ボイスレコーダーの記録は、部分的にしか公開されていない。
ミサイル誤射の証拠が残っているから、その部分を編集して消した。
他にもあるのでしょうが、ざっとこんなものです。
しかし、陰謀論は、深くは考えず、都合の良い話をかき集めてくるものですね。
ちょっと、見てみましょう。
A.捜索は難しい
つい最近、フランスでラファール戦闘機が墜落しましたが、その内の1機は、翌日まで発見できませんでした。
発見が遅れたのは、墜落地点が森林地帯だったからです。
ですが、日本の山岳部とは違い、比較的平坦で、捜索は容易だったはずです。
技術も進歩し、ほとんどの人が、いつでもGPSで現在地を正確に知ることができます。
それでも、まる1日を要しているのです。
日航機事故は、夜間なので、火災を発見するのは容易ですが、火災現場の正確な座標を決定することは、別の次元になります。
また、夜間に、地上の支援なしにヘリコプターから山岳部の自然林に隊員を降下させるのは、極めて困難です。
山岳部に墜落していて生存の望みが薄いのに、二次災害の危険性が非常に高い懸垂降下をさせる理由がありません。
降下させなかったのは、正しい判断です。
「危険でも夜間の懸垂降下してでも救助するのは当たり前」として陰謀論に利用するのは、特攻を「御国のため当然の義務」とする考えに似ています。
B.隠蔽はぶっつけ本番でできるほど簡単ではない
隠蔽だと考えると、恐ろしく素早い反応です。
ミサイル誤射から墜落までは、どこに墜落するかわからないので、証拠隠滅に動くことができません。
墜落した後で、その地点に合わせて装備を整え、工作員を派遣することになります。そして、現地の状態を確認して、証拠隠蔽に必要な装備を部隊に要求することになります。
事故現場は、手前の山にもぶつかっているので、2箇所に残骸が散っていました。
何が証拠になるのかわからない、証拠になるものが現場のどこにあるかわからない、どうやって隠滅するか決まっていない、初めての地で地形さえもわからない、夜間で見通しが利かない、赤外線スコープを使ったとしても、木々に視界を遮られる。
この条件下なのに、ぶっつけ本番でやってのけないといけないのです。
おまけに、痕跡も残してはいけないのです。
思った通りに隠蔽工作ができたとしても、夜明けまでに撤収しなければなりません。
当日の現地の夜明けは、4時54分頃です。墜落から夜明けまで、ほぼ10時間です。
遅くとも、4時半には明るくなり始めるし、準備や移動時間も含む作業時間は9時間半もないでしょう。
常識的に考えれば、成功するとは思えません。
そして、失敗すれば、何もしない場合より激しい非難に晒されるでしょう。
こんな作戦は、立案するはずがないし、立案するようなら、指揮官として失格です。
隠蔽工作を行わなかったのなら、救助を遅らせる理由はなくなります。
やはり、二次災害を防ぐため、夜明けを待ったのでしょう。
C.ボーイングやNTSBが隠蔽に協力するのか?
