乳がんの治療後の経過は、つぎのような場合が考えられます。
① 再発しない
② 数年以内に再発・転移する
③ 10年以降に再発・転移する
③の10年以上経過してからの再発・転移についてのメカニズムが、分かってきたようです。
Mina J. Bissellさんという女性研究者らが2013年に発表した研究です。
The perivascular niche regulates breast tumour dormancy
Nature Cell Biology 15, 807-817 (2013)
Minaさんは、ローレンスバークレー国立研究所で乳がんの転移・再発について研究している、世界的に有名な研究者です。
Minaさんは、研究実績も素晴らしいですが、人間的にもとても素敵な方のようです。
お写真を拝見すると、大きな研究室を運営しているBigな方です。
がん細胞の研究は、がん細胞だけを平面状に培養して行っていたのですが、Minaさんたちは、細胞外の部分を含んで3次元で培養する技術を開発しました。
その結果、がん細胞の増殖が、周囲の環境にコントロールされていることがわかりました。
なぜなら、がんは周囲の間質、腫瘍血管、炎症細胞を伴って増殖するからです。
転移に関しては、全身にちらばったがん細胞が、いかにして休止状態で存続し、どのような因子が細胞増殖の引きがねになるのか研究しています。
彼女たちは、マウスでの研究で、がん細胞が、肺・骨髄・脳の『微小血管』を囲む微小環境内に隙間(ニッチ)を作って潜んでいることを突き止めました。
『微小血管』とは、組織内に血液を運ぶ小さな血管です。
その血管の先端が、急速に成長する時に、再発が突然始まることが分かりました。
その時に、血管内皮細胞(血管の内側をおおっている細胞)が、乳がん細胞の増殖に関与しているか検討しました。
血管内皮細胞由来の thrombospondin-1 という因子が、乳がん細胞の静止を維持しているということです。
そして、血管の尖端にある内皮細胞由来の 活性化 TGF-1 と periostin が、血管新生の信号となり、その信号が、休止中の乳がんを刺激して増殖させるとしています。
このようなメカニズムの解明によって、休止状態から再発する移行する前に治療することが可能になると言っています。
とても素晴らしい研究ですね。