荒涼たる原野を越えると傾斜の低い森があった。景色は少しずつ色を取り戻し若木の多い茂ったその場所を更に奥に進むと、木々は草に変わり山岳地方独特の臭いが鼻についてきた。そこは小高い丘になっていた。エリックは清々しい朝の香りと新芽が息吹くこの季節を慈しむようなほがらかに笑みを作った。
一陣の風が吹き、エリックの背中にかかっていた長い金髪は風に弄ばれた。エリックは目を細めた。そして風が吹き終わらないうちに肩からかけていたリュートを取り出すと弦に指を絡め演奏を始めた。
どこか懐かしく心を暖かくさせる調べだった。音たちはまるでこの場所に戻りたかった、この場所で旋律を刻みたかったとでもいうように、空気を震わせ続けた。
エリックは辺りを見渡し心持つものがいないことを確認すると、歌い出した。
やがて歌い終わるとエリックは丘を下っていった。遠くには門が見えその門の前には褐色な肌の少年がいることに気づくとエリックの足は早くなり駆け足に変わった。
少年の身なりは肌の露出が多い服装だったが筋肉がついた身体つきだったので、それが余計に目立った。左手にはシールドを挟み腰にはブロードソードを差していた。エリックは少年の下まで駆け寄る。少年は破顔し両手を広げた。
「ヤンガス待っててくれたのかい。やぁ撲嬉しいなぁ二年ぶりだ!」
エリックはヤンガスの胸の中に飛び込みいった。
ヤンガスは何度もうなずきながらエリックの背中を叩いた。
「そうか、君もこの日を心待ちにしてたんだね。あれから二年か……長いようで短いような年月だった」
エリックがそう言うとヤンガスは表情を曇らせた。
「気遣ってくれてありがとう、でもいつかは必ず見つかるさ、だって母さんは生きてるんだもの、聖都の偉い人が情報を教えてくれればいいんだけどねぇ、何だかあそこは鉄壁なんだ。撲の情報や話術が通用しないから」
ヤンガスはうなずいた。そしてエリックの手の甲を取るとそこに、文字を書き始めた。そこには「お腹はすいたか?」と書かれていた。
「うん、もうぺこぺこだよ、エルダが近いと思うと休憩そっちのけで来ちゃったから」
ヤンガスはうなずきながら笑った。
エルダは農業を中心とした山村だった。人口は少なく村の殆どは田畑で、東と西にひっそりと家屋が並んでいた。村の中央には大きな水車があって今も村人たちでそこは賑わっていた。二人が通るたびに村人は作業をやめ、二年ぶりに帰省したエリックを労ったり、幼子たちはエリックをよそ者だと勘違いをしからかい、母親に耳をつねられるのであった。東から二軒目の家屋の前に老夫婦が二人並んで手を振っていた。エリックは居住まいを正してから、二人の目の前で止まると頭を下げた。
「今帰りました――」
エリックがいい終わらないうちに老婆はエリックの細い身体を力いっぱい抱きしめた。
「ああ、エリックよく無事で、旅は実らずとも我が子は無事」
「何よりじゃ」
老人達二人に抱きしめられ、エリックは二年間の思い出が蘇り、目を潤ませた。
「ありがとうございます。母さん、父さん、そしてヤンガス兄さん」
ヤンガスはゆっくりとうなずいた。
エリックは何も変わらない我が家を見渡した。
教会に預けられ六歳になったエリックはこのエルダ村のエーサー家の養子になった。夫妻は敬虔なイースター信者でよく聖都に赴いていたのだが、そこにヤンガスも物心つく前から訪れていた。そしてエリックに出会ったのだった。ヤンガスは人口の多い聖都が嫌いだった。それは耳が不自由なために虐めにあってしまうからだったが、エリックは左手を差し出した。
ヤンガスはそのときのエリックの笑顔を未だに忘れることができない。
そうして二人は親友であり兄弟であるという間柄になったのだ。
「何も変わってないね」
ヤンガスは部屋の片隅を指差した。そこには鎧が一式あった。この部屋の中はよく整理されているが、決して贅沢な部屋ではないだからだろうか、忽然とその鎧はあった。「プレートメイル……ヤンガス本気だったんだね。騎士になって撲と旅がしたいって……」
ヤンガスは真剣な目をしてうなずいた。そして口と耳を指差した。
