40cmはあろうかと思う海老フライを食べた。
タルタルソースなるモノが付いてきた。
山で育った私には感激の極みだった。
頭と尻尾が付いているのは衣だけじゃ無いぞとアピールしているからだと教えられた。
本当でも嘘でも良かった。
美味しかったのは事実なのだから・・・
大海老フライ
*初めての方は「揚げだし豆腐」からお読みください。
山の温泉には町民や宿泊客が利用できる共同浴場がある。
温泉の豊富な山の温泉だから出来る住民サービスともいえる。
私たちは自分の家の風呂には入らない。
それは小学生のころから続いている。
学校以外ではソロバン塾と並んで社交場となっているからだ。
私たちもその習慣は今も続いているのだろうと思う。
浴場はスナックインドを通り過ぎるとすぐに見えてきた。
「剛次郎、羽柴さんの話本当かな?」私は親父たちの性格を熟知しているので信用してない。
「本当だろうな、羽柴さんは嘘は言わない」確かに羽柴さんは嘘は言わない、しかし・・・
共同購入の合鍵を差し込みドアを開ける。
一瞬にして視界が閉ざされる。
山の温泉の外気と温泉がメガネを曇らせる・・・慣れたものだ。
「タツ、お前不便だなメガネって・・・」しょうが無いではないか・・・
曇ったメガネをタオルで拭きながら脱衣所に向かう、
ドン! 「あ、すみません」自分も痛かったが商売柄、謝ってしまう。
「オーいいよ!それより大丈夫かい?兄さん」低い声で言われた。
「ハ、ハイ・・・」見たからに怖面である・・・声も上ずってしまったではないか。
共同浴場「厳の湯」は源泉「白牛の湯」から分湯している貴重な浴場である。
湯船は三槽あり、45℃、40℃、そして頭湯がある。
剛次郎と私は40℃の湯船に入る。
メガネを外した私にも隣の浴槽の人影は見える。
「兄弟、風呂は熱いのに限るなー」真赤な顔の海坊主がしゃべっている。
「やせ我慢せいなや、虎次!」・・・とらじ?・・・ハー?・・・どう見ても、化猫だろう。
45度の高温に化け物三人が入っている。
「兄さん達、そっちの湯はぬるかろう」・・・へ?!
モンスターブラザースの一人が熱湯を入れてきた。
「あちちち・・ち・ち・!!!」剛次郎と私は瞬時に飛び出した。
モンブラ(モンスターブラザースの略)はけらけら笑って楽しそうであった。
そして私たちは文句も言えず黙って洗い場にいた。
「ところで兄弟、今日はやばかったなー」熱湯を入れた張本人が口火をきる。
「あーまずい物を見られたなー」・・・こいつが親玉か・・・
「虎次、どうする」親玉は低い声である。
「その時はその時や、食うてしまおうか!ガ、ハハハ・・・」化け猫が笑う・・・ここ・・怖い。
「しかし山の料理は物足りんな、ワシは海老フライが良かったのー」と、お湯かけジジイ。
剛次郎が呟く「山に来て海老フライが出るかー」・・・全くその通りと私。
「ま、そういうな海老の天ぷらで我慢せい、結構美味かったではないか」と、低い声。
「海老の天ぷら?」剛次郎が呟く・・・海老の天ぷら?と私。
当時、温泉場の料理は、川魚の塩焼き、鯉の洗い、山菜又は茸の煮〆、そして旬の天ぷらである。天ぷらの素材は春はタラの芽、フキノトウ、夏は乳茸にしどきの葉、秋になると舞茸やクリ茸が顔を出すと決まっていた。
山の温泉で魚介類を出すのは・・・山の温泉ホテルと山原屋旅館だけである。
「おい、剛次郎、もしかしてこの連中・・・」
「し・・・」剛次郎も気が付いている様子だ。
間違いなく山原屋旅館の宿泊客で有る、そして羽柴さんが見てはならないものを見られてしまった本人と遭遇してしまったのである。普段は地元の者や民宿の宿泊客しか入らない「厳の湯」に・・なぜ?
