守の3人で西寺塔頭を奈良仏教に引き渡すための策を考えていた。順守が奈良仏教の全権大使で60万貫(銭1000枚で一貫)を西寺塔頭建設費用として拠出したことには守敏も明心も正直驚いていた。この60万貫の見積書を作成したのは明心だが、奈良仏教にとっては明心の推定では約120万貫を七大寺院で溜め込んだ金、銀の半分を出すことになる。つまり、明心が最初に提案した通りになったので順守は明心に、
「最初から兄さんの提案に賛成していれば奈良仏教の僧侶350名もの破門はなかったのに…」
「いや、それは奈良が私を破門して西寺に派遣されていた僧侶の引き上げを命じたが、誰一人も奈良に帰らなかったが、これが奈良の幹部には相当な衝撃を受けてこのままなら奈良の僧侶のすべてを比叡山に引き抜かれると思ったのが60万貫拠出の決心になったらしい?」

 その60万貫の見積りは木材を丹波から運び、瓦は淡路島から運ぶための輸送費が相当掛かり木材と瓦で30万貫を計上していたか、その木材は比叡山の僧侶の手で伐採されてもう西寺に搬入されていた。瓦も瓦を焼く薪を比叡山から東山の登り窯に運ばれて30万枚の瓦を焼いていた。もちろんその木材と瓦を使えば5年の工期を2年に短縮できるが、比叡山はこの木材と瓦を売ってくれるかの心配があった。

 そこで守敏僧都は比叡山で謹慎中の最澄との仲介を稲荷神社の伊呂具にしてもらおうと明心と順守を連れて稲荷神社に参拝をしていた。伊呂具はこの3人を温かく迎えていた。伊呂具は、
「亡き桓武天皇は巨大化した奈良仏教の横暴を押さえるために京に都を遷都され官営西寺東寺の塔頭に金を拠出させて財政的にも弱体化させようとされた。その結果奈良仏教は半分の資金を使うことになった。つまり、その60万貫の半分の見積り通りの30万貫を比叡山に木材と瓦の費用として払えば西寺塔頭の工期は5年が2年と短縮、比叡山は資金が入る。奈良仏教は京の都に進出できて衰退を食い止めることもできて三方両得になるが、いかがか?」

 この伊呂具の提案は奈良仏教にとっては侮辱以外の何ものではなかった。それは奈良仏教が何百年もかけて蓄えてきた金、銀の半分を天敵の比叡山に渡すことを奈良仏教の幹部は理解出来るかの心配が明心、順守にもあった。明心は伊呂具に、
「それはたしかに木材と瓦の予算だから、これらに30万貫を使うのはなにも問題はないが…」
「たしかに、気分感情的には人間というのはそういうものだが、ところでその60万貫はいつ京の都に届く?」
「それは塔頭建造の目処がたてば一括で60万貫に相当する金、銀が送られてきます」
「そか、それならまずは金を明心が受け取ってから一気に建設工事を進めればいい。塔頭が完成すればもう木材や瓦をどこから買ったかは問題にしない」
 そこで順守が、
「兄さん、私は奈良仏教の全権大使として金の使い道のすべてを奈良に報告する義務がありますが、木材は近江屋木材店、瓦は東山瓦店から買ったと報告します」
 そこで伊呂具が、
「目的は塔頭の建造で木材が丹波産であろうと比叡山産であろうとそもそもそんな問題を先に提起すれば塔頭は生涯建造できない、今は60万貫が無事京の都に届くために力を尽くそう」

 

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