「原因不明だもんね……聖都の高名な神官でさえ理旋律は身体に働いているというし……でもどうして騎士なんだい?」
ヤンガスは驚いて顔を上げた。そして何かに気づいたように、エリックの左手の甲に「守りたいから」と書いた。
「何を? どうして?」
ヤンガスは天井を暫く見上げ両手を広げ肩を竦めた。エリックは笑った。
「でも、ヤンガスの耳を治す治療方法と撲の母親探し、大変な旅になりそうだね」
エリックはそこで台所の方を向いて、
「ヤンガス、父さんたちには話したの?」
ヤンガスは腕を組んで眉をひそめた。
「もしかしてまだ話してないの?」
ヤンガスは力なく頭を下げた。
エリックはいつにもまして饒舌だった。夕食の暗い雰囲気を押し払うように次ぎから次へと話題をふった。
三人はエリックの大げさな冒険譚を聞きながら、時には笑い時には質問を投げかけいたが、それも長くは続かず静けさは満ちていった。
「あっという間だった、儂の腰の上でぴょんぴょんと跳ねていた二人が、こんなに大きくなってなぁ、大人になろうとしとる」
そういって父は両手を祈るように合わせた。
「とても仲が良くて喧嘩なんて母さん一度もみたことがなかった……耳の不自由なヤンガスの耳になって口になって、身体の弱いエリックの手となって足となって二人はやってきたのねぇ……あなたたち二人は本当の兄弟じゃないけれど、血の繋がりよりも濃い繋がりがあるのよ」
母は目を閉じた。
「ヤンガスの治療のときに、聖都にいったじゃろうエリック。あのとき神官様はおまえたちに繋がる理旋律は白に近い青色だといっておった」
エリックは口を開け、しばらく言葉を失った。理旋律の色とは無色になるほど強力だと言われている。そこで父の白に近い青という言葉を聞いてエリックはひっくり返りそうになった。ヤンガスは気づいていないだろうが、エリックは呪歌、聖歌を独学で学びマナーリを声と言葉に載せて能力を発動させることができるのだが、その現象は理旋律とは切っても切れない関係なのだ。
エリックが苦慮しているとヤンガスはおもむろに立ち上がった。そして鎧のある所まで歩くとゆっくりとそれを身体に装着させていった。
しばらくしてプレートメイルに身を包んだヤンガスは父と、母の前に立つと拳を胸に当て腰を折って礼をした。それから父の手の甲を取ると、こう書いた。
「旅に出ます父さん」
同じく母の手を取ると「旅に出ます母さん」と書いた。
二人は丘に立っていた。ヤンガスは革の鎧を着て、エリックはマントを羽織っていた。 ここからはエルダの町並みが見渡せる。
「ヤンガスしっかりと目にやきつけておくんだよ」
ヤンガスは神妙な瞳でうなずいた。
「撲らが帰って来る場所だからね」
そういってエリックは笑いだした。ヤンガスは首を少しだけ傾けた。
「ノーマルのプレートメイルなんて装着して旅ができるわけがないよ、ヤンガス」
ヤンガスは両手を組んでぶすっとした。
「あんな重い物、無理無理」
エリックは腹を抱えて笑いだした。それを見てヤンガスは悔しくなったのだろう、背中に背負っているタワーシールドを叩いた。
「何? このシールドさえあれば大丈夫だって?」
ヤンガスは何度もうなずいた。
「革鎧にタワーシールド、そもそも騎士は旅をしないんだよヤンガス」
ついにヤンガスはエリックから顔を背けそっぼを向いた。短い髪の毛は少しだけ揺れた。
「そんな怒らないでよ、遺跡を探せば軽量化のかかった鎧が見つかるかもしれないし」 ヤンガスはエリックの腕を取って手の甲に「そこに行こう」と書いた。
「僕らの旅の目的を忘れないでよ、でもさそうやって、目的から少しずれることも大事なことかもしれないね」
エリックがそう言うと大量に荷物を抱えたヤンガスは歩き出した。
「待ってよ、遺跡は危険だよとてもね」
ヤンガスは何度もうなずいていた。もう心は騎士という名の鎧を手に入れているのかもしれなかった。
お久しぶりです。イミタンです。
更新の頻度がかなり減ってますが、相方さんに昔作ったファンタジー物がもう一度読みたいと言われたので、「グレープアイランド戦乱記」を更新していきます。
さくっと推敲だけして乗せているので、問題ありかもしれないです。
