電離層の異常を用いた地震予知に限らず、前兆現象で地震を予知しようとする研究では、多くの場合、たった一つの前兆現象で、地震を予知しようとします。
この手法は、『地震予知の三要素』が軽視されているように感じます。
『地震予知の三要素』とは、地震の規模の予測、地震の発生場所の予測、地震発生時期の予測の三要素を指します。
一つの前兆現象で、三要素の全てを予知する場合、前兆現象とそれぞれの要素の関係が、曖昧であったり、こじつけであったりするように感じます。
この問題の詳細は、過去にも書いているので省略しますが、受ける印象は、御都合主義です。
現状が、本当に地震の前兆現象なのかを証明することより、「地震の前兆現象に間違いない」との大前提の下に、『地震予知の三要素』にこじつけようとしているように見えます。
今回の電離層の電子密度を用いた地震予知でも、三要素の関係性は、少々強引さを感じます。
地震の発生場所は、前兆現象が起きた辺りと考えることができます。
発生時期も、前兆現象の直後と考えることができます。
電離層の電子数の異常も、震源は、異常が発生した付近の直下、時期も、異常の発生から数十分後としています。
前兆現象は、震源付近から発せられるエネルギで起きるはずなので、前兆現象の場所は震源付近でしょうし、地震発生に至る最終段階で前兆現象が起きるのなら、発生時期も、前兆現象から数秒、精々数十分後には、地震が発生しそうなものです。
なので、電離層の電子密度の異常も、この2要素は、特に問題はありません。
本当は、時期については、問題がないわけではありませんが、ここでは無視します。
問題は、規模です。
なぜ、規模が予測できるのかが、大問題なのです。
地震の規模は、概ね震源域の面積で決まります。
地震の規模を予測するためには、震源域の面積を知る必要があります。
ですが、震源域は、震源から始まった破壊の連鎖が続いた範囲なので、破壊の連鎖が終わるまで、地震の規模は決定しません。
地震の規模を予測するためには、破壊の連鎖がどこで止まるのかを、予測しなければなりません。
これをシミュレーションするには、地下の状態を詳細に知らなければなりません。
逆に言えば、地震の規模を示す前兆現象は、地下の状態から破壊の連鎖の進み方を推測した結果が反映されていることになります。
それは、あまりに御都合主義でしょう。
電離層の電子数の異常は、地震発生前の『地殻変動』によって引き起こされると、梅野教授は推測しています。
その仮説が正しいなら、『地殻変動』の規模は、地震時の破壊の連鎖が起きる範囲を示していることになります。
『地殻変動』と地震の規模を比例させるためには、震源域の大半が、『地殻変動』を起こす必要があります。
梅野教授も、「地殻変動による断層面の摩擦」が関係している旨の仮説を立てています。
ここで言う『地殻変動』は、摩擦を伴って断層が動くことを指すようです。
でも、この『地殻変動』は、地震かスロースリップのような現象に思えます。
しかも、規模が一致するのだから、断層面は震源断層と同じ断層面で、かつ『地殻変動』の範囲も震源域面積とほぼ同じになるはずです。
『地殻変動』によって周辺の水分を超臨界状態するが、数十分後に、一気に動いて大地震に発展するのなら、何を切っ掛けに断層が動く速度が変わるのか、説明が必要です。
『地殻変動』が起きた後、数十分間は大地震にならないことは、極めて不自然です。
また、『地殻変動』で電離層の電子密度が変化するなら、地震発生時はどうなのか、地震発生時と『地殻変動』時との比較も、説明が欲しいところです。
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