「あ、そうか!山原屋旅館は風呂の改装中だった」山原屋旅館は民宿の特権を利用したのだった。
三人の話をしばらく聞くことにした。
「匕首が悪い・・・埋め殺してしまおう・・・」などと話している。
日本刀では血が出てしまうので生きたまま埋めてしまおうと言っているのだ。
つまり!羽柴さんの事をである・・・間違いない・・・たぶん・・・だと思う・・・
「急げ剛次郎!」 「行くぞ!タツ」
剛次郎と私は急いで着替え、羽柴さんとスットココンビを見つけに行ったのである。
スナックインドにはもう既に居なかった「しまった!チッ」私は舌打ちをした。
途中「鳥わか」のマスターカップル?に会ったが見かけなかったという。
ちなみに二人はお揃いの赤いマフラーをしていた。
続いて山の温泉ホテルの佐藤主任と出会ったが、やはり見かけなかったという。
連れの飯野君、斎藤君には聞いても無駄だろうと思った。
「やータツすわん、ごーずろーすわん」完全に出来あがっている斎藤君、
大声でひとり言を話している飯野君・・・
この二人は無視しようと思った。
そして、朝が来た・・・
帳場の真ん中で腕を組んで座っているのは紛れもない私の親父である。
そして、たぬき屋物産店の旦那、山原屋旅館の松子もいる。
「どうしたの?こんな早く皆して」お袋に聞いて見た。
「羽柴さんが行方不明だってさ」練炭に火を点けながら迷惑そうである。
「えーそれって大変なことじゃない」私の悪い感が当たってしまった。
そして例のごとく松子の話しから始まるのだった・・・
朝食の準備をする為に調理場に行くといつもの様にことぶき屋の旦那さんが、自分勝手にコーヒーを飲んでいまスた・・・頭をかく親父・・
この調理場に集まる順番は、ことぶき屋(親父)、松子、板前羽柴、番頭、女将、そして最後に旦那さんの順であるが、今日は羽柴さんが板場にこない。
そこで、昨日飲み過ぎて寝ているのだろうと思い、部屋に起しに行った。しかし掛け布団はペッチャンンコで誰も寝ていない。白衣も壁に掛けて有る、しかし、夜中にトイレに行く板さんとすれ違った・・・
朝までに忽然と消えてしまったというわけだ。 松子の話は以上だった。
そしてことぶき屋に集まった訳である。
「実は・・」昨日の浴場での話とその後親父たちを探しに行った事などを話した。
「なに!その話は本当なのか?」親父の目が輝いた。
「何で早く言わねー」そう言われても町内を一周したら喉が渇いてきてインドで飲み始めてしまったのだ。当然羽柴さんの事は忘れてしまった。
「今の話が本当だとすると、駐在さ連絡するようだっぺ」たぬき屋の旦那も腕組みを解いた。
「ワダシがすっぺ」松子が電話を掛け、駐在と刑事がことぶき屋に到着した。
「まーた、あんだ達か」馴染みの駐在である。
「山田です」那須塩原署の刑事は飯田橋巡査とは月とスッポンである。
ともあれ話の経緯を親父、私、松子の順に説明した。
メモをとっていた刑事が「では、その3人組はまだ居るんだね」松子に聞いた。
「はいー、何日か滞在すると言っていましたー」刑事は不思議そうに聞いていた。
「と、すると3人組は、自分の宿泊している旅館の板前を拉致し監禁しているというのか?」
確かに無理がある・・・「ん?」刑事の後ろで親父が首を横にふり、手で首を切る真似をしている。しまいには白目をむいて苦しそうにしている。それを見ている松子とたぬき屋は二人してお経を唱えている。
「まさかと思うが、土の中ではあるまい」駐在が口走る。
親父は手を大きく前にだしてその通りとジェスチャーをしている。
「めったなことを言うんじゃ無い」刑事が駐在に注意をした。
親父は「チェッ」と残念そうである。
「一様調べてみましょう。今後は捜索の手続きが必要になります」キビキビしていた。
山原屋旅館の旦那さんが捜索願いを提出、二手に分かれて捜索が開始された。
事情徴収と言うことで滞在の客達に聞き込みを開始した。山の温泉は腰痛やリュウマチに効果があり、湯治場としても人気が出てきていた。その為多くの部屋を回ることになった。
そして、別働隊が羽柴さんの捜索を始めた。漬物小屋から温泉タンクの中まで隈なく調べ上げた。しかし見つける事は出来なかったのである。
夕方近くになった頃に例の部屋の番になった。この三人組の部屋だけを回る事は出来無いからだ。
私は顔の確認の為同行していた。
「こんにちは、警察の者です。もうお聞きいれと思いますが、人を探しています。」
襖を開けた瞬間、海坊主がいた「この人が犯人です!」私は声をあげた。
「おー!山田君」客の一人が声をかけた。
・・「え?」
「六田先輩、お久しぶりです」山田刑事が挨拶をしたのは、定年退職をした元刑事さんだった。
「何だか外が騒がしいようだが、行方不明だって?」・・・どう見ても親玉である
「はい、ここの板前が明朝から行方不明なんです」・・・良いのか犯人に情報漏洩だぞ
「ところで、そちらの方たちは?」・・・私も聞きたい。
「幼馴染の猫山建設の猫山虎次、これでも社長だ」
「がははは・・・宜しく」・・・やはり化け猫
「そして猫山建設の小山専務だ」
「まんずよろしく、ここの温泉は熱さも丁度いいねー」・・・お湯かけジジイめ
「ところで皆さんはこちらへは何をしに?」刑事の質問。
「何しにって、湯治だよ、毎年山の温泉に来ているんだが、今回はこの旅館の工事を猫山さんの処で受けているので付き合いだよ。いつもは民宿だがね」・・・説得力がある
「じゃー昨日・・」私が口を出すのに始め刑事さんが抑えようとしたが、続きを話させた。
「共同浴場で話していたらまずい物を見られたから匕首でさして埋め殺しにしようと言うのはどう説明するんだ」・・・少し緊張していて文章が変である。
そしてその後の見事な良い訳?に黙って家路に着こうとした。
匕首&合口=日本刀 ここでの合口は温泉の集合部分のこと(初めて聞く私)
埋め殺し=コンクリート等で固めて取り換えが出来なくする方法(やはり殺人方法か?)