他の短編については、もうほんとに気分でアップします。
ウレハについて
これはもう片手間で書くということができない作品です。
自分の中では趣味の範囲を超えちゃってます。
文章レベルがあまりに稚拙なので、もったいないです。
本当、書き直したいくらいです。
でも、構成や土台が出来上がってるので、本当に良い作品だと思います。
なので書けるときに書こうと思ってます。
二部は山中椿がヒロインです。
プロローグのタイトルは「私の足長おじさん」です。
ほんとウレハ書けたらいいなぁ……。
ではまたチェックチェック
更新の頻度がかなり減ってますが、相方さんに昔作ったファンタジー物がもう一度読みたいと言われたので、「グレープアイランド戦乱記」を更新していきます。
さくっと推敲だけして乗せているので、問題ありかもしれないです。
他の短編については、もうほんとに気分でアップします。
ウレハについて
これはもう片手間で書くということができない作品です。
自分の中では趣味の範囲を超えちゃってます。
文章レベルがあまりに稚拙なので、もったいないです。
本当、書き直したいくらいです。
でも、構成や土台が出来上がってるので、本当に良い作品だと思います。
なので書けるときに書こうと思ってます。
二部は山中椿がヒロインです。
プロローグのタイトルは「私の足長おじさん」です。
ほんとウレハ書けたらいいなぁ……。
ではまたチェックチェック
純白の衣を反射する床には埃一つなかった。
しかしその超大に続く大理石の上を右往左往人々が慌ただしく動き回り、大聖堂の奥の院に向かって伸びていた。女性神官は居住まいも正さず扉を叩いた。
「ジルハ様ジルハ様大変でございます」
髪を振り乱しながら女は名前を呼んだ。何度も何度も、しばらくして扉は開いた。
「様はやめてください。何事でございましょう?」
呼ばれた少女は金髪に碧眼、意志の灯った目力で女性神官を見つめた。
「ジルハ様大変でございます」
「ヨルグ落ち着いてくださいませ」
女性神官は両手を広げた。
「落ち着いてなんかいられません!」
少女は目を大きく見開いてから太陽を模した首飾りを握った。
「申し訳ございません」
「何があったのでしょうか?」
少女はそういってから扉の隙間に目を移した。そして中央にある伽藍に人が尋常でないほど集まっているのを見て、ただごとではないと予感した。
「セルゲイ神官長様が――」
「ヨルグ、私たち旧派は階級や派閥を持ちません。あなた方がひそかに使っていることは知っておりますが、私はそれを許しません」
少女は毅然と言い放った。年長者である女性神官は息をのんだ。
「失礼しました」
少女は目礼で答え先を促した。
「最近、このシルマ大陸で地震が頻発しているのは御存じかと思います。私たち神官は天門会を開き神のお声を毎日伺い、祈りを捧げております。サルマド魔法学術院と連携を取り西に東に支部を行き来し、ここ聖都――」
少女は女を見上げた。
「ヨルグ?」
少女に呼びかけられると女は、自分が肝心なことを何も言っていないことに気づいたのだろう唇を噛んだ。
「ヨルグ?」
女の顔は次第に青ざめていき、息を吸い込むと女はいった。
「イースター神のお声が聞こえないでのです!」
そして少女に向かって倒れていった。少女の身体では大人である彼女を支えきることはできず、二人は大理石の床に転がった。
少女は女を横にし自らは女の身体から抜け出し、楽な姿勢に寝かし直すと立ち上がった。
目を瞑り女の額に手をかざした。
「イースターよこの者に癒しを与えよ」
しばらくして少女の掌は光で包まれた。そして女の身体の輪郭が浮かび上がるように明滅すると光は更に強くなった。
少女は光り輝く部屋を見渡した。
「どうしたというの!」
「我の最期の使徒よ、よく聞きなさい。今すぐ詠唱を断ち切るのです」
静寂が波打った。
「イースターよ、これは一体どういうことなのでしょうか? 私は初級の癒しを使ったに過ぎません」
「良く聞きなさい最期の使徒ジルハよ、私の残された時間はもう余りないのです。
悪しき手の者によって長い時代も終わろうとしています。ジルハよ集中を今すぐ解くのです。でないとあなたは――」
