2024年9月19日、東北新幹線のはやぶさ・こまち6号が、古川-仙台間を315km/hで走行中に、はやぶさとこまちの間の連結器が分離し、自動的に緊急ブレーキが作動して停止する事故がありました。
死傷者こそありませんでしたが、重大な事故なので、調査が進んでいます。
1.中間報告
昨日、JR東日本から中間報告(?)が発表されました。
それによると、非常用の切り離しスイッチの周囲に金属屑が複数あり、それがスイッチをショートさせたため、連結器が切り離されたと推定されるそうです。
おそらく、スパークか何かの痕跡も、一緒に見付かったのでしょう。
事故直後の連結器の写真を見ると、『はやぶさ』側も『こまち』側も、連結器に破損は見当たらず、連結器のロック機構も、ロック状態になっていました。
ロック機構は、スプリングにより、ロック状態に戻されます。
なので、連結器の切り離しが完了すると、スプリングによってロック状態に戻るのが自然な動きです。
状況から見て、JR東日本の報告の通りに、連結器が解放されたのでしょう。
2.応急対策
対策は、どうなるのでしょうか。
応急的な対策は、非常切り離しスイッチ周辺の確認と掃除でしょう。
これは、既に行われたと思われます。
3.金属屑はどこから?
どこに、金属屑(切削屑?)があったのでしょうか。
スイッチの接点が剥き出しとは考えられないので、スイッチのコネクタの周辺に、金属屑があったのでしょう。
JR東日本によると、金属屑は、車両製造時のものと推定されるそうです。
似た話は、2021年9月7日のP-1対潜哨戒機の滑走路逸脱事故の原因にもありました。
この時も、SCVの作動油に金属屑が製造時から混入していて、前輪が右に向く位置で、内部のバルブが引っ掛かってしまったことが原因でした。
東北新幹線の連結器分離事故との共通点は、製造時の金属屑が事故原因になっていることです。
金属屑は、配線や配管が終わった後に、配線周辺で切削が行った際の切削屑でしょうか。
製造時から残っていたとすると、そのようなケースが考えられます。
4.製造工程に問題はないか?
私の感覚では、製造終了後に試験を行って動作を確認したら、出荷前に最終のチェック(ネジの緩みや配線の弛み等の最終確認)を行わないのでしょうか。
最後に、綺麗に拭いて出荷しないのでしょうか。
P-1対潜哨戒機にしても、E6系『こまち』にしても、製造元は製品を雑に扱っているようにも見えてしまいます。
そうではないなら、製造工程の組み方に問題がありそうです。
切削屑が出る作業が、配線や配管の後に行われているなら、P-1や今回のような問題は、今後も起こり得るように思えます。
2002年に起きた三菱重工長崎造船所での『ダイヤモンド・プリンセス』火災事故も、製造工程の順番に問題がありました。
20年前の事故の教訓が、他社は消化できていないのでしょうか。
これは、根の深い問題なのかもしれません。
5.簡単にスイッチが誤動作するのか?
金属屑があるだけで、スイッチの誤動作が起きるのでしょうか。
スイッチが誤動作したのなら、金属屑で短絡が起きたことになります。
スイッチの接点が剥き出しでないなら、コネクタの被覆が不充分だったか、金属屑によって損傷し、短絡に至ったかです。
被覆が不充分とは考えにくいのですが、もし被覆が不充分だったのなら、製造品質が低いと言わざるを得ません。(流石に考えにくい原因ではある)
6.インターロックはあったのか?
スイッチが短絡しても、ロック解除が働かないような仕組みは、組み込まれていなかったのでしょうか。
非常用の開放スイッチだったようなので、インターロック機構はなかったのかもしれません。
もし、インターロック機構があったのに、連結器が解放されたのなら、とんでもなく問題が大きくなります。
フェールセーフは機能したようで、両列車は距離をとった状態で安全停止しました。
この点は、良かったと思います。
さて、インターロックですが、初期の旅客機では、飛び降り自殺が頻発したそうです。
そこで、飛行中の動圧で、ドアを二重にロックしたそうです。
同じ考え方で、走行中は、空気圧か油圧で、連結器のロックをロック方向に押し続ける仕組みを追加するのです。
例えば、車軸に小さな油圧ポンプを設け、その油圧を連結器のロック機構に導くのです。スプリングに加えて、油圧でもロック状態にするのです。
あるいは、速度30km/h以上で、空気圧をロック機構に導き、ロック解除の信号が入っても、空気圧で抗することで解除させない、または緊急停止までの時間を稼ぐのです。
電気的な安全装置は、ちょっと難しいかもしれません。
今回の誤動作したスイッチは、『非常用』なのだそうです。
なので、色々な安全装置を素っ飛ばして、強引にロック解除を行う装置です。
これにインターロックを加えると、非常時に切り離せなくなるかもしれません。
機械的なロックは、最悪は油圧や空気圧を遮断する手動弁を設けておけば良いのです。
切り離せない時は、この弁を手動操作して圧が掛からないようにすれば、非常用切り離しスイッチで切り離せます。
この手動弁の開閉状態をシステムに取り込み、遮断状態(閉)では、警告灯と共に、30km/h以上では走行できないようなインターロックを設けておくのです。
これなら、構内の移動はできますが、警告灯を無視した高速走行はできないので、安全性を確保できます。
7.再発防止策
それにしても、根の深い事故ですね。
・製造時から金属屑がスイッチ周りにあった。
・金属屑は、事故まで発見されなかっ。
(見えにくい場所にあったのでしょう)
・接点またはコネクタの絶縁が不充分だった、または簡単に絶縁破壊された。
・インターロック機構がない、または機能しなかった。
これらを踏まえて、再発防止策が錬られるのでしょう。
個人的に、再発防止策を考えてみます。
・製造工程を見直し、切削を終わった後に配線や配管を行う。
・全工程、全試験項目を終了した後、清掃を行う。
・スイッチ周りの絶縁被覆を強化する。(短い距離で短絡しやすい)
・インターロック機構を追加する。
8.まとめ
新幹線は、世界で最も安全な交通機関です。
開業から60年間で、個人の犯罪や病死を除けば、鉄道の責任による乗客の死亡事故はありません。
ですが、その神話が崩れる寸前まで来ているように感じます。
新幹線に関わる人は、多くは安い給与で楽ではない生活をしています。
どこにでもいるサラリーマンです。
そういった人々が、高い誇りを持って取り組める職場になっているのでしょうか。
単純に、規定を設けたり、確認手順を追加して現場に押し付けるのではなく、根本的な問題に手を付けることが重要になります。
現場レベルで対策するだけではなく、中間層や経営陣まで、それぞれの階層で対策しないなら、類似の事故が形を変えながら続くことになります。
背景に踏み込まないなら、本当に「日本、終わった」になりそうです。