見られてまずい物=持ち込み禁止の刺身類(はー?)
見つかったら食べてしまえ=そのまま(ナットクする私)
それでは一体、羽柴さんは何処に消えたのだろう。
いつものミュージック、ジャ、ジャ、ジャーン
別働隊の親父達と合体して、玄関に全員で集まった。
「羽柴、はしばー、オレの店の飲み代なしにすっからよー、出てこーい」
親父は涙目になってきた。
「羽柴、オレは大黒レストランの大エビフライ奢るからよー」
たぬき屋物産店の椎名さんも涙目で怒鳴っている。
「羽柴さーん、この前縛ったの悪かったよー、ごめんよー」
松子も泣きながら、白状してしまった・・本人は知らなかったのに。
「許してやれー羽柴ー、松子も半分は冗談だったんだぞー」
じゃあ半分は本気で縛ったんじゃないか。
何はともあれ、全員が羽柴さんを心配してエール?を送っている。
山原屋旅館の玄関先は人だかりとなった。
「ことぶき屋の旦那さん、何の騒ぎですかー」親父の後ろから声がした。
「何の騒ぎって、行方不明だよ」
「誰がです?」
「誰がって、羽柴に決まってるべ」
「私はここに居ますけど・・・」
振り返る親父・・・「でたー」 ナンマイダ、ナンマイダ・・拝みこみ、逃げ惑う。
「あ、羽柴さん、無事だったんですかー」私は駆け寄って息を止めた。
「く、臭い」酒の匂いと土とカビと汗のブレンド?である。しかも良く見ると蜘蛛の巣だらけでもある。やはり何処かに監禁されていたのだろうか?尋常ではないのは確かであった。
「やだなーみんなして私をみてー」当然注目の的である。
実は羽柴さん、今までずっと自分の部屋にいたそうである。昨日、旅館に戻り、トイレに行ったそうだ。そして喉が渇いたのでビールを飲んでしまった。そうしたらこれが結構美味かったのでかなり飲んでしまったということだった。
そして朝、目ざましが鳴ったので一時目を開けたがまだ暗いので寝てしまったそうだ。結局今まで寝ていたのである。
しかし、羽柴さんの部屋は何度も確認したはずである。それなのになぜ気が付かなかったのか?疑問は残ったが、全員で部屋に入って、初めて納得した。
掛け布団の下に穴が開いていたのだ。それも床が抜けて畳の部分が下がり、人が丁度抜けるように穴が開いた。羽柴さんは朝目を開けたが、床下の為暗かったのでまだ夜明け前と勘違いして、今まで寝ていたそうである。
そして腹が空いて起きて来たというわけだった。
この話は数日間、笑い話の殿堂入りを果たし、「鳥わか」の話題を消してしまっていた。
そして・・・大黒レストランである。
私たちは大エビフライを食べに来ている。
メンバーはあの事件関係者、殆どである。
「今日は、羽柴君の復帰と風呂工事完成を祝して・・・」長い親父の挨拶で乾杯した。
山の人達は魚介類にもっぱら弱い、嫌な事もこれ一つで気分が晴れる。
全く海老はたいしたやつである・・・・そして山の温泉に乾杯!
絵・文 君島龍輝
