私の得意料理に天ぷらが有る。油の温度と衣の温度で仕上がりが決まってしまう。
後は時間との戦いである。
ジュワ…ジュワ…チリ・・チリ・・チリ「よーし!頂き!」いっちょう上がりである。
タラの芽、山ウド、シラキの芽、岩魚に山女魚にニジマスと幼きころから食べていた。しかし何故、天ぷらかというと理由があった。姿容の良いものは売り物になってしまう。弾かれた具材をかき揚げにするわけだ。と言って味が落ちるわけでは無い。不ぞろいだが素晴らしき美味である。
天ぷらはニューヨークでも人気だった。ネタの違いは多少有ったがやはり美味かった。特に特大ぶつ切りロブスター、サボテン、アロエは衝撃だった。日本蕎麦屋に行くと車エビ等が主流になる。そして一番の違いは天ぷらが切れている事である。日本人なら切ってから揚げる所だが、揚げてから着るのだ。中の具材が客に解るようにと、食べやすさのようだ。そして蕎麦も短く切れているが、これは欧米人が麺を啜れない為である。
ところ変われど、天ぷら美味し!
2002年のころは日本とニューヨークとを通勤状態だった。しかし食事は和食が多かった。ス-パーで買うことも有ったが、私の活動エリア(ソーホー、ミッドタウン‥)では必ず日本食レストランが有ったからだ。だからNY発の飛行機で出される機内食の和食には感動しなかった。
事件が起きたのは、そんな飛行機にも慣れ始めのころだった。
「アテーション・プリーズ・・当機は間もなく着陸の準備に向かいます・・」アナウンスが流れる
「ああーもう日本か、早いものだな慣れてくると・・」周りに聞こえるように呟く。
「さーて、ベルトを確かめって」っと!深呼吸を一つして周りを振り向く・・・!?!?
「何やっているんだアイツ」
通路を挟み、私の右隣の後方2列目の若い男が携帯電話を掛けている。
なんて非常識な奴だ。今時、離着陸時で携帯電話を掛けようとする若者がいるのか!あー!しかも繋がりが悪いのか立てや横に携帯を振っている。ヤメロ―、飛行機が落ちるじゃないかー
「あっもしもし、おれ」繋がったのか?
「あれー変だなー」繋がるわけないだろう。着陸とはいえ電波より速く飛んでいるのだからと、私の頭はパ二クルのだった。
着陸7分前、人はこれを魔の時間と呼ぶ。私はそっと裏を見る。まだやっている。客室乗務員は気がつかないのか?魔の時間も半分を過ぎた。若者は再度チャレンジしている。ボタンの操作もやや早くなってきた。同じ番号に掛けているのだろう。
私は考えた。きっと重大な話が有るのだろう。仕事か?いや違う!、家族か?そうだ!きっと家族に重大な事を知らせなくてはならないのであろう。
「よし!許す。思いっきりかけろ!」命がけでやっているならしょうがない。後のことは私に任せなさい。邪魔がはいろうと私が阻止して見せる。・・・私は彼の熱意に負けた。。「そうだ応援しよう」
15分間に渡る彼の奮闘を私が見届ける使命と感動さえ覚えた。
魔の時間残り10秒
ボン!と大きな音がして機体が揺れ、そして無事に着陸した。
「当機は無事、成田国際空港に着陸致しました。又の・・・」アナウンスが飛行機の無事を告げた。
私の体は緊張の余り汗で充満していた。
「フー最後に降りるか」と横を見上げると彼が立っていた。
「飛行機はじめてですかー?電源入っていませんよー」と、携帯電話を私に向けた。
そして一礼して去っていった。
「・・・無言・・・やられたー、一本取られたー」私は笑みを浮かべ、器の大きさを、周りにアピールした。
後日、首筋の痛みは1週間つづいた。
絵・文 君島龍輝