「できません! この集中をとくとイースター、あなたと!」
「良く聞きなさい、いいですか? 私は滅びますしかしこの力と意志は、最期の使徒であるあなたに引き継がれるのです――しかし……あなたはこの力を使えば使うほど命を削ってしまいます。私がいなくなるということはマナーリが消えてしまうということですから……だからわかりますね? 本当に」
そこで声は途切れた。しゃらんと空間が弾けた瞬間、少女は苦しそうに顔を歪めた。
西日が差し込み少女は無表情で窓を眺めた。小鳥が窓の縁に止まりさえずっていた。そして空に向かって飛び立ったちょうどそのとき、少女は大量の血を口から吐いた。少女の純白な神官着は真っ赤に染まった。
しかしその超大に続く大理石の上を右往左往人々が慌ただしく動き回り、大聖堂の奥の院に向かって伸びていた。女性神官は居住まいも正さず扉を叩いた。
「ジルハ様ジルハ様大変でございます」
髪を振り乱しながら女は名前を呼んだ。何度も何度も、しばらくして扉は開いた。
「様はやめてください。何事でございましょう?」
呼ばれた少女は金髪に碧眼、意志の灯った目力で女性神官を見つめた。
「ジルハ様大変でございます」
「ヨルグ落ち着いてくださいませ」
女性神官は両手を広げた。
「落ち着いてなんかいられません!」
少女は目を大きく見開いてから太陽を模した首飾りを握った。
「申し訳ございません」
「何があったのでしょうか?」
少女はそういってから扉の隙間に目を移した。そして中央にある伽藍に人が尋常でないほど集まっているのを見て、ただごとではないと予感した。
「セルゲイ神官長様が――」
「ヨルグ、私たち旧派は階級や派閥を持ちません。あなた方がひそかに使っていることは知っておりますが、私はそれを許しません」
少女は毅然と言い放った。年長者である女性神官は息をのんだ。
「失礼しました」
少女は目礼で答え先を促した。
「最近、このシルマ大陸で地震が頻発しているのは御存じかと思います。私たち神官は天門会を開き神のお声を毎日伺い、祈りを捧げております。サルマド魔法学術院と連携を取り西に東に支部を行き来し、ここ聖都――」
少女は女を見上げた。
「ヨルグ?」
少女に呼びかけられると女は、自分が肝心なことを何も言っていないことに気づいたのだろう唇を噛んだ。
「ヨルグ?」
女の顔は次第に青ざめていき、息を吸い込むと女はいった。
「イースター神のお声が聞こえないでのです!」
そして少女に向かって倒れていった。少女の身体では大人である彼女を支えきることはできず、二人は大理石の床に転がった。
少女は女を横にし自らは女の身体から抜け出し、楽な姿勢に寝かし直すと立ち上がった。
目を瞑り女の額に手をかざした。
「イースターよこの者に癒しを与えよ」
しばらくして少女の掌は光で包まれた。そして女の身体の輪郭が浮かび上がるように明滅すると光は更に強くなった。
少女は光り輝く部屋を見渡した。
「どうしたというの!」
「我の最期の使徒よ、よく聞きなさい。今すぐ詠唱を断ち切るのです」
静寂が波打った。
「イースターよ、これは一体どういうことなのでしょうか? 私は初級の癒しを使ったに過ぎません」
「良く聞きなさい最期の使徒ジルハよ、私の残された時間はもう余りないのです。
悪しき手の者によって長い時代も終わろうとしています。ジルハよ集中を今すぐ解くのです。でないとあなたは――」
「できません! この集中をとくとイースター、あなたと!」
「良く聞きなさい、いいですか? 私は滅びますしかしこの力と意志は、最期の使徒であるあなたに引き継がれるのです――しかし……あなたはこの力を使えば使うほど命を削ってしまいます。私がいなくなるということはマナーリが消えてしまうということですから……だからわかりますね? 本当に」
そこで声は途切れた。しゃらんと空間が弾けた瞬間、少女は苦しそうに顔を歪めた。
西日が差し込み少女は無表情で窓を眺めた。小鳥が窓の縁に止まりさえずっていた。そして空に向かって飛び立ったちょうどそのとき、少女は大量の血を口から吐いた。少女の純白な神官着は真っ赤に染まった。