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Dark side of the moon

どこにでもある意味の恒久的不在

シャンパン色の輝くまどろみのなかで
儚いうたかたを数え
熟れた葡萄を咥えて
甘く切ない香りにむせる


気まぐれな時計仕掛けの
魔法が消えてしまわないうちに
もう一度流れる血の音を交わし合いたい


果てなく続く まどろみを
白い朝に 消してしまわぬように
永遠に閉じ込めてしまいたい
スランバーこの輝くまどろみを

夕暮れは目覚めの手前覚めた星はもう
まばゆく着飾り
崩れた夢の破片を添えて
濡れた肌の火照りを奪う

移り気な気分次第の
未来が流れてしまわないうちに
もう一度鼓動を伝える肌に触れあいたい

果て無く続く まどろみを
この夜の 先に見える白々した朝に
永遠にまどろんでいたい
スランバー この輝くまどろみを




いつもご覧いただいている方々

よくわからないものにお付き合いいただいて

ありがとうございます。


こんなものを見て頂くのも悪いなあとか

どこかくすぐったいような

とにかくありがとうございます。



痛みが歩いてくる音が聞こえる

目を閉ざしても 耳を塞いでも

その音は ゆっくりと近づいてくる


千の言葉が 雨のように降り注ぎ

柔らかい場所を傷つけたり

傷をかばったり 深く突き刺さったりする


遠くに見えた君が隣で笑っていて

驚いたら逃げるように消えた

そんなに急ぐこともなかったのに


君だけを見ていたわけじゃないけど

気がつけば何も見えなくなっていた

こんなにも夜が暗いなんて知らなかった

星の明かりだけでは

手がかりさえもつかめない


痛みが去っていく姿を見送って

心砕いても 口をつぐんでも

君がいない そっくりな僕だけがいる


千の言葉を 投げつけても

僕は君を包み込んで

癒すことすら あきらめていたりする


近くにいたはずの君が遠くで振り向いて

その顔は笑っているようで泣いているようで

そんなに憎むこともなかったのに


君だけの夢だったわけじゃないけど

気がつけば目を覚ましていたから

朝がこんなに眩しいなんてしらなかった

朝日に目をやられて

追いかけることさえできない





欠けた爪で夢をなぞれば

生きることは簡単 大きく息を吸って

みなぎる力で 蹴りだすよ


踊ることはいつも素敵で

華やぐ光のシャワーのなかで

誰よりも軽いステップを踏んでいる


裂けた服から飛び出した

止まらない冗談 小さなあくびを隠して

背を伸ばして 笑い出すよ


歌うことはいつも綺麗で

照りつけられた光の渦のなかで

誰よりも軽いさえずり紡ぎだすよ


果てしなく思える時でも

ズボンのポケットにバークス

君がいるととりあえず歩けるから

ほどけた靴ひも結び直して右足から

踏み出していく


見失いそうなときでも

胸のポケットにバークス

君がいるだけで笑うこともあるから

ほどけた靴ひも結び直して

踏み出していく

誰かの間違いによって魔人プーは

この世に落ちてきた

嵐の夜に 雷とともに

この世に生まれおちた


誰もが魔人プーをおそれた

青い肌に白い牙

見上げるほどのその身体に

人々は魔人プーを見るたび逃げ出した


それでもいいと魔人プーは思った

孤独も慣れてしまえば

穏やかな日々だった

傷つくことも傷つけることも

痛みには変わらないから


空の上の偉い者たちはまたしくじった

ある日、開けてはならない箱を

誰かがひっくり返した

空からは数えきれない悪意が降り注いだ


地上に降りた化け物たちは

人々を蝕み、人々を喰らい、骸の山を築いた

世界は暗い雲に覆われて

すべての笑顔が消え去った


ある日魔人プーは食べられそうな

女の子を助けた 化け物を引き裂いて

ちぎれた破片を無に帰した

そのとき遠い空の上から声がした

「魔人プーよ。すべての災厄を滅ぼしたときには

 おまえの願いを叶えよう。」


魔人プーは戦いを始めた

すべての災厄に立ち向かい

傷つきながらも化け物たちを倒していった

倒した化け物の数だけ魔人プーの身体には

大きな傷が刻まれることになった


望みなんて何もなかった

望んでみても何も変わらないと思った

けれども魔人プーは戦った

期待は失望に変わるかもしれないと思いながら

心の隅にほんの小さな光を隠しながら


人々は魔人プーに心を許し始めた

昔助けた女の子はえぐれた傷にリボンを巻いた

それでも魔人プーは笑わなかった

笑顔にこぼれる牙を見られたくはなかった



時は流れて魔人プーは多くの悪を倒した

魔人プーの身体はボロボロで

鋼のような身体はすっかりやせ細った

いつの間にか最後の敵を残すばかりになった


魔人プーは残った力を振り絞り

最後の戦いに向かうため立ち上がった

もう少し、もう少し

胸の奥を照らす小さな光を少しだけ大きく感じた


最後の戦いは熾烈を極め、残る力を振り絞り

魔人プーはついに最後の敵を倒した

暗い雲の隙間から 懐かしく力強い光が差し込んで

世界を希望が包んでいった

目を細めて世界が生まれ変わる瞬間を

眺めていたその時に

魔人プーは足許にほんの小さな痛みを感じた


倒したはずの化け物のぐたりとした尻尾の先の

糸ほどに細く鋭く光る針が魔人プーのくるぶしに

小さく赤い痕をつくった

希望はほどけたリボンのようにするりとこぼれ

魔人プーの掌から逃げて行った


それでも魔人プーはよろめきながら立ち上がり

転げるように歩き続けた

身体のなかでわずかな毒が残された時間を

蝕んでいくのを感じながら

眩しい光差す方に揺れるように歩き続けた

薄れていく意識のなかで

魔人プーは最後の選択をした


喜びに湧きたつ村の隅で

若い男の骸が見つかった

男の身体は傷だらけ いたるところに無数の傷が

深く刻み込まれていた

不憫に思った村人は男の骸を抱き起こした

土に汚れた男の顔は少し笑っているように見えた


村のはずれの一番大きな樹の下に

男の骸は埋葬された誰も名前を知らない男の墓標には

男が巻いていたリボンがしっかり結ばれた


柔らかな風にリボンはいつまでも軽やかに揺れていた