事故原因は、圧力隔壁の修理ミスに起因する破裂です。
これは、ボーイング社も認めています。
仮に、ミサイルの誤射が原因だとしたなら、なぜボーイング社はミスを認めたのでしょうか。
無実の罪を被り、会社の信用を落とし、賠償までした理由は、どこにあるのでしょうか。
信用は、プライスレスです。
日本政府が裏からお金を回していたとしても、実費程度では話になりません。
日本政府がミサイル誤射を認めた場合の損失と、裏でボーイング社に支払われる金額では、ボーイング社やアメリカ政府に支払う金額が上回りかねません。
また、調査を行ったNTSB(アメリカ政府の調査組織)も、全員を買収しなければなりません。
NTSBは、時にFAAにも改善勧告を行います。簡単に買収に応じる組織とは思えません。
しかも、これらに弱みを握られることになり、支払いは無限大です。
日本政府にも、ボーイングにも、隠蔽のメリットがあったとは思えません。
D.ボイスレコーダーは公開しないのが当たり前
陰謀論者は、ボイスレコーダーが公開されていないことを根拠に、ミサイル誤射説を展開します。
ボイスレコーダーは、通常は公開されません。
ボイスレコーダーの最後には、パイロットの断末魔の声や激突音が録音されていることが少なくなく、公序良俗の観点からも、遺族への配慮からも、無編集で公開するのは憚られます。
ですが、少しでも編集すれば、陰謀論者はそれを突いてきます。
パイロットは、キャビンが減圧したことは知っていましたが、減圧の理由は知りませんでした。
実際、管制とのやり取りで、後部のドアの不具合を報告していますが、ミサイルはもちろん、垂直尾翼の状態についてのやり取りはありませんでした。(管制側の録音と証言による)
パイロットは、操縦不能になった機体を緊急着陸させることだけを考えていたはずです。
ミサイルが原因だとしても、パイロットがそれに気付けるはずもなく、当然、ミサイルに関する会話がボイスレコーダーに残されるはずがないのです。
相模湾で見つかった部分を含め、垂直尾翼は公開されていますが、少なくとも炸薬による損傷はないように見えます。
ボイスレコーダーには、圧力隔壁の破裂音と、垂直尾翼の脱落時の音が記録されていました。
事故原因と矛盾しない音です。
垂直尾翼がミサイルによって脱落したのなら、その説と矛盾しない音なのか、逆に確認したいくらいです。
ボイスレコーダーの録音が部分的にしか公開されていないので、それを逆手にとって、隠蔽工作の口実に利用しているだけです。
E.隠蔽工作なら大勢が関わったはず
隠蔽工作に関わった人物、それを見聞きしていた人物は、どれほどの数になるのでしょうか。
脱落した垂直尾翼の一部は、翌日、相模湾で護衛艦が発見しています。
ミサイル誤射であれば、この時にも隠蔽工作が行われたことになります。
この件も含めて、隠蔽に関わった人を考えてみましょう。
まず、誤射に関係していた人々、その報告を受けて隠蔽を考えた人々、現地に入り隠蔽工作をした人々、その人員と装備、証拠品を輸送した人々、移動手段と装備の整備をした人々、ボーイングの事故調査のメンバーと幹部、事故調査を行ったNTSBの人々、運輸省の事故調査の人々、日本政府やアメリカ政府の関係者等々、少なく見積もっても数百人は関わっていることになります。
こんなに大勢、それも国を跨いだ人々が関わっても、隠蔽工作が外に漏れないと思っていたなら、首謀者は相当におめでたい人ですね。
大勢が関わる必要があることを予想できないなら、首謀者の能力に「?」が二、三個は付くでしょう。
F.と言いつつ、納得できない点も・・・
圧力隔壁の修理ミスについて、断面の説明図を見ました。
工学を齧った人なら、「これ、ヤバくね」と思うほど酷い修理です。
修理したように見せ掛けるためだけのものに、私には見えます。
事故機の圧力隔壁は、一般にも公開されています。
誰でも(手続きは必要だが)、これを見ることができます。
じっくり見れば、修理ミスも見えてくるでしょう。
陰謀論ではなく、実際に「ヤバくね」レベルの修理が行われていたのです。
ということは、確信犯と言っても良いミスだったことになります。
なぜ、そんなことをしたのか、不思議です。
〈まとめ〉
この手の陰謀論は、ちょっと反対から見れば、例えば、日本政府の立場からボーイング社の立場に変えるだけで、説明が難しくなります。
にも関わらず、40年近くも経過してから陰謀論が出てきたのは、陰謀論を真実のように記した本が出版されるのかもしれませんね。
もし、そうであれば、私は出版社に協力して話題を振りまいたことになります。
これと同じことは、宇宙人の遺骸だとメキシコに持ち込まれた宇宙人人形の時にも、やってしまいました。
当ブログを見て、例の御仁の本を買うとは思えませんが、もしかしたら出版社に貢献してしまっていたかも。
こういう思慮の浅いところは、ガキからの成長が見られない伊牟田でした。