鯛 茶漬け
ややしばらく飲んだ後に食べる「茶づけ」は格別に美味い。
惜しいことに若いころは、本当の茶漬けを知らなかった。
料理屋に通えるようになって、初めて色々な茶漬けが有ることを知る。
19XX年11月中旬?
仕事が終わり、車で家に戻るころ、辺りの電気は消え、町は静だった。私は帰り道を迂回した。
それは、いつもの店スナック「インド」の営業中を確認するためだった。
「お、看板は点いているな」
車を自宅に置いて出直そうと思い、店の前を通り過ぎた。キ、キー、私は慌ててブレーキを踏んだ。
「店の前に誰か、立っていたな」私の親しい知人の顔だった。この寒い夜空に店にも入らず何をしているのだろうと、車を後進させた。
「杉ちゃん、どうしたの?」窓を開け聞いて見た。
「あっ、その声は君ちゃんだね」彼は先天性の盲目で有るが、明るく気が良い為、友達も多い。「インド」のママとは大の仲良しである。
「あれ、お店やって無いの?」と聞くと、「うん」と気弱に返事する杉ちゃん。
車を降りて見てみると、看板は点いているし、中から音楽も聞こえる。飾りガラスからは灯りさえ漏れている。ドアを叩いて見たが、返事はない。
考えられることは幾通りか有った。
一つ目、寝ている。 二つ目、酔っ払っている。 三つ目、店は開けたが気分が乗らない。等々理由は幾らでも有る。
とりあえず私は、二つ目の場合、飲まずに帰ろうと思う。
しかし、杉ちゃんに聞いて見ると、ママから電話が有り、今日のお通しは和食よと言われやってきたそうだ。少し遅れるけど待っててねと付け加えられていた。
「杉ちゃん、本当?和食って」首を思いっきり縦に振り「うん」と返事する杉ちゃん。「インド」で中華以外の物を食べられるなんて、奇跡だと思い、私も待つことにした。
「とりあえず寒いから、車の中でラジオでも聞いて待とうよ」杉ちゃんを乗せ、車で待つことにした。30分が過ぎたころ杉ちゃんに聞いて見た。
「約束って何時だったの?」「・・・」「えっ!、10時半?じゃあ1時間も外にいたの?」「うん」
私の推理は「インド」の開店時間が遅いのは、何でも北米時間?にセットしているという話だ。多分遅れて来ても「あ、今日からサマータイムよ」と冬場でも言いそうである。
ラジオからミスターロンリ―が聞こえてきた。
「あーあ、12時過ぎちゃったよ」と、嘆いていると、「トントン」とガラスを叩く音。
「なーにやってんの?君ちゃん。あれ、杉ちゃんも一緒だ。」ママがやっと帰ってきた。どうやら酔ってはいない様なので、車を置きに行くことにした。
「杉ちゃん、良かったね。じゃあ、車置いてすぐ来るよ」・・・「うん」と嬉しそうである。
私はほほ笑みながら「ママ、遅いんじゃないの?サマータイム?」ドアを開けると同時に口が開いた。
「あ、うち、一昨日からフレックスタイム制なの」
「・・・あ、そう」そのまま沈黙。
私は「ビール」小さな声で言った。完全に負けている。
「そういえば、今日のお通し和食だって?」ビールを飲みながら言ってみた。
「どうぞ」・・・?・・・?出てきたのは茶漬けだった。
「何で、飲みに来たそうそうに茶漬け、食べるわけ!」
「そうでしょう、ねー杉ちゃん!、あ、食べてる」しかも美味しそうに食べている。
「昨日は、鯛のお刺身だったの。日付が変わったから、今日はお茶漬け」
スーパーのパックを見せられた。確かに賞味期限は昨日だった。 龍
